6限?気持ち悪いからパス 「わたしね、中2の終わりぐらいに初めて好きな人ができてね」 潔く5限をサボタージュすることを決めた俺たちは、並んで草の上に寝転んでいた。 「どんな人かって言うとね、外はクルクル中はパーみたいな人でね」 俺もなまえちゃんも互いの顔は見ずに、手を俺は頭の下で、なまえちゃんはお腹の上でそれぞれ組んでぼーっと空を見ていた。 「おんなじ領域に行きたかったんだけどダメでした、以上です」 ここに来た時は一番高いところにあった太陽が、ほんの少しだけ傾いていた。 「…なまえちゃん」 「わたし他人にこの話したの初めてなんだー」 「ごめんちょっとよくわかんなかった」 「…えー、人に話させといてちゃんと聞いててよ和くん」 一応、ちゃんと聞いていたつもりなんだけど。なまえちゃんの話が飛躍しすぎてたのか、それとも俺の理解能力が足りないのか。ね、どっちだろね。 「じゃあさ、俺から質問していーい?」 「どーぞー」 「外はクルクル中はパーってなに?なんの食品宣伝?」 「ちがうよー頭の話ー。外は天パで中はパーだったのー」 「頭いいのに?」 「成績は良かったけど普段やってることはパーだったのー。よく廊下でギムヨナ踊ってたよー」 「それはパーだなー」 「その点では真ちゃんにちょっと似てるかもねー」 「えっ」 片手をついてガバリと体を起こし、なまえちゃんを見る。鼓動がギュインと速くなった。 「え?」 「いや…ごめん、なんでもない」 思わず起こしてしまった体を再び草の上に寝かす。なまえちゃんは表情を変えずに俺を見返した。今のは意識せずに出た言葉だったのだろうか。 「あ、あと私服もダサくてねーストライプにボーダー合わせてきた時はどうしようかと思った」 「それはまぁ…アレだろ」 「そんなところもちょっと真ちゃんに似てるかもねー」 「………」 この話2度目の緑間の登場に、今度は少し眉間に皺が寄った。 「あとは運動も出来たりいろいろオプションもついてたけど一番好きだったのはあったかくて明るいところ…かなー」 首を動かしてなまえちゃんを見る。そいつのことを思い出しながら話したからか、頬を染めて目を細めて笑っていた。…好きだったんだろうな。 「一緒にいるとずっと笑っていられるんだよ。…そういうとこ、ちょっと和くんに似てるかもねー」 相変わらず彼女はゆっるいトーンで話しているけど、今の彼女のゆるい言葉は俺の鼓動をかき立てた。なんだか無性に彼女の手に触れたくなってしまった。 「その人と同じ高校は無理でもせめて近いとこには行きたいって思いついたのが出来杉高校だったんだよねー今思い返すとわたし単純ー」 でも、手を伸ばしかけたところでやめた。話の腰を折ってしまいそうだったし、それに、上手く言えないけどなんとなく躊躇してしまった。 「それで勉強嫌いのわたしが一年間必死扱いて勉強したわけですけれども」 なまえちゃんはソイツと手を繋いだりとか、したんだろうか。 「あと一歩及ばずーみたいな」 「手とか繋いだ?」 「え?」 彼女も首を動かして俺を見る。視近距離で目があって、あーこれが青春かーなんて変に冷静に思ってみたりした。 「手かー手は繋いでないかなー付き合ってないしねー」 彼女は俺から視線を逸らして再び空に目を向けて笑った。 「でも登校は一緒だったんだよ。下校はみんなでわいわいだったけど。あ、そうだ。手繋いだことはなくても、おでこコツンってしたことならあるー。」 「………」 「アレすごいんだよーおでこがジワジワーってなる」 「…なんで付き合わなかったの?話聞いてるとそれ両思いじゃね?」 「…やっぱそう思う?」 「うん」 「………」 「…なまえちゃん?」 お腹の上で組まれたなまえちゃんの手を見ると、ぎゅっと、少し力が入っているのがわかった。 「…だって、好きだったから」 「…?」 「別れる時つらいじゃん」 「…えっ」 「あのままでもわたしは楽しかったし、ほら、今もすごいいい思い出で終わってるし」 「ちょっと待って、なんで別れること前提なの?」 いつもポジティブすぎるくらいポジティブななまえちゃんから当たり前のように出たネガティブ発言に少なからず戸惑う。 「…え?」 彼女はぽかんと口を開けて俺を見る。別れる前提以外の考え方をしたことがないらしい。 「俺だったら、告る時、別れるなんてこと考えつきもしない。ただその子のことが好き、ってことだけ考える」 ゆっくりと自分の体を起こしてなまえちゃんを見る。まったく、なまえちゃんてば普段やりたい放題なくせして実は超乙女じゃん。なんじゃそりゃ。 「なまえちゃん臆病になりすぎ。せっかく可愛いのに、それじゃあ楽しい恋愛できないぜー?」 「むははは和くんわたし可愛いとかキャラじゃないから!なんで起きた瞬間に寝言?和くんさすがおもしろー!」 はーあ、まさかなまえちゃんにこんな一面があったなんて。知らなかったにもほどがあるっつの。5限受けるよりよっぽど勉強になった。おかげで踏ん切りついたわ。そのギムヨナも、もったいねー、こんないい子と両思いだったってのに。 「俺は真面目だよなまえちゃん」 俺の右横に寝そべるなまえちゃんを見据えて、笑顔を消す。右手は地面につけたまま、左手で彼女の組まれた両手ごと握る。 「…和くん?」 そしてそのまま彼女の額に自分の額をそっとくっつけた。 「なまえちゃん、好き。付き合ってください」 「………」 彼女は目を見開いて、黙った。額がジワジワしてるのを感じながら、なまえちゃんの反応を待つ。 「………」 あー…なるべく早くしてほしいかも。これすっごい照れっから。俺今顔赤いから。 「…えぇ?ちょ…その……ダメだから!!!!!」 「いって!!!!!」 やっと目の前の唇が動いてか細い声が出たと思ったら、いつもの元気な声でダメだと言われるのと同時に額を額で突き返してきた。突然の肉体的精神的衝撃に、俺は情けなくも尻餅をついて倒れる。 「わた…その…ダメだから!!!!!」 彼女はすくーんと立ち上がり、再び大きな声で俺を拒絶した。校舎からは5限終了を知らせるチャイムが聞こえてきた。 「あ!わたし6限出るね!!!和…たっかおくんも!早く戻りなね!!!でも戻って来なくてもいいよ!!!じゃあね!!!!」 彼女は自分の弁当袋をひっ掴み、足早に校舎の方へと去っていった。再び静寂が訪れて、時たま風が俺を励ますように吹き、小鳥が俺を笑うように鳴いた。陽の光は、広い地球上のこんなちっさい一修羅場になんて構うはずもなく、変わらず柔らかく輝いていた。 どさりと草の上に大の字に寝転ぶ。右腕を目の上に乗せる。別に泣いてるわけじゃない。泣くほど状況飲み込めてねーし。でもまさかこんな元気に振ってくれるとは思ってもみなかった。さすがなまえちゃんってとこ?人生初の告白は大玉砕で終了…っと。 キーンコーンカーンコーン… 6限開始、もとい俺終了のチャイムが響いた。 6限?気持ち悪いからパス * * * 2013.02.12 |