砕月 夜



※新宿のアサシンの生前夢
※真名バレ有り

※性描写有り(挿入無し)



夜風が頬を撫でる。不意に目が覚めた。
やけに目が冴えてしまった私は再び眠りにつくこともできず、仕方なしに体を起き上がらせた。
窓が開いている。夜風はそこから入ってきたのだろう。掛布団を体に掛けたまま、ぼんやりと窓の外を眺めてみれば、ぽかりと浮かんだ月と目が合う。そこだけ切り取られたかのように輝く満月がそこにはあった。今宵はなんとも美しい月夜だ。偶然目が覚めたことをなんとも幸運に思った。

かちん、と不意に小さな音が耳に入った。陶器の杯が何かに当たる音。酒飲みばかりの梁山泊では当たり前に聞き慣れた音だ。音の方に目をやると、開いた障子窓のそばに彼がいた。
彼、−−−燕青もまた名前と同じ月を眺めていた。こちら側には背を向けて、ひとり酒をしているらしい。月は天の真上へ昇っているが、遠くからまだ誰かが騒いでいるような喧騒がこちらまでかすかに届いている。……こんなところで1人で飲まずとも、誰かと杯を共にすればいいだろうに。彼の背中を眺めてそう思った。

気まぐれに、布団から抜け出し、彼のそばに寄ることにした。背後から近づいてその体に触れては驚かせてしまうだろう。驚かれただけならまだしも、反射的に殴られては困るので、仕方なしに少し距離をとったまま、彼に声をかけることにした。
「……燕、青」
記憶に無いほど昔に潰された喉からは臼を引くように低く、聞き苦しい雑音のような声がする。あいも変わらず、耳を塞ぎたくなるような醜い声だ。
だがそんな掠れた低い声でも、確かに燕青には届いた。……いや、燕青はいつだって私の声を聞き逃したりなどしなかった。例え誰が私の声を悍ましいと嫌っても、燕青だけは決して拒絶などしなかった。いつだってこちらを見て微笑む。そう、今だって。

「名前」
振り返った燕青はいつものように笑って私の名を呼んだ。普段は一つに束ねられている美しく長い黒髪は、今は降ろされその上等な黒糸の一本一本が月の光を受けてきらきらと輝いている。
隣に来い、と手招かれたから素直に彼の横へ這うように四つん這いになって向かう。隣に辿り着くと、そばにいるだけでも香る酒の匂い。どうやら随分と飲んだらしい。彼の端正な顔は酒で微かに赤くなっていた。
杯を手に持った燕青の隣に座ると、先ほどまで以上に月がよく見えた。それをじっと眺めていると、隣にいる燕青に頭を撫でられる。私の髪を手櫛ですくように撫でたり、小さな耳を指でなぞったりするのを、いつものことだから黙ってされるがままに受け入れる。
やがて燕青はその大きな掌を私の頬に当てた。酒のせいか、やけに熱い掌が夜風に冷えた頬を温める。

しかしそれにしても酒臭い。今宵の浪士は酷く酔っているようだ。
私は当てられた掌の甲に人差し指を這わせて文字を書いた。
『とても 酔っている』
文字に気がついた燕青は口角を上げて笑い、「そんなことはねぇよ」と軽く否定した。
やけに楽しそうな燕青はしつこいくらいに髪や頬を撫でたり、私の手と自身の手と繋いでぶらぶら揺らしてけらけら笑ったりしている。

