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ぼくたちティンカーベル


どうしてこうなった。この前数学の問題集を部室にとりにいったあたりから俺は運がない。こうなったらおは朝のラッキーアイテムでも持ち歩いてやろうか。


「ふぎぎぎ…!!」

「おーい遅いぞ宮地ー」

「うっせ!!」


ハイスペック高尾が緑間のためにつくったという特製チャリアカー。それを漕いで俺は学校に向かう。


「宮地さん、あんま力入れすぎっと逆に進まねーんすよこれ。」

「高尾、おしるこがもう無いのだよ」

「えーもう全部飲んじゃったのかよ」

「それより緑間、それはなんだ?」

「ラッキーアイテムだよな。今日は未成年アイドルのグッズなんだと。」


げ、信号赤になりやがった。あーくそ、後ろに野郎4人乗っけての漕ぎ始めほどつれーもんはねんだよ。


「宮地さんがかしてくれました。」

「つーか宮地さんKRK好きとか言ってませんした?」

「宮地の推しメンは20歳超えてるからな。」

「あ、それKRKじゃねんだ?」

「ふんぎぎぎぎ…!!」


信号が青になったので再び漕ぎ出す。あれ、っかしーな、さっきより重くなった気すんだけど。大分脚にきてんかな。


「ももコロだよ。宮地は人気が出る前から応援してたらしいな。」

「つーか大坪さん、宮地さんのアイドル遍歴詳しっすね?」

「あぁ、宮地につきあわされてるうちに俺も結構好きになってきてな。」

「ちょっとまて、ももコロって…俺知らねーよ…?」

「えぇまじすか木村さん!緑間でも知ってるすよ!?」

『ももコロっていうのはももいろコロンブスZのことで最近人気急上昇中のアイドルグループですよ!私たちと同世代の!』

「え、この子俺らと同世代なの!?高校生!?」

『そうですよ!今年は赤白歌合戦にも出るんですよ!』

「へーえ…、結構可愛いな…」

「ちょっと待て木村、お前ももコロ派か」

「いや俺は浅く広く派だ。」

『和くんは?なに派?』

「うーん…俺はなまえちゃん派かな!」

『やっだなー和くん正直ー!』

「あー俺らもなまえちゃん派って言えば良かった、なぁ木村?」

「あぁ、高尾に一本取られたな。」

「へへ!」

「それより高尾、おしるこが…」

『あぁ、おしるこなら私買ってきてあげたよ。はい。』

「…ふん、たまにはお前も使い物になるのだ…」

「つっこめやぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


さっきから黙って聞いてりゃなんだこいつら!!!全員目ぇ腐ってんのか!!!!


「大変だ、宮地がご乱心だ。」

「おっかしいだろうが!!!!!途中から明らかに一人余計なの増えてんだろうが!!!!!!なに最初からいたみたいな雰囲気醸し出してんだテメーらはよぉ!!!!!まとめて埋めんぞ!!!!!」

「…ちょっと待て宮地…、お前それ…誰のこと言ってんだ…?」

「荷台には最初から5人。それにな宮地、余計な人間なんてこの世にいないぞ。」

「木村大坪、お前ら気は確かか。」


俺の記憶が正しければ大坪も木村もこんなにバカじゃなかった。もっと信頼できる奴らだった。


『それよりミヤジさん、早く漕いでくださいよ。』

「学校に遅刻してしまいます。」

「……………」


うざいのは、この際無視だ。


「だいたいお前らいつそのちんちくりんと知り合ったの?早く離れろちんちくりんは風邪と一緒で移るぞお前ら移されかけてんぞ。」

「宮地、なまえちゃんはちんちくりんなんかじゃない。」

「心優しいジブリの主人公のような子だ。」


(大坪木村回想開始)


その日は、入学式だった。新入生の大半は公立中学出身だろう、見慣れない広い校舎で、まぁ自分の教室まで辿り着けない子たちが毎年ごろごろいる。


「あーあまた逃げられたな。」

「俺らは迷子の新入生に道を教えてあげようとしただけなのにな。」

「この前まで中学生だった女の子にとってでかくてごついだけの男は恐怖の対象なんだろうな。」

「まぁもう慣れたけどな。」

「どうせ俺らなんて制服脱いだらただのこわいオジサンだしな。」

「「ハハハハハ…」」

『すみませーん!!』

「「……………!!!」」


本当はすごく傷ついているのに、二人して強がって傷をえぐりあって渇いた笑いを無理やり絞り出していたその時、新入生と思われる女の子が俺らに声をかけてきた。


『ちょっとお尋ねしてもいいですか?』

「ど、どど、どうしたのかな?」

『私の教室どこですかね?』


その子は、自分の教室の場所を知らなかった。自分のクラスも知らなかった。そして、俺らに抱く恐怖も、知らなかった。正真正銘、純真無垢の真っ白な女の子だった。


(大坪木村回想終了)


「…ってなわけで、俺らは真っ白ななまえちゃんを導くティンカーベルだったんだ。」

「宮地、会いに行けるアイドルの時代はもう終わった。今は会いに行ける天使の時代だ。」

「……………」


俺が知らない間に、大坪も木村もちんちくりんに毒されていた。こいつらはもうちんちく予備軍じゃない、完全無欠のちんちくりんだ。何がティンカーベルだ轢くぞ。お前らなんかただの人面石じゃねーか。


『ミヤジさんっ!ちょっと、ちゃんと漕いでくださいよ!』

「学校に遅刻してしまいます。」

「あ、油さします?」


ちんちくりんのおかげで、大坪と木村がちんちくりんにされた。緑間は生まれた時からちんちくりん。高尾自体はちんちくりんじゃねーが、ちんちくりん厨。何が楽しくて後ろにちんちくりん5体も乗せてチャリアカー漕がなきゃなんねーんだ。あーくそ、どうしてこうなったかな。


「ふんぎぎぎぎぎ…!!!」



ぼくたちティンカーベル
* * *
2012.12.20




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