心に垣をせよ | ナノ




心に垣をせよ #08




昨日教えてもらったばかりの番号に電話をかけるが、やはり繋がらない。


「クッソ…」


どこだ。なまえ先輩はどこだ。考えろ。なまえ先輩との会話を思い出せ。
なまえ先輩は確か、放課後にちょっと話して、と言っていた。
とすると一番考えられるのはマジバか。流石にもういないだろうけど、何か手掛かりがあるかもしれない。


−−−


「やっぱりいないか…」



マジバの店内を見渡しても、なまえ先輩とあの男らしき人はいない。
誰か、誰かなまえ先輩を見た人はいないのか。


「あの、すいません」

「はい?」

「海常の制服来た男女、来なかったッスか?」


とりあえず、店員さんに聞いてみる。


「さぁーよく来ますからねぇ、」

「16時半ぐらいだと思うんスけど…」

「うーん…ちょっとー…」


…だめ、か。


「あー!もしかして黄瀬くんじゃない?」


その一声を皮切りに女子高生のグループに囲まれる。


「うわーどうしたの一人?」

「うーん、ちょっと人探しててね」


応援してくれるのはありがたいけど、タイミングが悪すぎる。
今は一刻も早くなまえ先輩を見つけたい。


「えーだれ探してんのー?」

「うちの高校の制服きた男女なんスけどね…ごめんね、俺ちょっと今急いでて…」

「それって16時半頃?」

「…え、そうッスけど…」

「その人たちなら見たよーうちらそん時からずっといるからー」

「…ほんとッスか!!」

「うん隣座ってたよねー」


あ、俺モデルやってて良かった。


「どこ行ったかとかわかるッスか?」

「あーなんかーあそこ行こうとか言ってなかった?なんだっけあの暗い感じのさー」

「海常の近くの工場跡?みたいなとこ?」


…なんでそんな所に。
っていうかなまえ先輩、そんなとこまでついてったの?だとしたら、笠松先輩の言った通り、なまえ先輩はバカだ。


「ほんと助かったッス!!ありがとう!!」

「うん黄瀬くん頑張ってねー!!」


マジバを出た俺は、工場跡まで走る。どうか無事であってほしい。本当は、俺のこんな心配とかは全部空回りで、なまえ先輩は家で寝てただけだった、とかが一番いい。けど、笠松先輩から何の連絡も無いってことは、やっぱりまだなまえ先輩は帰ってないのだろう。


「っ」


頬に水滴があたった。
水滴は後から後からどんどん落ちてくる。
雨だ。


「クソ…」


−−−


『ねぇ、なんで彼女の名前教えてくれないの?彼女がわかんなきゃ私何も言えないよ』

「だから工場跡に彼女がいるんだ。そこに行けばわかるよ」

『え、別にそんなサプライズいらないよ。君変わってるね』

「ははっ」

『っていうか彼女と上手くいってないんじゃないの?』

「あぁ。だから彼女とよく話し合おうと思って。みょうじさんはその場にいるだけでいいんだ。ただ、ヤバくなってきたらちょっと仲裁に入ってほしい。」

『うっわ責任重大ー』


−−−


「ここだよ」

『うわ暗っ!なんでこんな所で話すの?』

「……………」

『…なに?彼女は?』

「………そんなんとっくに別れた」

『…は?』

「なんでだかわかる?」

『え、ちょ、何言ってんの知らないよそんなん』

「黄瀬に取られたんだよ」

『…は?黄瀬?黄瀬って…黄瀬?』

「アイツが入学してきてから二言目には黄瀬黄瀬って…」

『…黄瀬彼女いないって言ってたよ』

「あぁ、俺を振ったアイツは黄瀬に振られた。相手にされなかったんだよ。」

『…まぁ、よくある話ですよね』

「黄瀬は女取られるとどういう気持ちになるか知らないだ」

『……………』

「だから俺がみょうじさん取ってやろうと思って」

『…いや、なんで私?』

「だって黄瀬みょうじさんのこと好きでしょ?」

『………いやいやいや、え?どこをどう見たらそうなるの?』

「どっからどう見ても、だよ。最近お昼休みとか楽しそうだよね。」

『いや楽しいけど…え?』

「みょうじさんって鈍感だよね。黄瀬が可哀想。」

『……………』

「でも、これから大好きなみょうじさんを俺に取られちゃうから、もっと可哀想なことになるね。」

『………ちょっと何言ってるかわかんないです』

「まぁ可哀想って言っても、俺ほどじゃないけど。」

『……無視ですか』

「あぁでも一番可哀想なのは黄瀬に好きになられちゃったみょうじさんかな?ごめんね?」

『……………』

「まずは、そうだなぁ…手を繋ごうか」

『は?やっ…』

「恋人繋ぎ。」

『…離してほしいかなーみたいな?』

「………どーん」

『! った…』

「まだ押し倒しはしないよ。ただちょっと座ってもらってね、あぁ脚の上ちょっと失礼。」

『…どいてほしいかなーみたいな?』

「…恋人繋ぎはやめてあげる。腕は離さないけどね?」

『…腕、離してほしい、かなー、みたいな?』

「こうやって腕ひとまとめにしちゃってさ、脚の上に乗っかられちゃうと何もできないでしょ?」

『……そうですね、』

「笠松くんや黄瀬にはこんなやり方通用する訳ないけどね、みょうじさんなら。」

『…私男子バスケ部じゃないんで。』

「ははっ、そりゃそうだ。」

『…………』

「黄瀬はみょうじさんに何したら傷つくかな?」

『…………』

「髪を撫でたら傷つくかな?」

『…やめて下さい』

「それとも頬?」

『…あの、』

「耳かな?」

『っ…』

「首筋?」

『やだ…』

「鎖骨…」

『やっだ…って』

「そうだみょうじさん、キスしよう?」

『っ!!』

「そんな怯えないでよ。みょうじさんだってキスぐらいしたことあるでしょ?大丈夫、俺上手いから。」

『それはちょっと…勘弁してほしい、かな…』

「うーん、でもごめんね?恨むなら黄瀬を恨んで?」


−−−


工場に着いたはいいけど…ここ入り組んでんだよな…
なまえ先輩…どこにいんスか…


「     」


…!! 向こうから、声が聞こえる。


−−−


「みょうじさん、顔を背けても無駄だよ。こうやって顎を固定しちゃえばさ」

『っ!! やめて、よ』


「…うん、やだ。」


−−−


…ここから聞こえる。
思いっきりドアを開けると、部屋にはなまえ先輩とあの男がいた。


『「…!!」』

「…っ!! なまえ先輩!!」

『き、せ…?』

「黄瀬…なんでここ…!!」





* * *

2012.9.21




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