心に垣をせよ #20 『……………甘い』 「ほんと!辛くない?」 『…っていうか辛いプリンって何よ?』 「先輩が言ったんス… それより!甘いんスね!ほら!やっぱ好きな人に食べさせてもらうと違うんスよ!」 『もともと甘いんじゃないの?それ』 「えー違うッスよー!! だって俺が自分で食べても…」 なかなかなまえ先輩は俺の意見を認めない。ので、自分で食べてみる。 「普通のプリンッスよこれ…って…あー!!」 『…何?』 「俺もなまえ先輩と間接ちゅーしちゃったー!!」 『……………』 「どうしよやっぱこれすっげ甘い!」 『……うぜぇ、』 なまえ先輩は捨て台詞を吐いてまたそっぽを向いてしまった。顔をのぞき込むとやっぱり、 「なまえ先輩顔赤いッスよ?」 『うるさいよ何だよお前』 「だってプリンは甘いし、先輩と間接ちゅーは出来ちゃうし、もう訳わかんねぇんスよ」 『もうほんと昨日までのシリアスさ何処やった!』 「……………」 昨日のシリアス、と聞いて昨日のことを思い出す。今でこそ、なまえ先輩は普通にしてるけど、やっぱり大丈夫な訳ではないんだと思う。あんな目にあって、大丈夫な方がむしろおかしい。 『………黄瀬?』 「いや、昨日のこと思い出しちゃって…」 『…黄瀬ってくるくる表情変わって忙しいね』 「…………だって、アイツ先輩に…」 『………私、今度あの人に会ったらお礼言おうと思うよ。』 「え…お礼?なんで…」 『なんでって… あの人のおかげで黄瀬と付き合えるんじゃん。』 「……………」 まぁ、そういう見方も出来なくはないけれど。 『あの人のおかげで、私黄瀬のこと好きなんだって思った。』 「…えっ」 『……好きじゃなきゃあんなこと頼まないよ』 「………アイツのおかげで俺はプリン食べさせてもらえるんスね、」 『そうそう。』 「でもアイツ先輩に触った…」 『それは昨日黄瀬が書き換えてくれたじゃん。』 「…足りない。もっかい触る…」 『調子に乗るなー!!』 先輩に手を伸ばしたところで、思いっ切りはたき落とされた。 「えーいいじゃないスかー!!」 『やだよ!』 「先輩も俺のこと触っていいから!」 『キモい!』 「ヒドッ」 『早よ食って寝ろ!』 「食べさせて?」 『キモい!』 「ヒドッ」 飛びっきりのキメ顔でお願いしたら、キモいと一蹴された。普通だったらこれで一発なのに!やっぱりなまえ先輩にこの容姿を利用した攻めは効果が無いらしい。 「……………」 『…………かして、』 「え、」 再びなまえ先輩がプリンとスプーンを手にとる。 『何いじけてんの』 「えっ」 『食べたら今日はもう終わり。明日になったら少し動いていいから。』 そう言いながら、プリンを口元に持ってきてくれた。 「…えへへ」 『…何』 「何でもないッス!」 なまえ先輩も、何だかんだ言って、結局はお願い聞いてくれるんスね。とは口には出さず、甘いプリンと一緒に飲み込んだ。 「先輩、もう一個だけお願い聞いて?」 『食べたら大人しく死ぬって言ったじゃん』 「もう一個だけ!ってか違うッス!死んだように大人しくするって言ったんス!」 『……………で、何?』 「一緒に寝て?」 『絶対やだ』 「うわ即答!じゃなくて!何でスかー!!昨日は一緒に寝たじゃないスかー!!」 『黄瀬今日病人じゃん!うつす気か!』 「…俺、知ってるんスよ?」 『…何を、』 「笠松先輩から聞いたんスよ?」 『だから、何を、』 「先輩、風邪引かない体質らしいじゃないスかー!!」 『………っ!』 「小学校の時先輩の席周り全方位インフルで倒れたのに先輩だけピンピンしてたんでしょ?」 『くっそ笠松余計なことを…』 「じゃなかったら先輩に間接ちゅーなんてさせないッスよ!」 『いやでもこんなの科学的根拠とか無いし!もしかしたら私だって風邪引くかも!』 「その時は俺が全力で愛の看病をするッス!」 『心底いらねぇ!』 「だからいいじゃないスかー!! 昨日は先輩からお願いしてきたんスよ?」 『私は手繋いでてって意味で言っただけだし!』 きゅん!…じゃなくて! 「でも最終的に了承したのは先輩ッス!」 『ぐっ………』 「だから…」 『っ!』 先輩の手を引き布団の中で抱きしめる。 『ちょっと黄瀬!私まだ許可してない!』 「じゃあこれから許可すればいいじゃないスか」 なまえ先輩が再び俺をぎゅうぎゅう押し返してくる。だから、この抵抗はあって無いようなものなんだって。なんだかさっきから、笠松先輩は俺の見方のようだ。 『で、でも!まだ夕方だし!病人はともかく元気な私が寝るにはちょっと早いかなーみたいな?』 「いいじゃないスか。先輩明日休みでしょ。」 『そうだけど!』 「じゃあいいじゃん!なまえ先輩お休みー!」 先輩に回した腕にぎゅっと力を込める。 『…っ!黄瀬!苦しっ!』 「…なまえ、可愛い。好き。愛してる。」 腕の力を緩めて、先輩の目を見てそう囁けば、なまえ先輩は途端に耳まで真っ赤になった。 『せ、先輩を呼び捨てにするとは何事だ…っ』 さっきまで俺のことを押し返していた手は俺のシャツを握るだけになり、恥ずかしいのか、少し震えていた。 「なまえ先輩…」 もう一度抱きしめる。今度は抵抗されない。どうやら許可はもらえたようだ。 「先輩お休み、」 * * * 2012.10.06 |