short | ナノ
あの恋が追いかけてくる
「ねぇ、俺様ずっと気になってたんだけどさあ」
うららかな陽気がとても気持ちいい午後十二時過ぎ、私は窓際の自分の席で本を読んでいた。突然話しかけてきた同じクラスの猿飛くんの言葉に本から視線を上げ、私の前の席に座っている猿飛くんを見た。オレンジ色の髪の毛が眩しい。
「なんで、おとなしい名前ちゃんが旦那と付き合おうと思ったの?学年も違うし……あ、全然悪い意味じゃないからね!よく旦那の告白をOKしたなって意味で」
猿飛くんが慌てて両手を目の前で振った。大丈夫、わかってるよと笑ったらほっとした顔をしていた。それより、旦那、とは……幸村くんのことだろうか。幸村くんのお家は道場をやっているから、その関係でそんな呼び方なのかな?まぁ、いいや。
私はかけていた眼鏡をはずして猿飛くんから視線をそらし、グラウンドのほうを見た。幸村くんが伊達くんとサッカーをして遊んでいる。笑っている顔がきらきら見えるのは、決して私の贔屓目からではないだろう。体を動かしているときの彼は、生き生きしている。
「すごいね、真っ直ぐな人だと思ったの」
「旦那が?まぁ、よく言ったらそうだよね」
「こんな私に、真っ直ぐに思いを伝えてくれたことが、嬉しかったから」
「うっとうしくなかったの?」
「あはは!最初のうちは、ちょっとね。でも、何回も何回も素直な気持ちを言われたら、嬉しくなって、ね」
猿飛くんはふーん、と首を動かして、ガラッと窓を開けた。だああああんなあああ!大きな声で幸村くんを呼んで、私のほうを指差した。
「旦那!愛されてんね!!!」
「名前殿おおおおお!今日は一緒に帰る日でござるよおおおお!!!」
横にいると錯覚しそうなくらい大きな声で幸村くんが言って来た。グラウンドの幸村くんは両手を大きく振って、その存在をアピールしている。大型犬を思い出した。
私はそんなに大きい声なんて出ないから、返事のかわりに笑って手を振り替えしたら、よくわからないけど大声で叫んでサッカーに戻っていった。伊達くんにからかわれている。
「旦那、真っ赤になっちゃって」
「だから、好きなの」
あの恋が追いかけてくる
title by 確かに恋だった