日一日君と | ナノ




君といると




『それじゃあ私買い物行ってそのまま黒子ん家で夕飯作って待ってるね。あ、今日はお風呂もちゃんと沸かしとくから。』

「…なまえさん、」

『…?』


黒子が私の名前を呼んだまま、要件を言わない。何か、凄く考えているみたいだ。そういえば、黒子も午後の授業起きてた気がする。彼もまた、何か疑問が自分の中に留まっているのだろうか。
私の中に留まる疑問。どうして黒子は火神などではなく、私を家によんだのか。そしてもう一つ、どうして私は黒子の家に行くことを承諾したのか。他の人の家にはおそらく行かないだろうに。
午後の授業いっぱい、ずっとそのことを考えていた。でも、全くわからない。このままずっと悩んでいても仕方無いので、とりあえず今は夕飯のメニューのことだけ考えよう。それが、私の、午後の授業を生け贄に出した結論である。


「…あの、なまえさん」

『なに?』

「今日も、待っていてくれませんか」

『え?いいけど…買い物、流石に行かないと…』

「それ、練習のあとじゃだめですか?僕ももちろん一緒に行きますし、荷物も持ちます。お風呂も沸かさなくて大丈夫です。」

『…昨日よりご飯も寝るのも遅くなっちゃうよ。』

「大丈夫です。」

『…どうして?』

「…その質問も5限が始まる前の質問も、答えるのちょっと待ってもらえませんか?必ず答えるので」

『…わかった。黒子が練習終わるまで待ってる。』

「…ありがとうございます」


…黒子が笑った。
あぁ、やっぱり私は黒子の笑顔が好きだ。お昼休みが終わってからずっとモヤモヤしてたけど、彼の柔らかい笑顔でもうどうでもよくなってしまう。


『…へへ、部活、行こ!』

「…はい」


−−−


「あら!今日もなまえちゃん一緒なの?」

『えっと、黒子に待っててって言われて…。あ、邪魔だったら言って下さいね』

「そんな!邪魔じゃないわよぉ!…それより、ふーん…」


あ、また監督さんがニヤニヤと…あ、危ねぇ。


「あ、そうだ!マネージャーの件!考えてくれた?」

『え、あ…』


やっべ、マネージャー!
そういやそんなこと言われた気がする忘れてた!


『すいません、もうちょっと待ってもらっていいですか』

「えぇ、待つわ!しっかり考えてね!それじゃみんな、練習始めるよー!」


私は舞台の上へ。あぁ、考えなきゃいけないこと多いなぁ。…いいや、全部あとで考えよう。今はバスケ部の練習を見よう。せっかくここにいるんだから。


−−−


「「っしたーーー!」」



『お疲れ黒子。今日ももうひと頑張り?』

「…あの、」

『大丈夫、待ってるよ。黒子がご飯食べるの遅くなるだけだからね。』

「…ありがとうございます」


バスケに真剣に向き合う黒子の姿に、自然と私の顔が綻ぶ。私、黒子の笑顔も好きだけど、バスケしてる時に見せる顔も好きだなぁ。


「…何笑ってるんですか」

『え、いや別に。もういいの?』

「はい。すみません待たせちゃって。」

『全然大丈夫。着替えといで』

「はい」



「お待たせしました。では行きましょう」

『……ね、やっぱり黒子先帰っててよ』

「……僕が一緒だと嫌ですか」

『…嫌じゃない、よ。っていうか黒子この間からそればっか。』

「なまえさんが嫌がることだけはしたくありませんから。」

『…黒子が一緒なのは全然嫌じゃない。でも、疲れてるんだから、』

「なまえさん、なまえさんが嫌じゃないのなら、僕も行かせて下さい。お願いします。」

『…どうして、』

「その答えも。明日、全部話します。だから、それまでは何も聞かず僕といてくれませんか」

『…わかった』

「じゃあ、行きましょうか」

『うん、』


黒子が訳わかんないのはいつものことだけど、今日はいつもより訳わかんない。黒子は、私の中にある疑問の答えを知っているのだろうか。…まぁ、彼の言う通り今は何も考えず、ただ彼と一緒にいよう。


『ね、何か食べたい物とかある?』

「なまえさんが作るものなら何でも。」

『何それ全然参考にならないじゃん』

「…じゃあ、ハンバーグ、とか」

『わかったハンバーグね。最初からそう言えばいいのに。』

「……………」

『あ、あとそうだ。黒子ん家ってさ、朝パン派?ご飯派?』

「いえ、特に決まってはいませんけど…」

『じゃあ…今日ご飯だったし明日はパンにしようか』

「はい」


今日の夕飯と、明日の朝昼の買い物をして、やっと家路につく。私が自転車をおして、籠に入りきらなかった袋は黒子が持ってくれた。「筋トレです」とか言って。無理しなくていいのに。



『じゃあ私ご飯作るから、黒子シャワー浴びてきちゃってね』

「はい、すみません」


これが、彼につくる最後の夕飯。まぁ2回しか作らないんだけど。でも、なんか寂しいなぁ。まぁ、ちゃんと栄養考えたもの買ったし、あと3食分、黒子が美味しいって言ってくれるもの作ろう。



「なまえさん、」

『あれ、黒子もう上がったの!ごめんもうちょっと待って!』

「…なまえさんが作ってくれる夕飯、最後なんですね」

『…うん、そうだね』

「……………」

『黒子!ほら出来たよ!座って座って!』

「…凄い品数ですね、」

『スポーツするなら最低これぐらい食べないと。あ、でも一つ一つの量はちょっと少な目にしてある。黒子少食だもんね。』


黒子がリクエストしたハンバーグをメインに、付け合わせのサラダや炒めもの、汁物と、黒子が食べきれる範囲内で出来るだけ多くの食材を使って作った。もちろん経費の方も出来るだけ抑えたつもり。


『「いただきます」』


「…なまえさん、これ…」

『…?』

「めっちゃ美味しいです」

『…へへ、』


−−−


「お皿は僕が洗いますから、なまえさんシャワー浴びてきて下さい」

『なんかこの2日でパターン出来たね』

「なまえさんが上がったらドライヤーですよ」

『…また私が黒子の髪乾かすの?』

「そのあと僕がなまえさんの髪乾かします」

『…うん』


そう言ってまた笑いあう。あぁ、黒子といると幸せだなぁ、なんて。


その日の夜は、彼の匂いのするベッドで、幸せと、少しの寂しさを感じながら眠った。





君といると
幸せになれるよ、

* * *

2012.9.9




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