log | ナノ 相合傘
「平和島、くん?」
「なんすか」
「肩、濡れてない?」
「濡れてない、っす。傘ちゃんと入ってるんで」
高校のとき俺のことを怖がらなかった唯一の普通の先輩、真子先輩とたまたま駅で会って、たまたまそのとき雨が降っていて、たまたま俺が傘持ってて、たまたま先輩が傘を忘れていて、俺は勇気を出して先輩を送ることにした。
別れ際に雨が降りそうだからとビニール傘を渡してくれたトムさんに土下座の勢いで礼を言いたい。
にしても、こんなに近づくものなのか、その……相合傘ってのは。
「っ……」
「あ、すんません」
「あ、違うの。びっくりして」
パラパラと傘に雫が落ちる音がやけに大きく響く。ちらっと盗み見た先輩の髪の間から覗く耳が真っ赤で、俺までつられて顔に熱が集まった気がした。いや、俺も多分もともと顔赤かっただろうけど。
先輩が雨に濡れないようにと傾けた傘が揺れる。
「平和島くん、もっとこっち来なよ」
俺の肩が濡れているのを見かねたのか、小波先輩は俺のシャツの袖を控えめにつかんで、俺を見上げてきた。
鼻血が出ていないか、本気で心配した。
雨の日ハニー