心に垣をせよ #06 「お前今日動き良かったぞ」 Tシャツを脱ぎながら、先輩が珍しく俺を褒めてくれた。 「へへっ、俺やる時はやる男ッスよ」 上機嫌で俺もTシャツを脱ぐ。そして緩んだ顔を一度締める。今日の練習が終わったら、と覚悟を決めてきたことがあるのだ。 「先輩、今日ちょっと時間あるスか?」 「…? あぁ、まぁ、あるけど…どうしたんだ?」 「ちょっと、話したいことがあるんス。」 「…? ふーん…」 着替え終わった先輩は携帯を取り出して何か打ち始めた。 「メールッスか?」 「おーなまえに」 「…へぇ、」 「今日ちょっと遅くなるってな」 「……………」 え、あれ、俺この人たち幼なじみって聞いたんだけど。夫婦じゃん。 「帰ったらなまえと少し話すのが日課なんだよ」 「…そう、なんスか」 「なまえが、そうしろってうるせェんだよ」 「…へぇ」 やっべ何この爆弾の雨。俺泣きそう。 「…なんつー面してんだよ」 「えっ、いやっ」 「それより着替え終わったんならもう出るぞ」 「…ッス」 −−− 「で、何?」 先輩と帰り道をゆっくりと歩きながら話す。 「あの、なまえ先輩とは…幼なじみってだけスか?」 「は?」 我ながら、なんて女々しい切り出し方なんだろう、と思う。 「例えば…その、先輩がなまえ先輩のこと、…好き、とか…その逆とか…」 情けないことに、どんどん声が小さく細くなっていく。 「…なんで」 「えっ、いやっ、そのっ」 あれ、おかしいな。俺覚悟部室に忘れて来ちゃったのかな。 「……なまえとは何もねーよ。俺はなまえのこと好きだけどそれは恋愛感情じゃないし、俺のことじゃねぇから100%とは言えねぇけど、その逆もねぇ。俺たちはただの幼なじみだ。」 「…ほんと、スか」 今いち、心から納得出来ない。だって…あれは仲良すぎる。 「…お前、俺の言うこと信じらんねぇのか」 「えっ、いやそんな訳じゃっ」 俺だって信じたい。 「…で?何でそんなになまえのこと気にすんの?」 「それは…」 拳をぐっと握ってから、息を吸う。 「…俺っ!なまえ先輩のことっ!…好きに、…なっちゃった、ッス…」 言えた…! ちょっと歯切れの悪さが気になるけど俺ちゃんと言えた! 「…まぁ、知ってたけどな」 「え゛っ」 「いやなまえが絡んだ時のお前の顔と態度ですげぇわかる」 「……………っ」 やばい超恥ずかしい。消えてしまいたい。俺今顔赤いのかな青いのかな。 「…まぁ、俺しか知らねぇはずだから安心しろよ」 「…へ?」 「だってお前がなまえといる時に一緒にいたのって俺ぐらいだろ?」 「…はい、」 「それになまえ本人は絶対気づいてねぇ。俺はなまえじゃねぇけど、これだけは100%言える。アイツはお前の気持ちに気づいてねぇ。バカだからな。」 「……………」 「…まぁなまえのことどうしようと勝手だけどな、なまえ泣かしたらお前でもぶん殴んぞ」 「……………ッス!!」 「話はそれだけか?」 「はい!あの、笠松先輩!」 「あ?」 「大好きッス!」 「…気持ちわりー」 「えっ、ひどいっ」 「…お前も今日なまえんとこ寄ってくの?」 「いや、今日は帰るッス!帰っていろいろ考えるッス!」 「ふーん…」 「それじゃ先輩!ありがとうございました!失礼します!」 「おぅ」 −−− 『おかえりー笠松ー あれ今日は黄瀬いないんだ?』 「…黄瀬も一緒が良かった?」 『ふふふ、どーかなー?』 * * * 2012.9.19 |