心に垣をせよ #04 「なまえおかわり」 『え、もう食べたの』 「ハラ減ってんだよ」 『まぁ、そりゃそうか』 「おー」 『黄瀬も遠慮しないで食べてねー』 「あ、はい」 さっきまで味なんて全然感じなかったけど …これ、美味しい。 「…なまえ先輩って料理上手いんスね」 『え、ほんと?初めて言われたよそんなことー』 「え、そうなんスか?美味いッスよ先輩の料理」 『まぁ手料理食べさせたことある人なんて家族と笠松と黄瀬くらいなんだけどね』 「えっ」 その中に俺が入ってるってまずくね?俺超図々しい奴みたいになってる気が… 『笠松なんて美味しいとか一回も言ったことないよ。笠松ー黄瀬を見習えー』 「まぁ不味くはねぇよ」 『ほらねこれだから笠松はーだめだよ黄瀬こんなスカポンタンになっちゃ』 「お前しばくぞ」 『しばき返すぞ』 …なんだろう、この、胸の奥からじんわりと湧き上がるような感覚は。この人たちといると、俺はあったかい気持ちになる。 …あぁ、そうかわかった。 俺は笠松先輩が好きだし、信頼してるし尊敬してる。 そしてその笠松先輩に似たところのある幼なじみのなまえ先輩には、恋愛感情を抱いていたのか。 昨日初めて会ったあの時、俺はなまえ先輩を好きになったんだ。それから会う度話す度、なまえ先輩を知る度にどんどん先輩に惹かれていく。今日ずっと考えてもわかんなかった、これは恋だ。ああ、やっとすっきりした。なんだ、恋、か。 「…へへ、」 「…オイ黄瀬何笑ってんだよ」 『おっ、それはほんとの笑顔だね』 「はいッス!笑いたくなったから、笑いました!」 『うんうん、そっちの方がずっとかっこいいよ』 「へへへ」 「………解決したか?」 先輩がこそりと俺に聞いてくる。 「はいッス!先輩、本当ありがとうございました」 「それ、明日態度で示せよ」 そう言って先輩がニッと笑う。 「まかせるッスよ!…って!今何時ッスか?」 『えっと、22時過ぎぐらい』 「やっべ俺帰って寝ないと明日死ぬ!」 わちゃわちゃと食器を片付け始める。 『あぁいいよ片付けなんてしなくて!』 「え、でも」 「全部まとめて、明日態度で示せよ」 『っ!!二人とも本当ありがとうございました!ご飯超美味かったッス!すげー楽しかったッス!ご馳走様でした!失礼します!』 ふたりの先輩は、優しい顔で笑ってた。 −−− 「…行ったな、」 『うん』 「まったく世話の焼ける後輩だよ」 『…でも黄瀬のことすごい気に入ってんじゃん』 「…まぁな」 『何があったのか知らないけどさ、今日黄瀬連れてきてくれて良かった』 「あ?」 『なんかやっと心開いてくれたっていうか、ちゃんと笑ってくれたっていうか』 「…そうだな、」 『…黄瀬いい子だね』 「…そうだな、」 『…黄瀬頑張ってんね』 「…お前黄瀬のことべた褒めだな」 『黄瀬は笠松と違って私のこと褒めてくれたからね』 「………あっそ、」 * * * 2012.9.16 |