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スケルツァンド


真ちゃんが忘れ物だなんて、変わったこともあるもんだ。ポケットに手を突っ込みながら俺は一人校庭を歩く。
…なまえちゃんも、変わっちゃったな。俺から話しかけようとしてもなまえちゃん全然聞こえてないみたいだし。本当、ここ一週間で俺何回「むり!」って言われたよ?一回しか告ってねーのに2000回ぐらい振られてんだけど。流石にへこむって。


「ーーー!」


はー、とため息を零していると、後ろから地面を蹴る音と声が聞こえてきた。なんだろ、真ちゃん?


「ーかーおー!!」


振り返って、ぎょっとした。
真ちゃんがバンザイしながらすごい剣幕で走ってくる。その後ろを、宮地さんがバンザイしながら走ってる、表情は見えないけど。そして、4バンザイの上に乗るは、なまえちゃん。…なんだあれ。どうしてこんなことに。


「「たーーーかーーーおーーー!!!!!」」
「お前たちいい加減にするのだよ!!!!!」


真ちゃんと宮地さんが、なまえちゃんをぶん投げる。なまえちゃんはそのまま風を切りながらまっすぐ俺めがけて飛んでくる。


「ぇあああぁぁああああああ!!!!!」
「ちょっ、えっ、ちょぇああああぁぁああああ!?!?」


こんなこと前にもあった気がするとか思いながら、お互い叫びつつもなまえちゃんを抱きとめ咄嗟に後ろに跳んだ。少しの間体が浮いて、すぐに背中を中心に衝撃を受ける。


「ってー…、ちょ、なまえちゃん大丈夫?」
「………」
「あれ?なまえちゃん?」


なまえちゃんは俺の上に乗ったまま無反応だ。微動だにしない。表情も見えない。俺も状況が全然飲み込めない。


「ったくなんて世話の焼けるガキ共だよ」
「この中で一番ガキ面なのは宮地さんですけどね」
「え?緑間なにお前、俺が童顔って言いてーの?」
「童顔とは言ってません、ガキ面です」
「アハハ緑間てめぇマジ絶対轢きコロス」


真ちゃんと宮地さんはそんな言い合いをしながら俺となまえちゃんの脇を通り過ぎて行く。なんの説明もフォローもないらしい。


「………」
「うっ…ぐす…っ」


2人がいなくなってからしばらくして、なまえちゃんが俺の肩に顔を埋めたまま突然泣き出した。


「…え゛っ!?うっそなまえちゃん泣かないで!?ごめん嫌だよなすぐ離れっから!!!」


急いで体を起こしてなまえちゃんから離れようとする。しかしなまえちゃんは離れるどころか首に手を回してきた。これじゃあ離れられない。


「…なまえちゃん?」
「ちがうの…ご、めんね…っ」


辿々しい言葉使いでなまえちゃんは一生懸命話す。あぁ、俺はあの時、なんて安易な考えで行動してしまったのだろう。あれからずっとぐるぐる悩んでいるだろうなまえちゃんを見て、罪悪感に苛まれる。


「…俺の方こそ、ごめん。」
「あの時、つき、とばしちゃって、ごめん、ね…っ、うまく話せなくなっちゃってごめんね…っ」
「…俺のが、ごめん…」
「ちが…!ちがうの…」


なまえちゃんはばっと顔を上げて俺と目を合わせた。それからぐすぐすと鼻をすすりながら下を向いた。


「か…たっ、かたったかっ…ず…っ、和くん!」
「…!」


もう呼んでくれないだろうと思っていた呼び方に、心臓が跳ねる。


「…す、き、…です」
「…へ?」
「すき、です…」
「………」
「か、ずくん…?」
「ほんと…に…?」


全然予想していなかった超展開に頭がふわふわして、浮いたような声しか出ない。


「…なまえちゃん、」


しかし唾を飲み込んでなんとか自分を落ち着かせる。ゆっくりとなまえちゃんの肩に手を置き、額と額をこつんと合わせる。


「…付き合おう」


額がじわじわする。
自分の鼓動だけが聞こえている。


「…うん」


なまえちゃんは震える声で答えた。額を離してなまえちゃんを見れば、溜まった涙を溢れさせてから、笑った。


「なまえ…!!」


なまえちゃんの頭と背中に手を回して確かめるようにぎゅうっと抱きしめた。


「…別れるとかほざいたら轢きころすのだよ?」
「…ぶっは、了解」




スケルツァンド
* * *
2013.02.17




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