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帰らぬ人


「はぁ」


ぷかぷか、煙が空に昇って行って空気と混ざって消えた。アイツの中で私の存在は、この煙のようにそこかしこに消えてしまってるんだろうか。一向に鳴らない電伝虫を睨み付けて、また息を吐いた。

追いかけなきゃならねェやつがいる、とかなんとか言ってここを出て行ったのはもう随分昔の話になる。置いてきぼりにされた山積みの葉巻と彼が使っていたタオルだけが彼がいたことが夢じゃないと教えてくれる。彼の真似をして葉巻を二本加えてみようとしたけれど、口が痛くなってやめた。顎関節症にでもなったらどうしてくれるんだアイツめ。

肩にかけていた彼と同じコートを脱いで、ワイシャツも脱ぐ。サラシだけになってからコートを着てみる。これで彼と同じ格好だ。
少しは寂しさがまぎれるかと思ったけど、全然そんなことなかった。むしろ虚しさ倍増。部屋にしみついて離れない葉巻の匂いがそれに追い打ちをかける。


「……バカ」


ついた悪態も、すぐに空気になって消えていった。やっぱり私も空気になって、消えてるのかな。ボスッ、ソファーに向かって全力で倒れこんだ。


「お前……俺がいねェ間に頭でもおかしくなったか?」
「!?」


もうほとんど忘れかけていた声が扉のほう
から聞こえて、飛び起きる。もくもくもく、たくさんの煙を排出しながら立ってたのは、ずっとずっとずっと待って、それでも来なかったスモーカーだった。自分の顔が歪んだのが分かった。


「なんだ?んな変な顔しやがって」
「………スモーカー、」
「あぁ。遅くなった」


それは俺のコスプレでもしてたのか?スモーカーの大きな手が私の頭に伸びた。
私もソファーから飛び起きて、スモーカーに抱き着こうと腕を伸ばした。



帰らぬ人
(て抱き着くと思った?ねぇ思った?何ヶ月よ、何ヶ月放置プレイしたと思ってんのねぇいい加減にしてくんない私放置プレイとか悦ばないんですけどわかってんでしょ電話するつったの誰よえ?)
(……わるかった)





title by 花畑心中



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