今日は随分面倒な酔い方をしているなぁ。起き上がって彼に声をかけたことを少しばかり後悔し始めたとき。急に彼は女に甘えるような声音で「名前〜」と呼んで、私のほうに全体重をかけて体を倒してきた。
無論幼く小さな私に、たくましい筋肉で覆われた男性である燕青の体を支える術はない。倒れこむ燕青に、ドミノ倒しになって私も床に倒れた。私が燕青の体に押し潰されて、ぐぇっ、と声を上げると、彼はその声を聞いてケラケラと笑った。
仰向けになって床に背をつけた私は自分の体に覆い被さる燕青に呆れたような吐息を吐いた。私の胸に顔をうずめて頬を擦り付ける燕青の流れる髪を指ですく様に優しく撫でる。この美しい髪も出会った当初はまだ今よりもっとずっと短かった。旦那様にその美しい髪を伸ばすよう命じられた燕青はそれ以降、決して手入れを欠かさなかった。もう背中まで伸びたが、きっとこれからも彼はこの髪を大切に伸ばし続けるのであろう。そんな宝物のような黒髪に私は触れている。触れることを、許されている。それは喜んでも良いことだろう。
「…………っ、!?」
思考の海に浸っていると、不意に体が跳ねる。突然のことに驚いて喉がひきつり声にならない声が上がる。
……びっくりした。私の上で寝転がっていた燕青が突然私の喉元に噛み付いたのだ。噛み付いたといっても甘噛み程度で、跡が残ったり血が流れるような程ではない。が、流石に酔いすぎだ。きっ、と彼のほうを睨みつけると、構われたことに喜ぶ子供のように笑った。
『燕青 もう 寝て』
「は、ははは、名前。楽しいなぁ」
『私は楽しくない 降りて』
わかったよ、わかった、と言いながら燕青は私の腹を服越しに撫で、胸に額を押し付けるのをやめない。何もわかってないじゃないか。

そのうち彼はその薄い唇を私の喉元や頬に押し付け始めた。生暖かい感触が素肌に触れてぞくりと鳥肌が立つ。ぞわぞわとしたなんとも言えない感覚に身を震わせていると、一瞬目の前が陰って、やがて彼の唇が私の唇に重ねられた。驚いて一瞬硬直してしまい、されるがままになっていると、それを良しとされたのかちゅっ、ちゅっと音を立てて唇に唇を何度も重ねてくる。やわやわと唇を舌でなぞられたり、口の端を吸い付かれたりと、やりたい放題されっぱなしだ。ちゅっちゅっという高い音が止まない。……そろそろいい加減にしてほしい。だいたいこういうのは夫婦同士がするものだ。

元々燕青は私によく触れて、構ってきてくれる人だが、それにしたって今日はおかしい。きっと酔いすぎなのだ。
体を捻ったり、顔を背けて抵抗してみると、今度は彼の右手で顎を掴まれ顔を固定され、左手で私の両手をまとめて床に縫い付けられた。ムッとして彼を蹴り飛ばそうと空いていた右足を振り上げたが、それもすぐに右手で掴まえられてしまった。燕青は掴んだ私の右足の、土踏まずのところに唇を押し付け接吻すると、笑って私の足を床におろして、彼の胴で地面に押さえつけた。
こうされてしまっては筋力でも体重でも格段に劣る私にはもう何もできない。ついにとことんまで逃げ場がなくなってしまった。もうやめて、と伝えたいが、手を床に押し付けられて指が使えないから仕方なく彼の名前を呼ぼうとしたその時。
「……えんせ、っ、ぁ、んん、!」
名を呼ぼうとわずかに口を開いた瞬間、ばっと、顔に影がかかり、すぐにぬるり、と何かが口の中に割り込んできた。気がつくと唇は燕青の唇と触れ合っていた。きっと、間違いなく、入ってきたのは彼の舌だ。厚くて熱い舌が私の口の中を好き勝手に荒らし回る。

「……ん、ふ、ぅぁ、んん……!」
「はぁ……、ん、んん、ぁ」
歯列をなぞり、唾液を混ぜ、舌と舌を絡ませ合う。それだけのことでどうしてか思考に霞がかかる。息が苦しい。体が熱い。お腹の奥の方がまるで尿意を感じているかのようにじんじんとする。腕に力を入れたり、脚をバタつかせたりして抵抗してみるようとするが、まるで力が入らない。彼の舌がまるで蛇のように口内でぐにゃぐにゃと蠢き、私の呼吸を、意識を奪っていく。
ぴちゃぴちゃという水の音と、彼のものなのか私のものなのかわからない荒い息だけが耳に届く。頭の中はずっと混乱しっぱなしだ。どうして、どうして、と答えの出ない問いかけばかりが頭に浮かぶ。
親しいはずのこの男のことがまるでわからなくなる。どうしてこんなことをするのだろう。この行為に一体どんな意味があるのだろう。

