心に垣をせよ | ナノ




心に垣をせよ #18




「それで、もう一つは?」

『うん。あのね、黄瀬は言われ慣れてるかもしれないけど、でも聞いてね。』


俺が言われ慣れてる言葉、といったら…


「…ムカつく、スか?」

『え?』

「それとも、うざい?」

『え?』

「それとも…シバく?」

『……………』

「それとも…」

『黄瀬、黄瀬、全部違う。全部言われ慣れてるんだろうけど、違う。』

「えー…? じゃあ…」


他には、なんだ?あ、もしかして、一編死ね!とか…?


『…好き。』

「え?」

『私は、黄瀬のことが好き。』

「……………」


す、き…?…んん?死ねじゃなくて?すき?鍬?隙?スキ?SUKI?
え…?


『ね、言われ慣れてるでしょ?』

「…なまえ、先輩?すき、って、どういう…」

『…黄瀬は私にこんな恥ずかしいこと二回も言わせるの?』

「え?いや…ほんとに…どういう…」

『…私は黄瀬のことが好き。大好き。愛してる。…これで満足?』

「……………」


なまえ先輩は俺の手を握ったまま、顔を赤くしてこちらを睨んでいる。
すき、って、好き…ってこと?
なまえ先輩が、俺を…好き…


「…先輩は、俺の風邪治す気ほんとにあるんスか、」

『え?』

「嬉しすぎて、体温上がりまくりで、治るもんも治らないッスよ…」


…何が言われ慣れてるかもしれないけど、だ。そんな訳ないじゃないか。


「俺、好きな人から告白されるの初めてッスよ…」

『…ねぇ、昼休みに言ってた現在進行形で好きな人って…』

「…なまえ先輩ッスよ… っ、あーもう!俺から言いたかった!」


こういうのって、普通男からの方が格好つくし。


『…ふふ、』

「…なんスか?」

『先に告白してきたの黄瀬だよ』

「……………へ?」


おかしい。そんな記憶は無い。まさか、笠松先輩がなまえ先輩に言ってしまったのだろうか。いや、でも俺がって言ってたし…


『今さっき。寝言で。』

「………ね、ごと?」

『そう、寝言。笠松もいたのに。なまえ先輩大好きーって。』

「うっそ…!!」


顔面蒼白、のち、顔面発火。そんな格好悪い告白の仕方なんて聞いたことない。恥ずかしすぎる。ここ何日かで俺は、人生で一番恥ずかしい、を更新し続けている。幸せな夢って…あぁもう!俺絶対締まりのない、だらしねぇ顔してたんだろな。


「…なまえ先輩、」


とりあえず、体を起こす。


「なまえ先輩、好きです。俺と、付き合ってくれませんか?」


先輩の手を握り直し、軽く力を込める。


『……………』

「…なまえ先輩?」


やっぱり、告白のやり直しなんて駄目だろうか。


『…黄瀬ってこんなに格好良かったんだね、』

「えっ」

『私知らなかったよ』

「…先輩今まで俺のことどう思ってたんスか」

『可愛い後輩?』

「……………」


好きな人に限って、持ち前の容姿は通用しないらしい。でも、


「じゃあ、どうして今、格好良いって…」

『今までは可愛い後輩。だけど、今はもう、好きだから。好きになると格好良く見えるのかな。』


照れたようにはにかんだなまえ先輩が、愛しくて愛しくて。でも、ぐっと堪える。


「…なまえ先輩、返事は?」

『…はい!』


俺が初めてなまえ先輩のことをなまえ先輩、と呼んだ時と似た、満面の笑みと元気な返事が返ってきた。
あの時と違うのは、俺となまえ先輩の心の距離。比べ物にならないぐらい近づいたと思う。
なまえ先輩が、さっき俺が握った手に返事をするように、ぎゅっと握り返してきて、なまえ先輩に込み上げる愛しさがついに堪えきれなくなった。握った手を引き寄せなまえ先輩を抱きしめる。


「俺、先輩のこと死ぬほど大事にするッス!」

『…黄瀬は何回死ぬつもりなの?』

「なまえ先輩、好きッス!」

『うん。さっき聞いたよ。』

「でも大好きッス!」

『うん。元気になってきたみたいだね。とりあえず熱測ろっか。』

「先輩好き!」


先輩への愛しさから来る俺の暴走は、しばらく止めることが出来なかった。





* * *

2012.10.03




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テーマ「人外ファンタジー」
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