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花粉症です


「っくしゅ」

花粉がひどい。はんぱない。最近の若者風に言えば、パネェ、って言うんだろうか。ちょっと待て自分、きもいぞ。いやそれより、若者風って、私高校生。若者じゃないんでしょうか。
違う、今はそんなことどうでもいいんだ。花粉だ。今日登校のために家から出た瞬間くしゃみ。通学途中の電車の中でくしゃみ。学校に来てからもくしゃみ。授業中もくしゃみ。おまけに目はかゆいしでもう、最悪だ。

「うーー……へくしゅっ」

どれくらい今の私が酷い状態かっていうと、放課後になっても学校から出て家に帰りたくないくらいには酷い。あぁ、外出たら花粉もっとひどいんだろうなぁ。
誰もいない教室で鼻をすすって、重たい腰を上げた。いくらなんでも、ずっとここにいるわけにはいかない。

「小波じゃねぇか、こんな時間まで何やってんだ?」
「え?あれ、長曾我部くん。帰ったんじゃなかったの?」
「借りたCD、机に入れっぱにしちまってよ、取りに来た」

偶然教室に帰ってきた長曾我部くんと話している間にも目のかゆみは止まらず、目をかきながら話をしていた。長曾我部くんはCDを机のなかから取り出し満足げに笑ったあと、私を見て驚いた顔をした。そしていきなり焦りだした。

「おい、小波、どうしたんだ」
「え、なにが?」
「何って……泣いてんじゃねぇかよ」

どうやら泣いていると勘違いしたらしい。まあ、目は多分充血していて真っ赤だろうし、鼻もすすってるし、そう思われても仕方ないか。

「何かいやなことでもあったか?」
「違うよ、心配してくれてありがとう。ただの花粉症だよ」

そう伝えると、長曾我部くんは安心したように笑った。思ったよりも優しげな微笑に、私の心臓が鳴った気がした。いやいや、気のせいだ。

「俺のダチも花粉症でな、ひでぇんだよ。そいつに目薬やろうと思ってたんだが、ソイツ、目はそんなにらしくてよ。小波にやるよこれ」

そう言って投げられた箱を私は反射的にキャッチする。激クール!とか書いてある目薬の箱だった。
とてもとてもありがたかったが、ただのクラスメイトの長曾我部くんにここまでしてもらうのは気が引ける。ありがたいけど、私は大丈夫だよ。そう言ったら長曾我部くんは私から視線をずらして、小さい声で言った。

「心配なんだよ。授業中ずっと辛そうにしてただろ?貰ってくれや」

長曾我部くんは早口でそう言ってじゃあな、と片手をあげて出て行った。


長曾我部くんは、優しい人だ。



花粉症です





 


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