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「手加減」


「今日は刀」
「夕と刀でやんのは嫌なんだがな……」
「や、ほんと申し訳ない」


左之は木刀を二本持って私のほうへ歩いてきた。私の表情も、左之の表情もあまりよろしくない。私も左之も、槍のほうが得意なのだ。


「あー、叶うことなら、槍だけ使ってたいなあ」
「そうも言えねーだろ。俺もそうは思うがな」


二人そろってため息をつく。千鶴がそんな私たちを見て不思議そうな顔をした。
あ、さっき道場まで来る途中に千鶴から名前呼びの許可をとった。かわりに私のことも夕でいいと言ったら、夕さんで。って言われた。女の子に名前を呼ばれることは滅多にないので、なんだか新鮮な気分だ。でもなんか、いいもんだな。夕さんて呼ばれるの。


「なんでお二人とも槍がいいんですか?」
「槍のほうが得意なんだよ。俺は」
「槍のが好きだから」
「夕さんは剣はお嫌いなんですか?」
「夕は剣術に関しては手加減てものが一切ないんだもんなー。相手したやつはいっつもはんぱねぇ量の痣が出来んの」
「お強いんですね!」
「……そんないいもんじゃないよ。ただ、殺すしか出来ないんだ」


左之に一言誤っておく。新八とか総司とやると、それこそどちらかが死ぬんじゃないかって程白熱してしまう。でも左之は相手の攻撃を受け流すのが得意だから、一番私が怪我をさせるのが少ない。だから私の剣の稽古の相手は専ら左之だ。


「そろそろやるか」
「じゃ、うまく避けてね」


木刀を持って対峙する。道場の空気が一気に張り詰めた。少し離れたところで稽古をしていた他の隊士たちが周りに集まってくるのがわかる。
だれかが生唾を飲み込んだ音が、やけに大きく響いた。


「はじめ!」


平助のその声に反応して、ほぼ二人同時に飛び出す。



稽古




 





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