67号の感謝と祈り



ネタ帳のこれのお話

それじゃあ、まずは感謝の言葉から。
ありがとう、ジーナス博士。
私をこの世に生み出した貴方はまさに私の母であり父であった。
まああのキツい人体実験のことは忘れられないけど。
それからありがとう、私の前に生まれてきていたであろう65個の失敗作と1個の成功作。

その犠牲と輝かしい成功がなければ私は生まれ得なかったか、あるいはその他大勢と一緒にゴミ箱の中だった。
私はこの身の上を不幸とは思わないし、復讐なんて考えもしない。
でもだからといってあの人の気持ちがわからないわけじゃないんだ。

◇ ◇ ◇

「こんにちはセンパイ?今日も素敵に公然わいせつ罪してますね〜!」
薄暗い路地裏に座り込むゾンビマンに気安く話しかけてきたのは彼のよく知る人物だった。
「67号……」
何が楽しいのかニコニコと笑って近寄ってくるセーラー服の少女、67号にゾンビマンはめんどくさそうな顔を向ける。
S級ヒーローである彼は今日も今日とて怪人退治に精を出していたのだが、いかんせん今日の相手が炎を扱う怪人で、2回ほど死んだ頃には衣服が消滅していた。
なんとか敵を倒した後、焼け焦げた体を回復させるため、それとさすがに全裸で公衆の面前に立つのはヒーロー的にアウトなので人通りの無い裏路地に入ったのだが……その結果余計にメンドくさい相手に見つかってしまった。

「やだーこんなところで一体何をしてるんですかあ?真っ裸になって自分の粗チン丸見えにして、もしも純朴な少女がここを通りかかったらどうするんですか?私みたいな!可愛らしい少女が!通報待ったなしですよ?それともむしろそういうのがお好みなんですか?そういうのに興奮しちゃう変態さんなんですか?エロ同人みたいに!エロ同人みたいにい!」
「楽しそうだなお前」
体をくねらせてマシンガントークを続ける67号を呆れた目で見ながらゾンビマンは言った。
彼女はゾンビマンを茶化すのが生きがいらしく、事あるごとに彼の前に現れては毒にも薬にもならない、ちょっと毒になるようなことをするだけして帰っていく。
そうやって彼を困らせるたびに「私なりの愛ですよ」なんて語尾にハートがつきそうな風に言うのだ。

そんな厄介で面倒な彼女だが今日に限ってはナイスタイミングだった。
「67号、頼みがある」
「3回回ってワンって言ってください」
そしてこの返答である。

「ふざけるなよ……」
「あららあ?センパイがお気に召さないのなら土下座でもいいんですよお」
それとももう帰っちゃおうかなーなんて女王様のような微笑みで見下す67号に、ぐっと言葉に詰まったゾンビマンが渋々頭を下げる。
「服を買ってきてください……」
「うふふ、よくできまちたね〜」
畜生こいついつかぶっ飛ばす、と心に決めたゾンビマンの目の前にがさりとビニール袋が差し出される。
きょとんとして顔を上げるといたづらが成功した子供みたいな顔の67号がいた。
ずっと後ろ手に何かを隠していると思っていたら、ゾンビマンの服はすでに用意されていたらしい。
「私が気の利くコウハイでよかったですね?センパイ」
珍獣でも見たような驚いたような表情のゾンビマン。
そんな彼の表情を見て彼女は満足した。
「この貸しはおっきいですから」
そう言って、くるんと身を翻したその時。
「おいまて」
半身振り返ると、そこには67号がしまむらでいっちばんダサいと思って買ったTシャツを着たゾンビマンの姿があった。
「お前に貸しなんてやったら十一で利子つけられそうだ」
おごってやるから飯食いに行くぞ、とぶっきらぼうに吐き捨てた彼に、67号は一瞬ハッとして、それから彼女の口角がきゅっと上がる。

不老不死の二人には本来食事なんて必要ない。
不老不死とは不変のことだ。
これから先二人が成長することは決してない。髪が伸びることも、爪が伸びることも。
無意味な栄養を口から摂取して、無意味に排出する。
この世のどんなものより無価値な活動。
それでも67号にとっては最後の抵抗だった。
私たちは、私は人間なのだ、と。
たとえ不老不死の化け物であろうと、67号は人間でいたかった。
だから食事は彼女にとってのささやかな祈りだ。

きっと彼は彼女の幸せになど気がついていない。
自分が食事に誘ったことにどれだけの意味があったのかなんて。
けれどもそれでよかった。
それにどれだけ救われたことか。きっとあなたは気がつかないだろうけど。

「ふふ、それじゃあおいしいとこに連れてってくださいね!」

ありがとうセンパイ。けどあなたには絶対に言ってなんかあげない。
この思いはきっと、永遠に存在しない私の墓場まで持っていくんだから。

(2014.8.1)
「なあ67号、ビニールん中にパンツ入ってねぇんだけど」
「え?全裸のくせにノーパンは気にしちゃうんですか〜?みみっち〜い」
「……この年増セーラー服」
「あ”あ”?」
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