いろはにほへと | ナノ
暗所恐怖症です


「はぁ、……お前らが喧嘩するのはお前らの勝手だけどさーあー」


俺まで巻き込むなよ!
俺の渾身の心の叫びは奥村先生のうるさい!の一言でさようならしてしまった。うううう、何も正座した足の上に囀石置くこたぁねーだろ。恨みをこめて奥村先生を睨んだが、奥村先生にダメージは少しも与えられなかった。奥村がたまにホクロメガネえええ!と叫んでいるけど、今ならその気持ち分かる気がする。このホクロメガネめ。

ことの発端は今日の授業中。いきなり勝呂と神木さんが喧嘩し始めた。俺は思いっきり居眠りしてたから何が原因でどっちが先に吹っかけたのかは知らないが、まったくもって傍迷惑な話だ。俺が大きな音にびっくりして起きたら、なぜか奥村が神木さんにしばかれとった。ほんで、ブチ切れた奥村先生が俺たちに囀石の刑を言い渡した。ということです。
俺や京都組のやつらなんかは家が家なので正座つってもそんなに苦じゃなく、ってあれ、子猫丸念仏唱えてる、けど、……まあ、正座は慣れっこなんで平気だ。神木さんも意外に平気そうな顔しとんなー。宝くんもか。杜山さんはえーなー。和服だから正座似合うなー。俺も今日着物にしときゃよかったかな。いやでも奥村先生にできるだけ制服でって言われてたから仕方ないか。んで、当然のことながら奥村なんかは正座に慣れてないらしく、開始三分でもう死にそうな顔してた。


「連帯責任てやつです」


奥村先生はそっから長く長くこの合宿の目的やら祓魔師の心得的なものやらを話して、挙句任務だからとどっかへ行ってしまった。


「僕が戻るまで三時間、皆で仲良く頭を冷やしてください」


ニッコリ、いい笑顔で奥村先生は出て行った。
バタン、扉が閉まって足音が遠ざかっていく。完璧に足音が聞こえなくなってから、



「くっそおおおおあんのホクロメガネええええ!!俺には朴さんのお見舞いという使命があんのにああああ!」
「お前とあの先生、ほんまに血ぃつなごうとるんか」
「…ほ…本当はいいやつなんだ…きっとそうだ」


そうだ、俺はこの囀石の刑が終わったら朴さんのお見舞いに行くつもりでいた。朴さんは好きだ。単純にこの塾で一番いい人そうだからだけど。あ、恋愛とかそういうんじゃねぇよ。人として好きだ。だから、すごい、心配で、お見舞いに、行こう、と……


「うぐっ、三時間、三時間も後かあ」
「泣きてーのはこっちだ!なんでこいつら俺はさんでケンカするんだよ!」


こいつら、といって奥村が指差したのは勝呂と神木さんだった。んなもん知るかバカ!あーバカって言ったほうがバカなんだぞ!奥村と二人で不毛な言い争いをしていたら、急に電気が消えた。


「っ!?」
「ぎゃああ」
「あだっ、ちょ…どこ…」
「何だッ!?」


少しして、誰かが携帯を開いた。ディスプレイの光で周りが少し明るくなる。


「ぶふぉ!誠くんどしたんその顔!!」
「こわ、こわ、暗いの、俺、こわっ、こわくてうええええええ」
「あの先生電気まで消していきはったんか!?」
「まさかそんな……」


一番近くにいた廉造にしがみつく。俺、暗いの怖い。暗いの嫌い。


「廊下出てみよ」
「ま、待てよれんぞ!」
「誠くんうっとおしいわ、坊んとこ行っとき」
「す、ぐろ」

フラフラ、勝呂のところに行ってすぐ横に座る。その様子を見た廉造がまた噴出した。ちくしょう、明るかったらお前フルボッコだからな。


「誠くんと違おて、俺こういうハプニングわくわくする性質なんやよ。リアル肝だめし………」


バタン


「なんやろ、目え悪なったかな」


「現実や現実!」


「ぎゃあああああああ!出た出たまじもんんんん!!!」





暗闇のなかの屍はほんとに気ぃ失いそうになるくらい怖かった。


奥村先生のせいで大変なことになりました。





 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -