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「おそい」



力の差は、圧倒的だった。夕のまわりの一定の距離の中に入ることさえできず、浪士たちはただ切られていくだけだった。

最初の一人に手刀を喰らわし気絶させる。そいつから剣を奪い、その剣が血を吸って使えなくなればまた敵から奪い、それの繰り返しだった。だから実質、夕は自分の剣は鞘から抜いてすらない。


「うじゃうじゃうじゃうじゃ、気持ち悪いなあ。ハエか何か?」
「う、わああああああ!」


平助と同じくらいの年頃の子が切りかかってくる。若いのに、かわいそうに。そう呟いて夕は眉根を寄せ、その子の心臓に剣を突き立てた。後ろから切りかかってきたやつは蹴りを喰らわす。

相手の数は最初より半分以下に減っている。けれど夕の息も大分上がっている。


夕の足が、とうとうもつれた。


「いまだ!」


ふらついた隙をついて一人切りかかってきた。そいつを倒すことに集中しすぎて、左から来たやつへの反応が遅れてしまった。急所ははずしたが、左の太ももに、激痛が走る。


「っ!!!」


唇をかみしめ何とか踏ん張る。左から来たやつも首を切り落とす。




どうやらそいつが最後だったらしく、もう夕を狙うやつは居なくなった。夕はゆっくり周りを見渡し、その場にしゃがみこんだ。


「あー……、いった……。やられた。痛い。もう、さいあく………」



「原田組長!こっちです!夕さんがっ!」
「夕!大丈夫か!夕!!」


意識が危うく飛びそうになったとき、田中が叫びながら原田を連れてきていた。静香は後ろを振り返り、息を切らしながら走ってきてくれた原田を見た瞬間、泣いた。
安心と、痛さと、原田が来てくれたことの嬉しさとで、涙が止まることはなかった。


「左之、おそい」




安堵





 





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