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君はヒーロー



町を歩いていたら、運悪く浪士に絡まれてしまった。自分は天下の攘夷志士なんだから、詫びの言葉だけじゃ足りないだの、美人だから俺の嫁にならないかだの、気持ち悪いおっさんだ。
私は心の中で、新選組で隊長を務める彼の名前を叫んだが、届くはずない。諦めてこの油ぎったおっさんに付いていこうとしたとき、聞きなれた声がした。


「てめーの首が大事なら、そいつからその汚ぇ手離せ。今すぐだ」


いつもよりもっと低い、殺気が含まれている声。振り向くと、自分の横で気持ち悪く笑っていた浪士の首にきらりと光る刀。それを持つ自分の恋人。今度は嬉しすぎて涙が出そうだった。そう。永倉新八、彼が来てくれたのだ。私はためらわず、彼自慢の体にしがみついた。


「新八っ!」
「真選組か!くそっ!」
「失せろ、次会ったら、殺す」


気持ち悪い浪士は慌てふためいて逃げていった。新八は一つため息をついて私を力いっぱい抱きしめてくれた。頭を撫でてくれる大きな手が気持ちいい。


「あのくそデブが。大丈夫だったか?」
「うん……。来てくれてありがとう、新八」
「や、あ、あたりまえだろ!俺はお前の、その、彼氏、なんだし」
「嬉しかった。それに、すごいかっこよかった」


正義の味方みたいだったよ、そう言って頬に口付けたら、新八は真っ赤になって慌てだした。相変わらず初心だ。新八は真っ赤な顔のまま、私の左手を握ってずんずん歩き始めた。送って行ってやる。前を向いたまま、ぶっきらぼうにそう言う新八がおかしくて、私はまた笑った。さっきまでの気持ち悪さが嘘のようだ。新八は前を向いているから赤い顔を見られずに済んでいると思っているみたいだが、短い髪の間から覗く真っ赤な耳で丸分かりだ。


「新八、私、家に帰ろうとしてたんじゃないの」
「なにぃ!?もっと早く言えよ!」
「だって、新八が一人で引っ張っていくんだもん」
「っ……!じゃあ、どこ行こうとしてたんだよ」
「屯所。新八に会いに行こうと思って」


真っ赤だった顔が更に赤くなる。それがおかしくて、お腹を抱えて笑ったら強引に腕を引かれ、頬に手を添えられ上を向かされた。触れてすぐに離れた唇。触れるだけの、掠ったような口付けに今度はこっちが恥ずかしくなる。


「おうおうおう、真っ赤だぜ真子ちゃん」
「う、うるさい。真っ赤じゃない」
「よく言うぜその顔で。俺のこと笑えた義理じゃねーな」


そう言ってカラカラ笑う新八の鍛え上げられた腹筋を私が殴るまで、あと少し。


君はヒーロー






 


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