いろはにほへと | ナノ
俺は次期家元
「あ、あのっ!」
「ん?……、杜山さん、……だったよな。どしたん?」
「水野くん、って、華道の名門の、あの、水野っ!?」
休み時間、めったに奥村から離れない杜山さんが俺のところに来てそう聞いてきた。
なんつーか、意外だ。ここに来てまでその話題が出るとは。
普通に生活していればよく聞かれるが、なんつったって、ここは祓魔塾だ。まさか華道の家を知ってる人がおるなんて思わなかった。
「おん、そーだよ。杜山さん、よく知っとんなぁ、岡山の華道家やこ」
「うちの、おばあちゃんが好きだったの!お花が生き生きして見えるって!」
「はは、そりゃ嬉しいなぁ。ありがとな」
「ううん!……それで、あの、ね、」
そう言うと杜山さんは俯いて喋らんくなった。あれ、どうしたんじゃろ。
俺が困っとったら、向こうから奥村もやって来た。少し仏頂面をして。
なんで仏頂面なん?あ、もしや、ははーん。奥村は杜山さん好きなんな。
「お前に花生けてもらいたいらしーぜ!」
「あ、そうなん。なんなぁ、そんなことお安いご用じゃ」
「本当に!?約束だよ!」
「うん、約束」
そう言って指切りして杜山さんと奥村はもとの席に帰っていった。ちらちら俺を威嚇してくる奥村がほんまおもしろかった。今度からかってやろう。
さて、次の授業は奥村先生の授業だから、予習でもするかな、と鞄の中から教科書を取り出した俺に話しかけてきたのは、例の京都の三人組だった。
「水野さんって、華道してはったんですねぇ」
「せやからお前着物やったんか」
「着物はもうクセでなぁ。こっちのが楽なんよ。あ、ちゃんと学校のときは制服だぜ?」
「そういや、あっちで会ったことないなぁ」
「水野くんは、跡継がはるん?」
「おん、継ぐつもり。だから次期家元やな」
「お前、ぼへーっとしとるように見えて実はすごかったんやな」
「それ失礼じゃわ勝呂。俺だって一応すげんだぞ」
「一応ですけどね〜」
「志摩黙っとけよお前」
馬鹿にした笑顔の志摩をとりあえずタコ殴りにしといた。勝呂には俺勝てる気せんけど、お前なら勝てる!
杜山さんと指切りをしました。