……恐ろしい。理由がわからないことが。どうしてこんなことをされているのかわからなくて、それがとても怖い。燕青なのに。私をずっと守ってくれた燕青なのに、どうしてこんなに恐ろしいのか。

気がつくと涙が溢れていた。止めどなく流れるそれに自分でも驚く。旦那様のお屋敷が乗っ取られ、奥方や使用人たちから酷い暴力を受けた時だって、涙など流れなかったというのに。

それからどれぐらいの時が経ったのだろうか。10秒程度だったのかもしれないし、もしかしたら10分以上だったのかもしれない。
ようやく、拘束されていた腕と顔から彼の手が離れていった。それから、ゆっくりと私の口の中から彼の舌が引き抜かれていく。繋がった2人の唾液が糸のように伸び、月の光を受けてきらきらと反射する。
心臓がばくばくと大きく跳ねている音が聞こえる。けれどもそれに反して体はやけに怠い。指一本動かすのも億劫だ。口の周りはべたべたとどちらのものかわからない唾液で濡れていたし、目元や頬には流れた涙がいくつもの跡になっていた。

体が重くて、硬くて、動けないままの私を燕青はじっと眺めていた。彼の纏う空気には変わらず酒の匂いが漂っていて、彼がまだ酔っていることを如実にあらわしている。蛇に睨まれた蛙のように、息を呑んでじっと動けないままの私。
すると燕青は私の乱れた着物の隙間から手を入れ、薄い腹を愛でるように直に素肌に触れた。
口内を蹂躙した舌と同じくらい熱い掌が私の腹をゆるゆると撫でる。まるで理解できない彼の行動に、私はどうしたらいいのかわからなくなってしまった。逃げようにも体は燕青に押し倒されているし、力でなんて勝てるわけもない。ただただ私の腹を撫でるだけの彼の行動が理解できず困ってしまって、私は結局なにもできず、彼に撫でられ続けられるままだった。
次第に撫でていただけの手が、それまでと違う動きをし始めた。なんだろう、とぼんやり思っていると、やがてゆっくりと、内側から着物が解かれていく。温かい手が私の着物を丁寧に順番に開く。
そうして夜の空気に腹が触れて、それから平らな胸が、次に下着を纏った股が、最後に力なくされるがままの脚が。
腕は通したまま、捌かれた魚のように着物の前だけが開かれる。夜の冷たい空気と、腹を撫でる燕青の手の温度差にびくりと身を震わせた。

