心に垣をせよ #28 「うっ…ぐすっ…がざがざがざまづぜんばい〜!いがいがいがないでぐだざいッス〜!」 「森山先輩!!!! オ(レ)…先輩のようにスマートな男にな(り)ますから!!!!!」 「お前ら二人とも何言ってんのかわかんねぇよ!! ナメてんのか!!」 バコンバコン! 「…がざがざがざまづぜんばいがぞづぎょうじょうじょでなぐっでる〜!やだぜんばいぞづぎょうじないで〜!いづもみだいにがらだでぶづがっでぎでぐだざいッス〜!」 「先輩もっとオ(レ)のこと殴って下さい!!!! こ(れ)が殴(ら)(れ)修めっすか(ら)…!!!!!」 「気色悪ぃんだよ!! おい森山頼むこいつらなんとかしてくれ!!」 「それよりさー、昨日大学行ったら超可愛い子いたんだけど。俺これからあの子のために生きるわ。」 「…ねぇ、俺のこと忘れてない?お前ら小堀先輩に何かないの?」 ついにこの日が来てしまった。卒業式。3年の先輩たちが泣いてないのに、俺と早川先輩が号泣してる。先輩たちが引退する時も大分泣いたけど、卒業となるとまた涙が止まらない。寂しすぎる。 「ねぇ黄瀬、なまえちゃんのとこには行かないの?」 「…え?」 先輩たちが俺を見る。この目は、単純に俺となまえ先輩の仲を気づかってくれている目だろうか。それとも、俺をなまえ先輩に押し付けてさっさと帰りたいという目だろうか。 「…だって、こんな顔じゃなまえ先輩に会えないッスもん…」 「そうだな、お前の顔今いろんな体液ででろでろだもんな。」 「うっ…だって、さみし…うぅぅ〜!ぜんばい〜!」 「うわっ!おまっ、鼻水つけんな!」 『笠松〜!今日一緒に帰ろ…うわっ、黄瀬きたなっ!』 「おーなまえちゃん」 「え゛!あ〜駄目ッス!なまえぜんばい来ちゃばめッズ〜!」 『鼻濁音多いよ』 「だって…ざみじ…」 『うーわ引くわー無いわー』 「うぅぅ〜っ」 「なまえちゃんよくこんなきったないのとちゅー出来たね?」 『やめて森山くんマジやめて』 「なまえちゃん大分耐性ついたな。ほら、前部室で初ちゅーの話聞いた時顔真っ赤にしてたのに。」 『こ…小堀くん…!いたの…』 「……………」 『ねぇ、それよりみんなさ、誰か第二ボタンもらいに来なかったの?』 「……………」 「……………」 「……………」 『…あ、制服きれいなまんまでも、すごくいいと思うよ? 笠松のはなんか液体ついてるけど』 「……………」 「いだっ!先輩いたいッス!でも…うれじいッズ〜!」 −−− 「はいどうぞ」 『ありがとうございます…』 先輩たちと涙涙の別れをしたあとに、場所は変わって、なまえ先輩の部屋。出されたお茶に早速口をつける。 「あつっ」 『……………』 「そうだ俺猫舌なの忘れてた…」 『…まー泣いてたねぇ?』 「ぅ、あんま見られたくなかったッス…」 『あれがまさかモデルだとは誰も思わないね』 「……………」 ごまかすようにお茶を飲む。 「あっつ!あ、俺猫舌なんだった…」 『…黄瀬、なんか言いたいことあるの?』 「え、えぇぇえぇいやあぁぁなんでっスかぁぁあ〜?」 『いや、さっきから変だから。』 「……………なまえ先輩には叶わないッスね…」 『いや誰が見ても変だよ。』 フ…、と静かに笑みを零したら即一蹴された。 深呼吸をする。拳をぎゅっと握る。 「なまえ先輩、ご卒業おめでとうございます…」 『え?…あぁ、うん、ありがとう…』 「それから、大学合格、おめでとうございます…」 『うん、ありがとう…』 「なまえ先輩、俺、先輩のこと大好きッス。尊敬してるッス。愛してるッス!」 『………黄瀬?』 「けど…少し俺に時間を下さい。具体的に言うと、しばらく会うのとか、連絡とるのとか…待って、ほしいんス…」 『………………』 「あ!違うッスよぉ!? 先輩のこと好きじゃなくなったとか浮気とかじゃないッスよいやマジで!! そんなん笠松先輩が世界中の女の子かたっぱしからナンパし倒すよりありえないッスからねいやマジで!」 なまえ先輩の表情が、まるで色が消えちゃったみたいに無になって、早川先輩のリバウンド魂よりも強い弁解の言葉を述べる。 『………黄瀬、ほんとにどうしちゃったの、』 「…俺、前に言ったでしょ?俺はバスケと先輩が大好きだけど、今のままじゃ、ずっと一緒はきっと無理だって。」 『………うん、』 「だから、俺修行の旅に出るッス。」 『………は、』 「俺、先輩とバスケとずっと一緒の人生手に入れる為に変わるッス!チェンジキセズライフ!」 『……………』 「………駄目ッスか…?」 なまえ先輩は俯いてしまって、表情が見えない。これで『じゃあ別れる』とか言われたらどうしよ…!あぁそうじゃん俺そこまで考えて無かった…!! 高校卒業って絶好の別れシーズンじゃん!そんでもって新しい環境の新しい彼氏さんこんにちは…?あぁぁあぁあぁぁやっちまった俺ぇぇぇ!!!! 『……………ふふっ』 「……………へ?」 今先輩…笑った…? 『そうだね!可愛い子には旅をさせよ、ってよく言うしね!』 先輩は顔をぱっとあげて、満面の笑みで言った。 「……かっこいい彼氏には旅をさせよの間違いじゃないんスか、」 『私かっこいい彼氏なんて今までいたことない』 「いるじゃないスか目の前に!!」 『かっこいい黄瀬くんどうしたの目がはれてるよ?…あ、そういえばさっき鼻濁音まみれになって泣きじゃくってた人がいた気がすんな〜』 「……………」 先輩ひどい。そんな、何も言い返せないじゃないか。 『…ねぇ黄瀬、』 「………はい、」 『私待ってるんだからね。ちゃんと戻ってきてよね。』 「……………」 『……………』 はい、なまえ先輩の伝家の宝刀、突然のデレ、いただきました〜! 「……なまえ先輩…」 『はい、』 「俺もう可愛い子でいいッス〜!先輩が俺の彼女ならもうなんでもいいッス〜!」 『………黄瀬、』 「…はい、」 『…好きだよ』 なまえ先輩が照れたようにはにかんだ。あ、照れ顔久しぶり…なんてことを頭は考えていたが、体は何も考えずに先輩を抱きしめた。 「…なまえ先輩、」 『…はい、』 「…好き」 『……はい、』 「…俺耐えられるかな…」 『…え?』 「なまえ先輩のいない生活」 『私は耐えられる』 「ヒドッ!? …でもまぁ、頑張るッス。」 『…うん。』 「なまえ先輩、目、閉じて。」 『………ん。』 初めてキスした日のことを思い出した。あの日、帰ってからも俺の中から先輩の感覚は全然抜けなかったんだ。 だから、なまえ先輩、しばらく会えなくなるけど、ずっと俺の中にいて下さい。 「……………」 『……………』 「……それじゃあなまえ先輩、また今度。」 『……うん。またね、黄瀬。』 * * * ふっきれたぞ。お前らもう死ぬまでいちゃいちゃしてりゃいーだろ。 2012.11.26 |