心に垣をせよ | ナノ




心に垣をせよ #24




出かける前に、なまえ先輩は俺の服を洗って干してくれた。帰る頃には乾いてるからね、って。
散歩と称して、近くの公園まで来た。日曜の朝、澄んだ空気で満たされた公園にいるのは老人や犬の散歩に来た人などが多く、若い女の子なんかは見受けられない。雑誌には出ていても、テレビには出ていないから、この場に俺を知る人はなまえ先輩しかいない。多分スーパーの方も大丈夫だろう。流石になまえ先輩と過ごす時間だけは、誰にも邪魔されたく無いから。


『朝ってこんなに気持ちいいんだねー』

「…本当は、もっとちゃんと…ショップとか遊園地とかに連れてってあげたかったんスけど…」

『病み上がりが何言ってんの』

「だって、デートっていったら普通そうじゃないスかー!!」

『……………デート?』

「…そうッスよね、こんなんデートって言わないッスよね…」


公園はまだしも、スーパーは、無い。これをデートとカウントするなんて、それも初なんて。なまえ先輩が可哀想すぎる。


『…そっか、デートか…』


なまえ先輩は照れたように笑って言った。


『私、デートなんて初めてだよ。』


俺は、罪悪感に包まれる。


「先輩ごめん…」

『え?』

「初デートがこんなとこで…」

『…ちょっとあそこのベンチ座ろ』



『…そんなに遊園地とかが良かったの?』

「いや、そういう訳じゃなくて…女の子は、そういう所喜ぶじゃないスか…。でも、俺声かけられちゃうから…」

『いいよ別に。遊園地行きたくなったら黄瀬以外の人と行くし。』

「え、」

『っていうか私こっちの方がいい。』

「ちょっと待って。その前に聞き捨てならない言葉が聞こえたんスけど。俺以外と行くって…どういうことスか。まさか男じゃないッスよね…?」

『…かもしれないし女の子かもしれないし』

「ダメッスよ!俺以外の男と行くなんて、絶対ダメッス!」


…知らなかった。好みのタイプは、と聞かれたらいつも、束縛しない子、と答えてたはずなのに。彼女が俺以外の男と遊ぶのをこんなに嫌だと自分が思うなんて。


『…黄瀬だって女の子と遊んできたし、これからも遊ぶでしょ』

「…当てつけッスか」

『ちがうよ』

「じゃあ何スか!」


ケンカしたい訳じゃないのに。わかってる。これは嫉妬だ。まだありもしないことへの嫉妬。情けない。でも、嫌なものは嫌だ。


『…私の話聞いてよ。』

「……………」

『言い方が悪かったね、ごめん。あのね、私デートする場所にこだわりとか無い。黄瀬が一緒ならどこでもいいの。』

「……………」

『遊園地のアトラクションに乗りたいってだけなら、黄瀬じゃなくてもいいでしょ?で、黄瀬と一緒にいたい、なら遊園地じゃなくてもいいでしょ?そういうこと。』

「………うん、」

『もちろん、黄瀬以外の男の子と二人で遊園地なんて行くことなんて、多分ないよ。私遊園地とかそこまで好きな訳じゃないし。』

「…多分じゃダメッス…」

『わかった。黄瀬以外の男子と二人で遊園地には行きません。』


俺が意地張ってんのに対して、先輩は素直に俺の要求を飲んだ。あぁ、先輩は可愛いけど、やっぱり先輩だ。


「…なまえ先輩〜っ!!ごめんなざい〜っ!!」

『本当、まさか黄瀬が嫉妬するなんて思わなかった。』

「ごめんなざい〜っ!!」

『まぁ、私も言い方がちょっとあれだったからね…。でも、ちょっと嬉しいかも。』

「え…?」

『嫉妬。』

「…………先輩は?」

『え?』

「さっき、今まではともかく、これからも俺が女の子と遊んでもいいみたいな言い方だったじゃないッスか…」


俺面倒くせぇ。束縛されたくないけど、ちょっとくらいは嫉妬して欲しいだなんて。


『だって、仕事じゃん。ファンサービスみたいな?』

「まぁ、そうなんスけど…」

『じゃあ、お茶するぐらいいいんじゃないの?あ、でも恋人繋ぎとかキスとかはダメだから。握手はOK。』

「……………」


『私、黄瀬のことちょっと尊敬してるんだよ。学校行って、部活バリバリで、その上お金稼ぐなんて…普通出来ないよ。すごい。』

「…なまえ先輩どうしちゃったんスか…」


こんなに素直に俺のこと誉めるなんて。


『だって、今日は素直になっとこうかなって。っていうか人誉めるのに照れたりしないよ流石に。』

「…そろそろスーパー行きますか、」


立ち上がって、手を差し出す。


『え?』

「手、繋ご?」

『…やだ。』

「えぇなんで?」

『外とか無理。恥ずかしい。』

「今日は素直になるんでしょ?」

『だって素直に恥ずかしいもん。』

「…なまえ先輩俺と手繋ぎたくないの?」

『……………』

「……………」

『…じゃあ、スーパーの100メートル手前まで。』


そう言って先輩は俯きながら俺の手をとり、指を緩く絡めてきた。
あぁ、先輩は、先輩だけど、やっぱり可愛いんだ。





* * *

2012.10.23




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