夜の帳の中、露わにされた私の素肌を燕青はじっと見つめて、それから深く息を吐いた。そうしてふと目を閉じて、彼はその端正な顔を再び私の腹に押し付けた。流れる彼の髪が乱れ落ちて、私の体の上に波模様を作る。さっきまでと違うのはそれが布越しであるかどうかだけ。私の胸元と横腹を掴んで、私の腹に頬を擦り付ける。素肌に彼の規則的な吐息が掛かって酷くくすぐったい。
終わりも結末も見えないそれらの行為に困惑はしたけれど、抵抗はもうやめることにした。あるいは諦めとも言う。
燕青の体温と私の体温がゆるゆると馴染んできた頃、わずかに衣摺れの音が聞こえた。音は燕青の方から聞こえて、思わずそちらの方へ目を向ける。彼は私の腹から顔を離して、今度は私の足元でまた別の何かをしているらしいが部屋の影でよく見えない。
やがて音が止んだかと思うと、燕青は私の顔の横に手をついて、私の体の上で四つん這いになった。夜空のような彼の黒髪が天蓋のように私を覆う。
今度はなにをするつもりなのだろう。
深く目を瞑った彼の美しい顔を眺めていると、突然腹に何かが押し当てられた。
それは彼の舌よりも掌よりもずっとずっと熱くて、じっとりと湿っていて、肉体の内側みたいに柔らかいのに硬いという妙なモノだった。
それがなんなのか見ようとするけれど、燕青の体と着崩れた着物が陰になってよく見えない。覗き込んでからようやく彼の着物の前が大きく開かれていることに気がつく。さっきの衣摺れの音は着物の前を寛げるためだったらしい。着物の前が開かれることによって、彼の鮮やかで美しい刺青が逞しい筋肉と共に露わになる。
それらに見とれていると、燕青が私の顔のすぐそばで息を吐き、体全体を使って腰をゆっくりと動かし始めた。するとよく見えないその熱いモノも連動するように私のへその辺りでゆるゆると動き出す。擦り付けられるたびに腹の上に熱い液体が零される。酒、にしてはやけに熱いし粘り気がある。これは、一体なんだろう。
時に速く、時にゆっくりと、それは私の体の上を這いずり回った。そうやって何度も腹の上をなぞられるうちに、その熱いモノは棒状のものらしいことに気がついた。時折先端が私のへその穴をグリグリと掘り当てたり、長い茎のところが私の横腹をなぞったりする。そうされるうちにこれまでに経験したことのない、変な気持ちになってきた。なんとなく体がむずがゆくて、熱いモノを押し付けられた腹の中の内臓とかその辺りが妙に熱くて、嗅ぎ慣れない匂いが辺りに充満してクラクラする。なんだろう、これ、今日はわからないことばかりだ。
むずむずと太腿をすり合わせて、助けを求めるように燕青を見つめるが、彼は目を瞑っていて視線が合わない。燕青はぎゅっと強く目を閉じて、苦しそうに荒い息を吐いたり、獣のように喉奥で唸ったりしていた。……体調が良くないのだろうか。急に不安になった私は彼の名前を呼んで、その額に恐る恐る手を当てる。
「燕青……?」
すると彼は目を開けて、私を様々な感情が混じった瞳で見つめた。そこにある感情に検討はつかない。優しく見つめるような、狂気めいたものが見えるような、そんな瞳だった。私がその瞳に吸い込まれていると、燕青は耐えきれなくなったかのような呻き声をあげた。
「っ、名前……、くっ、は、ぁ、!」
押し付けられていた熱いモノがビクビクと震えたかと思うと、燕青の声と共に熱い液体が腹に叩きつけられた。その飛沫は私の胸元までパタパタと飛んできて、膨らみのない乳房の先が白く濡れた。
私は突然のことに驚いてしまって、どうしていいかわからずただただ硬直していた。長い距離を走ったかのように荒い息を吐き出す燕青が息を整えようとして、私の額に唇を落とすのにもされるがまま。

よく、わからないけど、なにかをされた、ようだ。

未だに苦しそうに喘ぐ燕青の額から落ちた汗が私の胸の真ん中に落ちる。それだけのことに体は驚いてびくりと跳ねる。
恐る恐る燕青の顔を見上げれば、彼もまた私の方を見ていた。言葉もなく、視線だけが交じり合う。けれど私を見つめるその瞳も表情も、今まで一度も見たことがないものだった。優しく微笑んだり、強く敵を見据えたり、旦那様の前で真剣な顔つきをしたり、そんないつもの彼の顔ではなくて、見たことのない、別人のような顔。そこには私への敵意や悪意はなくて、ないはずなのに、これまでの行為を少しだけ怖いと思ってしまった。

「わたし、は、何をされた、の?」
思わずそんなことを尋ねる。困惑する私を見て、燕青はまるでいつものように微笑んで言った。
「嗚呼、名前。お前は本当に、本当に愛しい」
それだけ言うと、床の上に転げ落ちるように音を立ててバタンと突っ伏し、くうくぅと何事もなかったかのように静かに眠り出してしまった。私はというと狐につままされたような心持ちでポカンと口を小さく開けたまま硬直してしまっていた。今宵だけで何度硬直したのだろうか。

