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衝動的に抱き締めた


「新八さんっ」

わりぃ、と新八さんは小さく呟いて私を抱きしめた。私はいきなりのことで頭が付いていけず、ただ新八さんの香りがいつもより近くにあることを感じるだけだった。
最近新八さんがうちの飲み屋に来る回数が減って、寂しかったのだけど、その寂しいは一体何だったのだろう、そんなことを考えていた矢先のことだった。

「すまねぇ真子ちゃん。止まらねぇんだ」

余裕がなさそうな、低くかすれた声が耳元で聞こえる。新八さんは私の肩に顔をうずめたまま、謝ってはいるが私を放そうとはしてくれない。
店の裏で、いつ人が通ってもおかしくないから、私は必死で新八さんを押し退けようとするが、力で叶うはずもなく、無駄な抵抗に終わってしまう。
若干暴れる私を新八さんはまるで押さえ込むように、私を抱きしめる腕に力を入れた。少しだけ苦しい。

「どうしたんですか、新八さん」
「ちょっとな、ふと思ったんだよ。もし俺が死んだら、もう真子ちゃんには会えねぇんだよなって。そう思ったらな、すげぇ怖くなったんだ。俺自身、どうすればいいのか分からねぇくらいに、怖くなったんだ。今まではこんなことなかったんだよ。死を怖く感じることなんて」

新八さんは、右手で私の頭を胸板に押し付けるようにして、何かが切れたかのように話し出した。少し声が震えている。

「逆もな、考えちまったんだ。もし真子ちゃんが死んじまったら、って。今度は、真子ちゃんが心配で心配でたまんなくなった。それでも、俺はただの常連客だ。堂々と心配できる立場じゃねぇ。たとえもし俺が小波ちゃんを助けたとしても、それは俺じゃなくて、新選組の俺なんだ。一人の男としてじゃ助けられねんだ」

自分の言いたいことを自分でも整理仕切れていないようで、新八さんは困ったような、苛立ったような雰囲気だった。急に肩をつかまれ、私は至近距離で新八さんに見つめられるようになった。新八さんの表情は、今まで見たお日様みたいな笑顔じゃなく、見たことないような、少し苦しそうな表情。私を真っ直ぐ見つめる、少し熱っぽい視線に、射抜かれる。

「俺、真子ちゃんが好きなんだ。多分ずっと前から」

頬に手を添えられ、少し上を向かされた。ゆっくり、新八さんの顔が近づいてくる。一瞬後に起きることを私は想像して目を閉じた。




衝動





 


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