心に垣をせよ #13 『…今最後…何したの?』 「おまじないッス!」 『おまじない?』 「へへ、詳しいことは内緒ッスよ!それよりもう寝た方がよくないスか?」 『え、あ、そうだね、…黄瀬、明日部活は?』 「オフッス」 『えーほんとに?隣のキャプテンに聞けばすぐわかるんだからねー』 「なまえ先輩、明日は業者の校内清掃で学校立ち入り禁止ッスよ」 『…あり?そうだっけ?』 「先輩普段土曜日に学校行かないから気にしてなかったんでしょ」 『…そうかもー、』 「だから、俺のことは気にしないで下さい!」 『…じゃあ、明日がお休みの黄瀬くんに、気にせずお願いしていい?』 「なんでもどうぞ!俺に出来ることなら!」 自分の胸をどん、と叩いて見せる。 『一緒に寝て?』 「まかせてくだ…え?今なんて?」 『一緒に寝て?』 「…え?」 『一緒に寝て?』 「……………」 『……………』 「え、」 『え?』 「えぇぇえぇえぇぇ…!!」 何を言い出すんだこの人は!!俺男ってわかってる?あなた女の子ってわかってる? 『…笠松はいつも一緒に寝てくれるよ?』 「男がみんな笠松先輩だと思っちゃいけませんんん!!」 『…? 黄瀬何言ってんの?』 先輩こそ何言ってんの!俺ぶっちゃけ先輩のさっきの声!俺が耳とか触った時に出たあの声!あれでかなりヤバかったんだからね!マジで!なのに同じ布団で一夜を過ごすだなんて…耐えられるのか…俺…!! 俺が心の中の葛藤を体中で表していると、 『…嫌なの?』 「嫌じゃない!!嫌じゃないんスけど…だから…こう、あの、もぅあぁぁ!」 なまえ先輩はなんも思わないの?なんでそんな無防備なの?そんなんだから今日みたいな目にあうんだ!…俺、笠松先輩の苦労ちょっとだけ分かった気がする。 『…ふーん、黄瀬くんは今日あんな目にあった私を一人にするんだー?』 「え!いや!ちが!…ぅあーもー!!わかったッス!俺、なまえ先輩と一夜を共にするッス!!」 『えー何その言い方ー』 「覚悟を決めたんス…!!」 『…そんなに嫌か。』 「…いや、むしろ嬉」 『私の部屋2階だからー』 …ボソッと言った俺の本音は、先輩には聞こえなかったらしい。 先輩の後を追って階段を上がっていく。 「わ…」 招き入れられたなまえ先輩の部屋は、なんというか…なまえ先輩の部屋だった。可愛いとか、綺麗とか、そういうんじゃなくて、あ、いや、そうなんだけど、それよりもまず、あ、なまえ先輩だって思った。雰囲気とか空気とかがなまえ先輩。なまえ先輩が普段ここで過ごしているから作られた空間。 「あ…」 箪笥の上に飾られていた写真がふと目に入った。そこには小さい男の子と女の子が写っていた。 「これってもしかして…」 『10年ぐらい前の笠松と私。』 「…か、可愛い…」 『でしょ!笠松照れ屋だったからピースとか全然しなくてね、この時も私が無理矢理手繋いだの。本当この笠松可愛いよねー!まぁ今も充分可愛いんだけどさ。』 確かに、なまえ先輩は笑顔でピースしているのに対し、笠松先輩は、なまえ先輩と手は繋いでいるものの、そっぽを向いてふてくされたような顔をしている。…これは、可愛い。 「笠松先輩もなまえ先輩も今とあんま変わんないんスね」 『え?』 「笠松先輩は今も照れ屋じゃないスか。それに、なんだかんだ言っていつもやってくれるというか…」 『…ふふ、そうだね。最初は文句言う癖に、最後には手繋いでくれるし一緒に寝てくれるし。で、ありがとうって言うと照れちゃうんだよね。』 笠松先輩のことを思いながら話すなまえ先輩の表情は、とても愛おしそうだった。 「なまえ先輩は笠松先輩のこと…好き?」 『…うん、大好き。』 「…それは…恋愛感情?」 『うーん…家族的感情?みたいな?笠松のことは大好きだけど、付き合うとか、そういうんじゃない。この写真よりもっと小さい頃は笠松と結婚するって言ってたけど。』 「………へぇ、」 『笠松もね、私のことお嫁さんにするーって言ってたんだよ。』 「え!あの笠松先輩が…」 『あ、この話笠松にしない方がいいよ。多分照れ狂ってシバかれちゃう。』 「…そっスね。」 なまえ先輩の話を聞いてから改めてこの写真を見ると、本当にいい写真だと思う。飾りたくなる気持ちもわかる。この一枚は、二人の関係をよく写している。…ふたりは、本当に幼なじみ、らしい。 …勝手に口角が上がる。 俺、あの時バスケやんなかったら海常に来なかったし、笠松先輩にも会えなかった。笠松先輩に会わなかったら、なまえ先輩にも会えなかった。 …本当、人生ってわからない。バスケやる前の俺からは考えられないぐらい今が充実してる。楽しい。 バスケに出会えて良かった。笠松先輩に出会えて良かった。なまえ先輩に出会えて、良かった。 心から、そう思う。 * * * 2012.9.26 |