心に垣をせよ #07 翌昼休み、購買に行くと、自販機でいちご牛乳を買うなまえ先輩が見えた。 昨日の夜、俺はこれからのプランをいろいろと考えた。絶対に青峰っちを倒そうとか、笠松先輩とこのチームを日本一にしようとか、黒子っちのデレが見たいとか、…なまえ先輩と付き合いたい、とか。 とりあえず、これらは全て段階を踏まなくてはならない。前二つは、練習や研究を今まで以上にやろうと思う。黒子っちとは、今度バニラシェイクでも奢ってあげて、ふたりでゆっくり話そう。 そして、今はなまえ先輩と… なまえ先輩、と呼ぼうとして息を吸ったとき、 「みょうじさん、」 「っ」 誰かに先を越された。行き場を失った声を飲み込む。 『…私?』 …あの人誰だろ。至って普通の男子生徒だけど、先輩のクラスメートだろうか?いやでもみょうじさん、って呼んでたし。…じゃあ、あんまり接点のないクラスメート、とか? ふたりは二言三言話すと、その男子生徒は軽く手を上げてから去っていった。去り際にちょっと目があったけど、睨まれたような…。まぁ気のせいか。 「なまえ先輩、」 『あ、黄瀬ー』 「今の、クラスの人スか?」 『え、ちがうよ?』 「え?」 『知らない人ー』 「…へ?」 『いやなんかね、あの人の、あぁそういえば名前知らないや、まぁあの人の彼女が私の友達なんだって。あぁそういえば彼女が誰かも知らないや。で、今彼女と上手くいってないから相談にのってほしいみたいな?』 「…それで、」 『うん。いいよって言った。今日の帰りにちょっと話してーみたいな?相談ってなんだろね?』 …なまえ先輩、それ向こうの情報ほとんど知らないじゃん。大丈夫か? 『よく考えたら私彼氏出来たことないから全然相談相手になんないかもー』 「…………………えっ?」 『……………………え?』 「先輩…彼氏いたことないんスか…?」 『なんだよねーよ!!ちなみに笠松も彼女出来たことないんだからな!!』 「いや笠松先輩はそうでしょうけど…なまえ先輩…えっ?」 『おいそれは笠松可哀想だ否定はしないけど。あいつの彼女いません感凄まじいよね』 「俺…なまえ先輩の元カレ数2だと勝手に思ってました…」 『なんで?え、なんで?っていうかそういう黄瀬は?元カノ数いくつ?88ぐらい?ポケモンの四天王余裕で倒せちゃうぐらい?』 「いや普通に0ッスけど…」 『………………………え?』 「俺も彼女出来たことないんス」 『えぇぇえぇぇえぇうっそ笠松と同レベル?そんなんポッポもオタチも倒せないよ!』 「告られても断っちゃうんで」 『あっここに笠松との違いが…』 「俺びっくりッスよ!」 『私の方がびっくりだよ!なんで?』 「俺、ちゃんと好きな子と付き合いたいんス」 『うっわ乙女! …じゃあ黄瀬まだ誰か好きになったこと無いの?』 「…あるッスよ、現在進行形で。」 『えーうっそ超聞きたいよその話!!』 こういう話でテンションが上がるところを見ると、先輩も普通の女の子なんだなぁと思う。 『あーでももうチャイム鳴っちゃう!あ、そうだ!』 「…?」 『今日うち親ふたりで出張とか言って帰って来ないの。だからさ、また笠松と一緒にご飯食べにおいでよ』 「ほんとスか!」 『うん。さっきの人と話すって言ってもさ、なんかすぐ終わりそうじゃん?私経験無さすぎて。それが終わったらご飯作って待ってるよ。で、さっきの続き聞かせて?』 「…はいッス…!」 『じゃあまた後でね』 これは大変だ。もしかしたら流れで今日告ることになるかもしれない。 こ、心の準備をしとかないと…!! でもバスケはバスケだからバスケしないと…!! やだ俺忙しい…!! −−− 「笠松先輩!」 「?」 「今日なまえ先輩がご飯食べにおいでって!」 「あー…そういえば今日おばさんたち出張でいねぇとか言ってたな」 「はいッス!」 「嬉しそうだな…」 「だって好きな女の子の手料理食えるんスよ?嬉しいに決まってるじゃないスか!」 「ふーん…」 「えへへ」 −−− 先輩たちの家の前まで来たところで、笠松先輩が電話をかける。この前は、このあとになまえ先輩が出てきて、おかえりー、と言ってくれた。しかし、今日はなかなか出て来ない。 「…っかしーな電話繋がんねぇ」 「え…」 「学校出る時にメールもしたけどそれも返って来ねぇ。いつもバカみたいにすぐ返すくせに。」 …そういえば昼休みになまえ先輩と話してた奴。 あいつとの話がまだ終わってないのか。いや、でもそれなら連絡ぐらいするだろう。 …っ!! あいつ、俺を睨んだ。あれが気のせいじゃなかったとしたら… 嫌な汗が体中から吹き出す。 「…先輩、」 「あ?」 「俺、ちょっとなまえ先輩探して来るッス…!!」 「…は? おい、ちょっ、黄瀬!!」 * * * 2012.9.20 |