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サイテートリオ


最近、高尾が変だ。前より少し口数が少なくなった。実にいい傾向だ。あいつは黙って俺にパスを回し、リアカーを引き、おしるこを献上してればいい。
しかし、その分みょうじがうるさくなった。口数は前より減ったし、声がでかくなったわけでもない。ただ、口を開けばエセ韓国語だし、前より悪質な嫌がらせをしてくるのだ。

…おそらくそれは、高尾とみょうじがぎくしゃくしているのが原因なのだろう。だから早く回収しろと言ったのだ。やはり俺にしわ寄せが来ているじゃないか。まったく、なにを高尾はもたくさやっているのだよ。


「…真ちゃん最近機嫌わりーね」
「頭に花咲かされて喜ぶのはお前とみょうじぐらいだ」
「ははっ、そりゃそーか。…っあー、今日の晩メシなんだろなー。」


高尾は隣で呑気に伸びをしながらハラへったーとへらへら呟く。


「………」
「ん?どした真ちゃん?」
「忘れ物した。先行ってろ」
「?珍しいね?まぁいいけどさ。早く来いよー」
「………」


高尾の少ししょぼくれた背中が視界からいなくなるのを待って、俺は口を開いた。


「…なにをやっているのだよ」
「むりダムニダ!むりダムニダ!」
「無理じゃねーバカ埋めんぞ!」


脇にある植え込みを覗けば案の定宮地さんとみょうじがいて、なにやら複雑に絡み合いながら小声で言い争っていた。やはり先ほど感じたあのアホくさい雰囲気はこの2人だったか。


「お前いい加減にしろよ!?見ろあの高尾のしょぼくれっぷりを!見てらんねーよ!緑間てめぇからもこのわからんちんになんか言ってやれ!」
「部に支障が出ない限り高尾がしょぼくれるのは悪いことではないのだよ」
「お前サイテーだな」
「真ちゃんサイテー」
「一番サイテーなのはてめぇだろ!!!」
「いたいっ!!!」


しっかり俺の悪口を言ったあと、再び宮地さんとみょうじは取っ組み合いを…というか、宮地さんがみょうじを一方的に痛めつけ始めた。全く、これじゃあ埒があかない。高尾もこいつも、なんて世話の焼ける奴らだ。


「おい緑間なんだその腹立つため息は」
「宮地さん、ちょっとそいつ寄越してください」
「何に使うんだよ」
「撃ちます」
「え!?うそ真ちゃん!?やだミヤジさん助けて!!」
「体痛めんなよ、こいつ結構重い」
「ミヤジさんの薄情者!!!!」


喚くみょうじの首根っこを掴み持ち上げようとする。しかし、高尾と違ってみょうじは俺の手からちょろちょろと逃げ、宮地さんから離れようとしない。いつの間にそんなに懐いたのか。俺は再び大きくため息を吐き、みょうじを追い回す手を止めた。


「みょうじ…キサマこの一週間で俺の頭に一体通算何本の花をさしたと思っている」
「え…えぇっと…」
「約2000本だ」
「マジかお前どこのプロ野球選手だ」
「…それは何故だ」
「え?」
「お前は…高尾に話しかける前に心を落ち着かせようとしたのだろう」
「………」


今までちょこまか動いていたみょうじの動きがぴたりと止まり、まっすぐ俺の目を見つめ返してくる。


「いいか、俺の頭に咲いた2000本の花は、お前が努力した証だ。それだけは認めてやろう。」


大人しくなったみょうじの肩に手を添える。


「…あぁ、そうだな。だから最後に俺たちがお前の背中を押してやる。」


宮地さんが、みょうじの膝に手を添える。


「真ちゃん…ミヤジさん…」
「「…ぃよいしょおおおぉぉおお!!!!」」


そして、2人がかりでみょうじを地面と平行になるように持ち上げた。


「…え」


俺たちは走る。みょうじを頭上に掲げ、ひたすら走る。端から見たら、みょうじは地上約2メートル地点を飛ぶ元気100倍的ヒーローに見えるかもしれない。


「えええぇぇちょっ、えええぇえええ!?!?」
「「たーーーかーーーおーーー!!!!!!」」




サイテートリオ
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