scherzando | ナノ




5限?今忙しいからパス


『えー!こんな場所あったんだ秀徳すごー!!』


なまえちゃんが喜んでいるようなので、ほっと一安心する。この場所はなまえちゃんとお昼を食べる時のために探しておいたとっておきの場所だ。


「でしょ。みんなには内緒だかんね?」

『うん!うん!』


さっきまで巨大二股大根から世界を救う夢を見ていたなまえちゃんだったけど、今はしっかり覚醒して目を輝かせている。


『私誰にも言わない!』

「うん、約束。じゃ、食べよっか。」


太陽の光が柔らかく降り注ぐ空の下、青々とした草の上で弁当の包みを広げる。校舎と大分離れた所のため、聞こえるのは俺となまえちゃんの声と、風が木々の枝を揺らす音と、あとはたまに鳥の鳴く声くらい。ライブ会場のように賑わういつもの教室とはえらい違いだ。


『それで?和くんは何に悩んでいるのかしら?この秀徳の母・マドモアゼルなまえが何でも相談にのりましてよ?』

「前に言ってたなまえちゃんの好きな人のこと聞きたい」

『ゲェェッホゲホッ!!!!ガハァァァ!!!!!』

「なまえちゃん!?」


相談内容を述べた瞬間に秀徳の母は盛大にむせた。とりあえず母の背中をさすって呼びかける。しかし相当変な所に飲んでたものが流れ込んだらしく、口だの首だの胸だのに手をあっちゃこっちゃやりながら母は俺の膝の上に倒れ込んだ。


「なまえちゃんだいじょぶ!?安心して俺がついてっから!!」

『和、くん…』


うつ伏せの母をひっくり返すと、目を涙で潤ませたなまえちゃんが俺の名前を呼ぶ。何かを掴もうとしているかのように空をさまよう彼女の手を強く握る。


『か…ず……く………』


彼女が再び力無く俺の名前を呼ぶ。


「ん?なに?どうした…?」


涙声になりながらも懸命に彼女に声をかける。しかし彼女が言葉を紡ぐことはもうなく、代わりにふわりと微笑んだ。綺麗だと思った。そしてそれを最後に、彼女はゆっくりと目を閉じた。意識していなかったらわからないぐらいの弱い力で俺の手を握り返していた彼女の手からは、意識しても力を全く感じられなくなってしまった。


「なまえちゃん…?そんな…嘘だろ…?」

『…………』

「なぁ…、なぁ…!!!返事しろよ…!!いつもみたいに…笑って…和くんって呼んでくれよ…っ」

『…………』

「…っ、助けてください!!!!!」

『ヤーラッフォエーバーまーぶたーをとーじてぇーきーみをーえがーくよぉー



(割愛)



「…………」

『…………』

「…話逸らすにしてももうちょっとやり方あったっしょ」

『うん…なんか予想を大きく上回ったね』

「…ぶっ、くく…っ」

『いやー映画の主人公にでもなった気分だったよー』


もう開かないはずだったなまえちゃんの瞼はいとも簡単に開き、俺の膝の上で呑気に笑う。


「いや、マジなまえちゃん天才…っ、くくっ」


今の寸劇が教室で行われていたら、いつもみたいに腹筋にヒビが入るほど笑い転げる気がするけど、なんでだろ。笑いより愛しさの方がたくさん込み上げてきてんのかな。喉で笑うぐらいですんでる。


『えーなに言ってんの後半ほとんど和くんの単独演技だったじゃん』

「そうだっけ?」

『そうだよー』

「…………」


なまえちゃんを独り占めできる幸せを噛みしめながら空を見る。今俺の膝の上になまえちゃん乗ってんだぜ?端からみたら恋人同士に見えるかもよ、これ。この体勢に至るまでの経緯はちょっとアレだけど。


『……和くんはさ、秀徳が第一志望だった?』

「え?…あ、うん。バスケしたかったから…」


すると、彼女は突然質問を投げかけてきた。今までの下りとは路線が全く違うのに戸惑いつつも、素直に答える。


『…私はね、第二志望だったの』

「え、そうなんだ?じゃあ公立受けた的な?」

『そう。どこだと思う?』

「えー…野比校とか?」


彼女がいたずら顔で俺に問いかけるので、適当に近場の公立高校を挙げてみる。


『ブー!正解はー…出来杉高校でした!』

「………へ?」


出来杉高校といったら、公立の中でも1、2を争うトップ進学校だ。そして、みょうじなまえといったら、秀徳の中でも1、2を争うトップ勉強嫌いだ。…どういうことだ。話が繋がらない。


『あー和くん今「どうして勉強嫌いがそんなとこ受けんだバカじゃねーの」とか思ってんでしょ』

「いやバカじゃねーのとは思ってねーけど…なんで?中学まで勉強好きだったとか?」

『まっさかー!世界で一番きらいだよむしろ今よりきらいだったよ』


今より嫌いって…あなた勉強に何されたの。それもう憎んでるよ。


「じゃあ…なんで?」

『…好きな人が成績良かったから』

「………え」


彼女にしては珍しくもごもごと小さな声で呟いた。しかし幸いなことに、今は風も鳥の声も止んでいた。はっきりと聞こえた。好きな人、と。


『ほらほらもう昼休み終わるよ!帰んなきゃ!』

「ちょっと待って」


起き上がろうと勢いをつけたなまえちゃんの両腕を咄嗟に掴んで起き上がれなくする。勢いを跳ね返され彼女は俺の膝の上に逆戻り。さっき照れた余韻を頬にうっすら残しつつも、きょとんとした表情で俺を見ている。


「…ごめん、もっと聞きたい」

『でも授業…』

「サボっちゃおーぜ。嫌いだろ?授業」

『…真ちゃんに怒られるよ』

「いつもじゃん」

『…………』

「な?いいだろ?」


ちょっと強引かもしれないけど、こんなチャンスもう二度と来ないかもしれない訳だし。


『…和くんって恋バナ好きなの?』

「あー…真ちゃんとかなまえちゃんのは特に聞きたいって思うのかも。」

『あーなるほどなるほど。わたしも真ちゃん和くんよっちゃん辺りのは聞いてみたいかも!…っぷー!無さそ!!』

「えー俺も無さそうなの?」

『えっ…あるの?』

「さーどうだろな?」

『なんだよやっぱないんじゃん』


ほんとはなまえちゃんがたまらなく好きだよ。…なーんて、な。


キーンコーンカーンコーン…


『あ、はじまっちった』

「今から怒られに戻る?」

『いやサボる』


…よっし作戦通り。

拝啓真ちゃん、俺はこれから自慢のホークアイでなまえちゃんという人間を見極めようと思います。




5限?今忙しいからパス
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