心に垣をせよ #05 翌昼休み、俺が購買部にある自販機でコーヒーを買っているとなまえ先輩がやって来た。 『あ、黄瀬だー』 「なまえ先輩!」 『今日もコーヒー?』 「はい、先輩は今日もいちご牛乳買いに来たんスか?」 『うん。よく見てたねー』 俺はもう一度自販機にお金を入れる。 「今日は俺が奢るッスよ」 『えっ、そんな後輩に奢らせるなんて』 「いいんス!俺昨日先輩にすげぇお世話になったからそのお返しッス!」 『そんな大したことしてないじゃん』 「いーや!俺にとっては超大したことだったんス!それに俺男ッス!男が女の子に奢るのは普通ッスよ!」 『うーわ笠松に聞かせてやりたい!』 「これ、俺の気持ちッス!受け取って下さい!」 ガコンと自販機から出てきたいちご牛乳を差し出す。ってか言いながら思ったけど、俺の気持ち70円かよ安っ! 『…じゃあ、ありがたく頂こうかな?』 「はい!」 『ふふ、ありがと』 「どういたしましてッス!」 昨日先輩への気持ちを自覚してからの、このふわふわした感じはなんだ。先輩の笑顔を見るだけで愛しさがこみ上げてくる。 『昨日とえらい違いだね』 「え?」 『よく笑うし、よく喋るし。』 「…笑いたいから笑うんス。先輩と喋りたいから喋るんス。」 『へーじゃあ昨日は私と喋りたくなかったんだ?』 「ちちち違うッスよぉぉ!!ただ、昨日はちょっと…緊張して…」 『あははごめんちょっと苛めただけ。』 「えっ!ひどい!」 『でも黄瀬が笑うようになってくれて嬉しいよ』 「…俺も、なまえ先輩と知り合えて嬉しいッス!」 『こればっかりは笠松に感謝だね』 「超感謝ッスよ!」 『ふふ』 「…あの、なまえ先輩はいつもこの時間ここに来るんスか?」 『うん。いちご牛乳買いにね。黄瀬も?』 「いや、俺は昨日も今日も偶々だったんスけど…俺も通っていいスか?」 『え?』 「俺、なまえ先輩ともっと話したいんス!先輩が迷惑じゃないなら…俺も、」 『……………』 「あっ、やっぱ迷惑ッスよね、いいんス!忘れて下さい!」 あ、俺これちょっとショック。黒子っちにフラれたのとはまた別のショック。 『…黄瀬ってさ、みんなかっこいいって言うけど…可愛いね』 「…え?」 『黄瀬可愛い』 「…えっ、えぇぇえぇぇ!ちょっ、何スかそれ!」 可愛いだなんて、心外だ。その台詞、そのままバットで返してやりたい。 『またいつでもおいで。私も黄瀬ともっと話したい。』 「…えっ」 『っていうか通うって何よ?自販機?』 「えっ、いやっ」 やばい俺今超パニック。ダメと思わせといてもっと俺と話したいだなんて、先輩また俺のことからかってる?それとも無意識? 「あのっ、俺またここに来ても…?」 『むしろ来てよ。』 「…っ!ほんとスか!」 『っていうか自販機まで来るのに私の許可いらなくない?』 「だって俺、自販機じゃなくて先輩目的で来るんスよ?」 『…………』 …あっ俺今なんかすげぇ気持ち悪いこと言った気がする 「あの…、すんません忘れて下さ」 『可愛い』 「…えっ」 『黄瀬、可愛い』 「えぇぇっ」 今の俺のどこに可愛い要素があったと言うのだろう。 今のは『気持ち悪い』「えっ」『黄瀬、気持ち悪い』って流れでも俺は充分納得する。落ち込むけど。先輩って時々変わってる。 『そうだ黄瀬今携帯持ってる?』 「えっ、あっ、はい」 『連絡先交換しよ』 「…いいんスか!」 『だって、自販機まで来ないと連絡とれないって…超不便じゃん。やっぱり文明の利器は活用すべきだよ』 「…っ!そうッス!文明万歳ッス!」 自分でも何を言っているのか分からないが、こんなに早く連絡先教えて貰えるなんて。しかも先輩から。良かった。俺、どっちかと言えば好かれてる…はず。 『じゃあまた。何かあったら連絡してね』 「はいッス!」 『ばいばい可愛い黄瀬くん』 「……………先輩の方が、」 おそらく最後の俺の言葉は先輩に届いていないけど。 * * * 2012.9.18 |