scherzando | ナノ




私は太鼓じゃありません


「あっなまえちゃーん!」

「高尾!」


朝、教室に入ってそうそうクラスメートで隣の席の高尾和成に名前を呼ばれ、こっちこっちと手招きされる。


「おはよ。」

「おはよ。ね、これ、ありがと。」

「あぁ、早いね?」


高尾から手渡されたのは、昨日わたしが貸した少女漫画。最近映画化とかもされて、今凄い人気なやつ。


「で、どうだった?」

「ヤバい超ときめいた!」

「でしょ!でしょ!」

「いや実際マジヤバいって!ここでこの台詞はヤバいって!俺でも落ちるね!」

「朝からうるさいのだよ…」


自分の真後ろで繰り広げられる会話が気にくわなかったのかなんなのか、くるりと振り返った男子生徒は、ろくに挨拶もせず、開口一番まず文句を言ってきた。


「あ、真ちゃんおはよ」

「…その呼び方はやめろ」

「なー真ちゃんも読んでみろよこれ」

「…元はといえばお前がそんな呼び方をしたからみょうじも呼び出したのだよ!やめろそれ!」

「えーいいじゃんね、真ちゃんって」

「そーだよ。可愛いじゃんね、真ちゃんって」

「………」


真ちゃんは、不服だ、と誰が見ても読みとれる表情をしたが、この会話も既に日常と化しているので、それ以上口には出さなかった。


「それより、ちょっとこれ読んでみろって。ドキがムネムネすんぜ?」

「ムネムネすんぜ?」

「俺はそんなチャラついたものは読まない」

「何言ってんの真ちゃん!わさ子と風遅くんはね!全然、一ミリも、チャラついてなんかないんだからね!」

「そーだそーだ!」

「お前たち二人が揃うと腹が立つことこの上ないのだよ」

「真ちゃんも文句ばっか言ってないでクラスで浮いてる子ちょっと落としてこいよ」

「えっ、真ちゃん風遅くんになるの!」

「あっでも駄目だ高尾!クラスで浮いてる子って言ったら真ちゃんだったわ」

「え、じゃあ真ちゃんがわさ子?」

「………」

「………」

「「ぎゃはははは!!!」」

「何なのだよ!!!!」


わたしと高尾の高らかな笑い声により、ついに真ちゃんが爆発した。あらあら、そんなに取り乱さなくても。


「いいじゃん!ぴったりじゃん!真ちゃんも修学旅行前になったら友達にひもパン選んで貰えばいいじゃん!」

「ヒィィィやめて!笑い死ぬ!真ちゃんひもパンぎゃはははは!」

「え…緑間お前…ひもパンなの?」


先程まで背筋を伸ばして大人しく座っていた真ちゃんが、急にガターン!と立ち上がって叫んだものだから、クラスメートが何事かとその後の会話だけ聞いたのだろう。それだけ聞けば、緑間=ひもパンとなっても仕方ない。驚いた近くのクラスメートが会話に入ってきた。


「そうなの柳葉くん。真ちゃんったら…ついにひもパンデビュあいたっ!!ひどいよ真ちゃん!」


ちょっとふざけただけなのに頭を思いっきり叩かれた。ちょっと、今いい音だしたよ私の頭。


「お前の方が!!よっぽどひどいのだよ!!!」


大きな体を思う存分振り回して怒る真ちゃん。そんなことしたら、益々注目浴びて、緑間=ひもパンが広まってっちゃうよ。


「あーあー落ち着けって真ちゃん、ひもパンなのばらされたぐらいいいじゃんかよー」

「え…緑間くんって…ひもパンなの…?」


ほら。真ちゃんまた自分で緑間=ひもパンを広めちゃったよ。もっと大人の対応しないと。


「そうなのあかりちゃん…。真ちゃんったら…ついにひもパンに手を出しあいたぁっ!!」


再びスパァン!といい音が教室中に響き渡る。


「もう真ちゃんバスケ部やめて吹奏楽部入りなよ!絶対パーカッションの才能あるって!」

「俺は!!!ひもパンじゃない!!!!!」

「っぶ、ぎゃははははひぃーもーダメ限界!!!」

「高尾!!!」

「ムリムリぎゃはははは!!!!」

「ちょっと高尾、笑いすぎだよぶくく…」

「お前も笑ってるだろ!!」


スパァン!


「あいたっ!」

「お、落ち着けよ緑間…いいじゃんひもパン、俺は好きだよ?」

「そうだよ緑間くん…他の人には秘密にしとくから、ね?」


真ちゃんがあまりにも私の頭をいい音でスパンスパン叩くから、柳葉くんもあかりちゃんも心配して真ちゃんを宥めにかかる。


「そもそも俺はひもパンなどではない!!!!」

「うるさいぞ緑間ー、オラ席つけー」


真ちゃんがひもパン宣言をしたところで、担任が入ってきてしまった。ちぇ、もう少し真ちゃんで遊びたかったのに。

しかし真ちゃんよ、いくら何でも叩きすぎだろ。わたし仮にも女だよ?斜め前に座るパーカショニストの背中を軽く睨みながら頭をさする。


「なまえちゃん、」


横から小声で高尾に呼ばれる。何?と、高尾の方に顔を向けて目線で答えれば、ちょっと頭かして、とのジェスチャーが。まさか高尾までわたしのこと太鼓扱いするんじゃないだろうな。ちょっと疑いつつも、首を横に傾けて頭を差し出す。


「痛いの痛いの飛んでけー」


そう言って高尾は私の頭を撫でた。


「真ちゃんのとこまで飛んでけー」

「………」


あ、高尾が余計なこと言うから真ちゃん今度はパーカショニストから殺し屋に転職したよ。めっさ睨んでくるよ。そんなのわたしたちには効果ないけどね。


「ありがと高尾。もう痛くない気がする。」

「どういたしまして。」

そう言って高尾は、真ちゃんの殺すぞオーラなんて気にもとめず、ニッと笑った。


「おい緑間ーいくらHRでもとりあえず前は向いてろよー」



私は太鼓じゃありません
* * *
2012.10.10




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