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Heaven



「またそこに居るの?」


頬にそばかすがある女の人が私に問いかけてきた。私は真っ白なもふもふな地面に両肘をついてうつ伏せに寝転がっている。
私が見ているのは、ここへ来た人が必ず通らないといけない扉。残念ながら私は、彼より先に人生からリタイアしてしまった。彼はたぶん私が死んでしまったことを知らない。だから、彼が年老いてよぼよぼになってここへ来たら、遅かったねって真っ先に笑って、人生楽しかった?と抱きしめてあげる予定だ。たとえそれが何十年先でも。


「まだまだ先だとは分かってるんですけど、待ってるんです。一番最初に、会いたいから」
「そんなに愛してくれる人に出会って、あの子は幸せ者ね」
「ルージュ、行こう」


あの子?女の人の言葉を詳しく聞く前に、彼女は男の人に肩を抱かれて一緒に街のある方へ行ってしまった。そういえばあの人、海賊王の人だ。海賊と、そばかす。あの人たちの特徴を合わせると、彼になった。
そろそろ夕方になる。こっちの世界にも朝昼晩と時間はきちんと合って、ここに来た頃はびっくりした。夕方になると、この世界はオレンジ色に染まる。その色が、彼のかぶっていた帽子とか、彼が笑いながら見せてくれた指先から出る炎に似ていて、私は、この時間が一番好き。

そんなことを考えていたら、鈍い音をたてながら大きな扉が開いた。外から、ぞろぞろとたくさんの男の人が入ってくる。こんなに、大勢。戦争か何かで死んでしまったのかな。
彼らは一様に、オヤジ、とか、正義が、と呟いていた。みたところ海賊と海軍。でもこの世界に来たら誰でも戦意が喪失するみたいで、争いだす気配はない。

たくさんの男の人にまぎれて、懐かしい、オレンジ色のテンガロンハットが見えた。


ほぼ無意識のうちに起き上って、離れていくオレンジ色を追う。たくさんの人をかき分けて、ゆらゆら前へ進んでいるオレンジ色を目指す。


「エース!!」


彼の名が口から飛び出た。ピタ、帽子は前へ進むのをやめて、ゆっくりこちらに振り返る。まわりに居た人がなんだなんだと私を見ている。でも、そんなことどうでもよくなるくらい、早く、振り返ってほしかった。

振り返ったエースと目があった瞬間、衝動的に走り出した。


「エース!!!」
「お、まえ、なんで………!?」
「エース、エース、あ、会いた、かった……!!」


生きている頃に会ったときよりも少し背が伸びてたくましくなったエースに飛び付く。はやかったね、とか、もっとゆくりしてくればよかったのに、とか、なんでこんな早くに?とかいろいろ言いたいことはあったけど、口から出るのは彼の名前ばかりだった。三年ぶりの彼の体温が、愛しい。


「ねえ、エース、」


エースも早々とここへきてしまったけど、悲嘆にくれた顔はしていなかった。むしろ、穏やかな顔をしていた。だから私は、彼の頬を両手で挟んで、ちゃんと目を合わせて聞いた。エースの目に涙が浮かんでいる。


「しあわせ、だった?」




heaven
(俺はっ、幸せ、だった……!)
(愛してくれる奴が、たくさん、いたんだ!)



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