きらいだ 俺は、いつも避けられていた。 避けない奴もいるにはいるが、そんな奴らも苦手だ、とか、気は合わない、と言っている。 しかしそんなものは関係無い。 避けられようが嫌われようが、俺のやることは変わらない。毎日、練習をし、おは朝のラッキーアイテムを持ち歩き、尽くせる人事は全て尽くす。ゆえに俺のシュートは落ちない。 …今まではそう生きてきた。 が、高校には今までとは全く違う生き物が生息していた。それが、授業中にも関わらず俺の背後で惰眠を貪るバカ2匹、高尾とみょうじだ。いや、高尾はまだわかる。俺と高尾の間にはバスケがあるからだ。もしバスケが無ければ、俺とアイツは全く会話しなかったかもしれない。 問題はみょうじだ。アイツはバスケと全くもって関係無い。にも関わらず、入学早々、嬉々として俺につっかかってきた。しばらくすると、高尾とタッグを組んでつっかかってきた。 厄介だ。こんな厄介な敵と当たったことは今まで無い。 そんなことを頭の中でこねくり回していると、紙くずが飛んできた。誰だ人の机の上にゴミを投げつけるバカは。 考えるまでも無い。小さくため息をついたあと、思いっきり斜め後ろを睨む。そこには、どこかの黄色いバカを彷彿とさせるような、バカみたいに笑うみょうじがいた。 …何のマネだ、と声には出さず、唇だけ動かせば、向こうも唇だけ動かしてきた。 よ、ん、で。 …読んで。この紙くずをか。仕方なくこの小さく折りたたまれた紙くずを開く。 "真ちゃん今日のラッキーアイテム何?" 今日はカエルのおもちゃとか、狸の信楽焼とか、そういう類のアイテムでは無かったから気づかないのだろう。今日の俺のラッキーアイテムは消しゴムだ。そう書いて紙くずを投げ返そうと思ったところではっとした。 アイツは、暇に違いない。 暇だから俺とこの紙くずで会話をしようとしているに違いない。ならば、俺が返事を書いて投げ返してしまったら、みょうじの思うつぼだ。それは避けたい。今まで散々アイツの茶番に付き合わされて、何故授業中にまでアイツと遊んでやらなければならないのか。 いつまでも付き合ってやると思うなよ。そう鼻で笑い、その紙くずをそのままゴール目掛けてシュートした。紙くずはいつものように大きく弧を描く。 ――俺のシュートは落ちない 紙くずが弧の頂点に達し、あとは落ちるだけ。 そこに、ふわりと風が吹いた。心地よい風だ。いつもならば。 そいつは俺を嘲笑うかのように、紙くずの軌道をねじ曲げ、ゴールでは無く数学教師のハゲ頭までふわりと運んだ。 「……………っ!!」 「…誰かな、先生に紙切れを乗せたのは。」 数学教師が振り返る。 そこには小さくシュートフォームに入ったままの俺がいた。 「…緑間くん、」 「いや!それは完璧にゴールに入るはずだったのに、風が…」 「緑間くん、このあと職員室に来なさい」 キーンコーンカーンコーン チャイムが、鳴った。 振り返ると、肩を震わせて呼吸困難に陥っている高尾とみょうじがいた。 「…嫌いだ、お前たちなんか。」 きらいだ * * * 2012.10.13 |