心に垣をせよ #17 「…なぁ、」 『あれ笠松いたの、』 「いたよずっと!」 『えー全然喋んないから気づかなかった』 「お前らがバカみたいな会話してるからだろ」 『賢い会話しかしてませんー』 「……………」 『あ、下にサンドイッチ作ってあるから持ってきて。私今手離せない』 「……ったく、」 「ほらよ、」 『ありがとー、じゃ、いただきます』 「いただきます」 『あー昨日の夕方ぶりの食べ物超おいしー』 「…で?昨日何があったか話して貰えるんだろうな」 『んー…、まぁざっくり言うとー…、襲われかけてましたみたいな?』 「……………あ゛ぁ?」 『笠松、こぼしてるこぼしてる』 「………お前それどういうことだよ」 『そのまんまの意味だよ。あとちょっとでファーストキス奪われちゃうきゃー、…ってとこで黄瀬に助けてもらった』 「………それ、黄瀬ヤバかったんじゃねぇの」 『…うん、あとちょっとで相手殴るとこだった』 「……………」 『あ、でも大丈夫だよ。黄瀬結局殴ってないし。私もちょっと体触られたぐらいで済んだから。』 「…ぐらいで済んだ、って…お前…」 『…まぁ、ちょっとショックだったけど…、黄瀬のおかげで本当にもう全然大丈夫なの』 「……………」 「…なまえ、せんぱ…」 『…黄瀬?』 「……………」 「…寝言か?」 『…ふふ、可愛いね』 「…別に、」 「…なまえせんぱ…」 『どうしたの黄瀬、』 「…なまえせ、ぱ…す、き…」 『……………』 「……………」 「…だ、すき…」 『…黄瀬、』 「……………」 『……………』 「…なまえお前、黄瀬のことどう思ってんの、」 『え?』 「いくらバカだっつっても、もう気づいてんだろ、こいつの気持ち」 『……………』 「……………」 『……………ねぇ笠松、今の…告白かな、』 「……………さぁな、」 『………だって、黄瀬優しいんだもん、』 「……………」 『……………』 「…お前バカのくせに何ゴチャゴチャ考えてんだよ」 『…え?』 「お前もバカ、黄瀬もバカ、じゃあバカ同士でいいんじゃねぇの」 『…なにそれ、』 「だってそうだろ、」 『……笠松は、私が黄瀬のとこ行っちゃっても…寂しく、ないの、』 「……………」 『私は、寂しいよ』 「………バーカ、寂しいって何だよ。んな訳ねぇだろ」 『……………』 「……まぁ、もし黄瀬に泣かされたら、そん時は俺がそのバカぶん殴ってやるよ」 『……………』 「……何だよ、」 『……ふふ、なにそれ。…あーあ、まさか笠松にこんなことで背中押されるなんてね。一生の恥だわ。』 「あぁ?」 『…ありがと』 「…ふん、」 「ん…」 『…黄瀬?』 「んー…、なまえ先輩?」 『あ、黄瀬起きたー、おはよ、』 「…おはよ、ございます…」 「…じゃあ俺そろそろ帰るわ。」 『…練習?』 「あぁ、」 『悪いね、時間とらせちゃって』 「…別に。おい黄瀬、お前明日の練習は来るな。その風邪死んでも治して月曜から死ぬまで練習な。」 『…笠松…何言ってんの』 「…俺、どうやっても死ぬんスね…」 「じゃあな、」 パタン… 起きてもなまえ先輩が俺の手を握っていた。俺が寝ている間中ずっと、離さないでいてくれたのか。凄く幸せな夢を見ていた気がするのはそのせいだろうか。 『…あれで笠松心配してるんだから、びっくりだよね』 「…笠松先輩は、そういう人スから、」 『…ほんと、せっかく優しいのに、口悪いから台無しだよね』 「………なまえ先輩は、本当笠松先輩のこと大好きなんスね。…悔しくなるくらい。」 『え、』 あ、俺何口走ってんだ。 「あ、いや…」 『…熱出してる時にごめん。聞いてほしい話がふたつあるんだけど、いい?』 「…もちろんッスよ」 『ありがと。…私、毎日笠松が帰ってきたら家の前で笠松と話てるんだけどね、』 「あ、それ笠松先輩から聞いたッス。なまえ先輩がそうしろって言ってるって…」 『うん。なんでだと思う?』 「それは………」 ただ単に、笠松先輩と話したいだけじゃないのか。 『笠松ってさ、口悪い癖にお人好しだと思わない?』 「はい、」 『だからすぐ色んなもの抱えこむんだよね』 「…はい、」 『お人好しで、責任感が人一倍強くて、意地っ張りで、自分のことはすぐほったらかしで、それでちょっと繊細で…』 「……………」 『笠松は、私や黄瀬のことバカだバカだって言うけど、結局アイツも相当バカだよね、』 「……………」 『…私がアイツと毎日話すのは、すぐ溜め込む笠松がパンクしないように、少しでもアイツの話聞いてガス抜き出来たらと思ったから。わざわざ時間作んないと話す機会とか実は無いから、帰る時にはちゃんと連絡する約束もして。』 「……そうだったんスか、」 『うん。もし笠松がなんか抱えこんでそうだったら、とりあえずジュース奢ってみたり…。でも、それぐらいしか出来ない。昔と違って、私笠松のことで知らないこといっぱいある。…私だけじゃ、もう笠松を支えてあげられない。…もちろん、今はチームのみんなが私以上に笠松を支えてくれてるのは知ってる。でも、改めて、幼なじみとして言わせてね。熱出してる後輩にこんなこと言うのはちょっとあれだけど…』 「? なんスか?」 『…笠松を、よろしくお願いします。』 「……………」 …まったくこの人たちは。 昨日は笠松先輩になまえ先輩を頼む、って言われて、今日はなまえ先輩か。本当なんなんだ。そんなこと思いながらも、自然と顔は笑ってた。 「…それ、昨日笠松先輩にも言われたッスよ?」 『え?』 「なまえを頼む、って。」 『…黄瀬は後輩なのに、先輩の面倒見なきゃで大変だ。』 「まったくッス。本当世話の焼ける先輩たちッスね。」 『うわムカつくー』 「言われ慣れてるッス。」 『ふふ、流石。』 「それで、もう一つは?」 『うん。あのね、』 * * * 2012.10.1 |