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キスに師匠なし



ガシッ。
パウリーさんの手が私の肩をつかんだ。服越しにもその手がとても熱を持っているのが分かる。私にまで熱が移ったように、頬が熱くなった。
すぐ近くにあるパウリーさんの真剣な目が、私を捕らえ続けるから、私も目を逸らすわけにもいかずに、ただ二人でしばらくの間見つめあっていた。
手のひらが、私の唇をもったいぶったように撫でた。


「パウリーさん……」
「わかってる。ちょっと待て、俺にも心の準備ってもんがだな、」


パウリーさんはそう言って静かに深呼吸をした。顔が近いから、すこし息が当たって、顔の熱が増した。どきどきどきどき、まるで心臓が耳元に来たように感じるほど、自分の鼓動の音がうるさい。パウリーさんに聞こえてるんじゃないだろうか。そうだとしたら、すごく恥ずかしい。


「あ、の」
「……なんだ?今更やっぱりやめてとかなしだぜ?」
「あ、違います。え、と」


私の心臓の音、聞こえちゃってませんか?
息を吐くのと同じくらいの大きさの声で言ったのに、距離が近いから普通に聞かれていた。さっきまで赤かったパウリーさんの顔がもっと赤くなる。
唇を撫でていたパウリーさんの手が離れて、私の空いているほうの肩をつかんだ。これで完璧に逃げられなくなった。


「ん、んなもん聞こえるか!第一、俺のほうが、その、……うるせぇ、くらいだし、よ」


声を荒げたパウリーさんと比例して、私の肩を持つ手にも力が入った。すこし痛かった。すぐに察してくれたらしいパウリーさんが慌てたように手の力を緩める。


「わり!」
「いえ、平気、です」
「そう、か…………」
「はい………」


会話が途切れる。
そろそろこの恰好でいるのにも我慢の限界がきて、まだですか?と目でパウリーさんに訴えると、パウリーさんの喉が鳴った。
絶対目開けるなよ。
真っ赤な顔でそう凄まれて、私は大人しく目を瞑った。少し荒いパウリーさんの息遣いがさっきよりもよく聞こえる。


少し待って、唇の端に、柔らかいものが触れた。


「そこ、ですか」
「……、わりぃ。……、きす、なんて、始めてだからよ」





キスに師匠なし

(自分まで目瞑っちゃ、唇どこか分かんねェじゃねぇか!俺のバカ野郎!)
(なんで、口の端だったんだろう……?)








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企画サイト「忠犬」様に提出
参加させていただきありがとうございました!




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