やがて燕青が微かに鼾をかきはじめた頃にようやく放心状態から解放されて、体をゆっくりと起き上がらせた。改めて自身の腹を見ると、ベタベタとした白いものが張り付いている。時間が経過したからか、端から固化しはじめたそれらが腹にくっついて動くたびに肌が引き攣る。
なんとなく、このままにしてはいけない気がして、立ち上がる。 布を手に取り、近くの川に向かおうとして、床に寝転がる燕青を見る。寛がれた着物はそのままに、仰向けに腹を晒して眠っている。彼もまた私と同じく胸も腹も足も、終いには性器まで晒している。布の一つでも掛けてやらねば風邪をひくかもしれしれないと思い、毛布を引っ張ってきて彼にかけようとして、ふと彼の性器に目を向ける。そういえば、棒状のものだったな……と思い返すが、腹に押し付けられたアレは酷く熱かったし、腹の肉を押すくらいには硬いものだった。眠る彼のそれは柔らかに垂れているし、きっとこれではないだろう。毛布を彼に掛けてやりながら、ではアレは一体なんだったのだろうと首をかしげる。答えは出ない。しかし誰かに尋ねるということもなんとなくしたくないと思った。

着崩れた着物の前を直し、履物を履いて近くの川へ向かう。なんとなく、誰にも会いたくなくて、誰かの声のしない方ばかりをコソコソと歩いて川に辿り着く。川の冷たい水に布を浸し、それで体を拭き清める。空に昇った月が川に映る。2つの月に見守られながら、もしも燕青が覚えていないのなら今日のことはなかったことにしようと決めた。今夜は満月があまりにも綺麗だ。月に当てられて燕青も狂ってしまったのだろう。明日になればまた元どおり。それでいい。
たくさんの出来事と冷たい水のせいですっかり目が覚めてしまったものだから、名前は遠回りしながらゆっくりと部屋へ戻ることにした。



夜明けより少し前、燕青は目を覚ました。開いた窓から流れる山風は冷たい。同じ部屋で眠る名前が風邪を引いてはならないと思って、燕青は起き上がり音のしないように窓を閉じた。
なんとなく、妙に目覚めが良い。なんというべきか、すっきりとしているというか、開放感があるというか。夢見も良かった。よく覚えていないがとても良い夢を見た気がする。覚えていないことが惜しいくらいに。

「ん、って、ありゃ?」
着物の前が全開になっていた。一体どういう寝相をすればこんなにも着崩れるのか。我ながら呆れてしまう。
昨晩の記憶は途中までしかない。美しい月と名前の穏やかな寝顔を肴に酒を飲んでいたのまでは覚えているが……それ以降はさっぱりだ。
掛けられた毛布を見るに、酒に酔って寝てしまった自分に、夜中に起きた名前が気を遣って掛けてくれたのだろう。本当に気の利く子だ。あまりにもしっかりし過ぎてこちらが不安になる程。

燕青は音を立てないように、彼女の眠る布団へ近づく。すぅすぅと小さな寝息を立てる名前はこうして見ると年相応のただの子供だ。血生臭い戦火の渦中である梁山泊に連れてきてしまったことに後悔がないとは決して言えないが、連れてきた以上、なんとしてでも自分が彼女を守らなくては。
そうして彼女の寝顔を見守っていると、燕青はふと名前の口元に何か白い液体が時間の経過で固まったような飛沫が付いていることに気がついた。それを見て燕青は頬を緩める。涎を垂らして眠るだなんて、やはりまだまだ子供だ。

「たぁく、しょうがねぇなあ」
満更でもない顔で燕青は名前の口元を拭い、彼女のすぐそばに寝転がる。今朝は彼女が目を覚ますまで、ここにいよう。窓の外からは鳥たちの鳴き声が聞こえ、白んだ空の果てから太陽が昇る。
そうしてやがて名前が目を覚まして、燕青が知らないうちに何も変わらない元どおりの朝が始まる。


……昨晩、庇護の対象である大切な少女にとんでもないことをしでかしていたことなど、知らぬが仏。くわばら、くわばら。


(2019.1.5)
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