まぁいっか、楽しければ 「った〜、真ちゃんひでぇよ〜…、ごめ、なまえちゃん大丈夫?どっか痛いとことか無い?」 『……………』 只今の状況を説明するとですね、ずぶ濡れの私が校庭(砂)で倒されてます。誰に?高尾に。なんで?真ちゃんが投げたがら!高尾を!私に!真ちゃんひでぇよ〜… 「あれ?なまえちゃん?うっそどっか怪我した?」 『…やー、大丈夫ー。』 「ほんと?良かった〜。なまえちゃん立てる?」 『立てる。…ぶっ、』 「え、なに?俺今なんか面白かった?」 『いや、今めっちゃ爽やかに手差し出してくれたけど…さっき高尾が飛んできた時の顔が重なっちゃって…ブフー!』 「え、俺そんなに酷い顔してた?」 立てると言ったのに差し出してくれた高尾の手をありがたくお借りして、脚を踏ん張る。 『よっこいしょーいちっと!うん!高尾のあんな顔初めて見た!』 「えー…、ちょ、その記憶消して。んでめっちゃイケメンに書き換えといて。」 『やだよ一生忘れてやんない!死ぬ間際に思い出し笑いしてやる!』 「……………」 高尾が固まった。あれ私なんか変なこと言った? 『…高尾?』 「いや、なんでもないって!それよりなまえちゃん、背中見してみ?」 『…うん?』 固まっていた高尾は、はっとしたように動き出し、それから私に背中を見せろという。言われた通り、くるりと背を向けると、 「あちゃー、砂びっちり。」 『あちゃーマジですかい。』 手を背中にやると、私がまとう水に吸い寄せられた砂の塊がごろっと落ちた。指には細かく湿った砂が付着して、なかなかとれない。 『……………くっそ緑間ぁ…』 「………ぶっ」 『え?』 「っぶはははは…」 私が夜の校庭に佇み、真ちゃんへの怒りを小さく吐き出したら、高尾がお腹を押さえて、肩を震わせて、高尾にしては小さく笑い出した。 『え、なに?』 「ぶはは…シュール…」 『……………』 「とりあえず、着替えないとな。なまえちゃん、その状態で校舎内歩き回れないっしょ?俺とってきてやるよ。」 『ほんと!高尾やっさしー!』 「そっ、俺は優しいの。」 『私今度から高尾のことやさ尾って呼ぶね!』 「えー…やだそれ弱そう」 『えー…じゃあ何がいい?』 「…じゃあ、下の名前は?」 『下の名前?』 「そ。俺もなまえちゃんのことなまえちゃんって呼んでるしさ。」 …言われてみればそうだな。それに私も真ちゃんは真ちゃんだし。むしろ何で今まで高尾は高尾だったんだろ。あ、真ちゃんが高尾って呼ぶからか。 『…じゃあ、和くん。』 「…和くん?」 『そう。真ちゃん和くん。可愛いでしょ?』 「…ぶっは、うん、すげぇ可愛い。」 『えへへ、じゃあ和くん、私の体操着をとってきてくれたまえ!』 「………え?体操着?」 『うん?』 「学校指定の?」 『うん』 「ジャージは?」 『家』 「……………」 『うん?』 「いやいやいや駄目っしょそれ!変なマニアに襲われるっしょそれ!」 た…じゃなかった、和くんが急に焦りだした。変なマニア?体操着マニア?体操着集めてんの?秀徳の体操着ならネットで買えるよ? 『いやでも流石にびしょ濡れ砂ゴンで帰る訳には…』 「わかった!俺の貸したげる!Tシャツあっから!」 『えー流石和くん私尊敬しちゃう!』 「おーどんどん尊敬しちゃって。じゃあ予備のTシャツ部室のロッカーだからさ、ちょっとついてきてよ。」 『イェスキャプテン!』 −−− 「…あれ、まだ電気ついてる。」 もしかしたら鍵取りに行かなきゃいけねーかもって思ってたのに。と高…和くんは言う。 「…あ、宮地さんだったんすか」 和くんが部室のドアを開けると、今ちょうどドアを開けようとしてましたってポーズの宮地さんとやらがいた。 「…高尾?」 「宮地さん忘れ物か何かすか?」 「あぁ数学の問題集取りにきた」 「うわぁ真面目っすね…」 「お前と一緒にすんな俺は真面目な男なんだよ」 「え〜そうは見えねっす」 「アハハよし緑間の次はお前をブッ殺ス」 『あの…』 「……………っ!!」 和くんの後ろから少し顔を出して宮地さんとやらに話しかけてみたら、宮地さんは一歩後ずさって絶句した。雷に撃たれたような衝撃を受けているようだ。 「高尾…っ、お前…彼女いたのか…っ」 「へ?」 「つーか彼女びしょ濡れじゃねぇか!! お前らこの短時間で一体どんなプレイしてたんだ轢くぞ!!」 『たわしプレイです』 「なまえちゃん!?」 「たわ…っ!? 高尾お前…マニアックな奴だとは思ってたが…っ」 「とっ、とりあえず彼女にシャワー室かしてやっていいすか!彼女この通りびしょ濡れだし背中も…こんななんで!」 高尾にくるりと体を反転させられ、宮地さんとやらに背中を見せる形になる。 「…お前…びしょ濡れの彼女を校庭に押し倒」 「あーもー話はあとっすよ!ほらなまえちゃん!許可貰えたからシャワー浴びちゃいな!」 『えぇいいの?』 「着替えるだけじゃ太刀打ち出来ない状態でしょ!」 『わぁ流石和くん!やぁーやっぱ持つべきものは高尾だね〜』 もしかしたら和くんと仲良くなれた時点で、その人は人生の勝ち組になれるのかもしれない。 「はいじゃあこれ俺のTシャツ!とタオル!下はスカートでもまぁいけるっしょ!シャワー室向こうだからパパッと行ってきなさい!」 『和くん素敵!ハイスペック母ちゃん!ありがとう行ってきます!』 拝啓真ちゃん、今日もあなたの高尾くんはハイスペックです。 まぁいっか、楽しければ * * * 2012.11.18 |