心に垣をせよ | ナノ




心に垣をせよ #22




なまえ先輩みたいには出来ないけど、俺だって全く料理が出来ない訳じゃない。ただ、いつも疲れてて面倒なだけだ。
最後に目玉焼きを皿にのせて…よし、完成。

ガチャ…


『……………』

「あ、なまえ先輩!おはよッス!」

『……おはよ、』

「先輩起きんの早いッスね。まだ7時前ッスよ?」

『……誰かさんに昨日無理やり早寝させられたからね、』

「え、そんなことがあったんスか!」

『……………』


じとっとした目で睨まれるけど、口笛を吹きながら目をそらす。


『…もう動いて大丈夫なの、』

「はいッス!先輩のおかげでもう熱下がったッスから!」

『…ふーん、』

「それより先輩!俺朝ご飯作ったんスよ!食べて食べて!」


そう言ってテーブルに皿を並べる。


『……………』


なまえ先輩って、朝弱いのかな。なんだかさっきから色んな反応が薄い。


「いただきます!」

『…いただきます、』

「先輩どう?」

『…なにが、』

「味!」

『まだ食べてないよ』

「早く食べて!」


先輩が俺の料理を箸で掴んだ。先輩が俺の料理を持ち上げた。先輩が俺の料理を口に運んだ。先輩が俺の料理を噛んだ。先輩が俺の料理を飲み込んだ。


「…っ先輩!どうッスか!」

『………………』

「あれ?先輩?うそ不味い?」


なまえ先輩の反応が薄いから皆無に変わった。え、そんなに不味いの?


「あぁぁあぁ先輩ごめん!あれ何間違え」

『美味しい、』

「……………え?」

『むっちゃ美味しい、これ、』

「いやいやいやいや!それ絶対美味しい顔じゃないっしょ!いいッスよ無理しなくて!」


なまえ先輩は、じとーっとした目つきでさっきから皿の一点を見つめている。


『違う。…美味しいから、…ちょっとムカついただけ。』

「……………へ?」

『…私より美味しく作んないでよ。』

「え、えぇぇえぇそんな訳ないじゃないスか!」


急いで自分も料理に手をつける。
…やっぱ先輩味覚おかしいって。どう考えても先輩の料理の方が美味い。


「なまえ先輩の方が!100倍美味い…!!」


それにこれ料理って言えるか微妙なラインだからね。焼いただけの目玉焼きとか、切っただけのサラダとかだからね。


『……あっそ、』


まぁとりあえず、不味くは無い様なので一安心。しかしもう一つ気になることが。


「なまえ先輩って朝弱いんスか?」

『え?』

「だってさっきから反応とか薄いし。…いやでも昨日とかそんなこと無かったッスよね?」

『…黄瀬のせいじゃん、』


先輩がボソッと言ったのを、俺は聞き逃さなかった。


「え!うそ俺なんかした!?」

『……何もしてない。気にしなくてよろしい。』


……………はっ、まさか。


「もしかして、あの時先輩起きてた…?」

『……………』


先輩はシャクシャク野菜を食べ続ける。


「起きてたんスね!?」

『……………』


先輩はシャクシャク野菜を食べ続ける。そしてみるみる顔が赤くなっていった。


「なんだ起きてたのかよくそー。ヒドいじゃないスか狸寝入り決め込むなんてー。」

『……………』


シャクシャクシャクシャク


「起きてたんなら唇にすれば良かったー」

『死ね!!それに私は起きてない!超熟睡!』


あ、やっぱ先輩朝弱くなんかないわ。むしろ強い。


「じゃあもう一回する?」

『しない!!』

「え、何を?」

『………………っ』


今度はじとーっじゃなくて、キッと睨まれる。顔赤く染めながら睨まれても可愛いだけなのに。反応が薄かったのは、照れ隠しだったのか。全く、一々可愛いんだから。


「わかったッス。なまえ先輩は熟睡中だったんスね?」

『そう。超寝てた。』

「じゃあ、もう一回言わせてもらうッス。」

『? …なに、っ!』


手を伸ばして、なまえ先輩の頬に添える。


「覚悟しとけよ?」

『〜っ!! 死ね!!』


俺は朝起きんのわりと苦手な方だと思うけど、早く起きた方が主導権握れるってんなら、なまえ先輩といる時だけは朝と仲良く出来そうだ。





* * *

2012.10.12




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