日一日君と | ナノ




どうして君は




朝練も無事終わって、黒子と火神と3人で教室に向かう。


「…あー、黒子の寝癖ね」

『火神たちは朝練で黒子に会うじゃん。跳ねてる時誰も何も言わないの?』

「いや、一度あの寝起きの頭見ちまったらなぁ…もうあれぐらい誰も気にしないっつーか」

『私サイヤ人バージョンまだ見たことない』

「今度見せましょうか」

『いや、いい』


それから、午前の授業は3人とも爆睡した。火神の爆睡はいつものことだけど、私も黒子も普段なら爆まではいかない。寝てるけど。でも今日は、私はあんま寝てないし黒子は朝から体力消耗激しいしで、それはもうぐっすりであった。おかげで2人して4限が終わったあと火神に起こされた。なんという屈辱。


『…ん、もうお昼…』

「…よく寝ました」

『…じゃ、私友達と食べるから…』


くぁ、と欠伸しながら友人のもとへ。


「これより取り調べを行う。」

『…は?』

「お前、私たち友達じゃなかったのか」

『…はい?』

「いつの間に!彼氏!作ってんだよ!」

『…は?』

「黒子くん!あんた黒子くんと付き合ってんでしょ!いつからだ吐け!」

『…は?黒子?』

「まだとぼけんのか!こっちにはなぁ!数々の目撃情報寄せられてんだっつの!女の情報網なめんなよ!」

『…え、なにそれ』

「例えば…昨日あんたは男バスに見学に行った!そして二人仲良く一緒に下校!しかも!そのまま黒子くんの家入ってその日あんたが黒子家から出てくることは無かった!!で!今日は一緒に登校!ってことはお泊まりですね!へーぇほーぉ!チャリンコ二人乗りで来たんでしょ?あんたが黒子くんにしがみついてな!で!最後これ!弁当!黒子くんのと中身一緒じゃねぇか!てめ何愛妻弁当なんか作ってんだよ!」

『…………………』


友人のこの剣幕と、そして何より情報網に、私は言葉を失った。女の情報網なめんなって、世の女がみんなこんなんだったら警察いらねぇよ。


「何とか言えこの裏切り者!」

『………あの、話聞いてもらってもいいですか』

「惚気話をか!」

『いや、ちが』

「ってかお泊まりって!お泊まりって…!!あんたも黒子くんもそういうの疎そうなのにやっぱり今時の若者なのね!もうあんたは私の知ってるなまえじゃないのね!あんたは恋のABCどころか恋のXYZぐらいまで知ってるのね!」


どうしよう友人の妄想が止まらない。こいつ何勘違いしてんだ。恋のXYZって何すんだよ。相当卑猥だよそれ。


『話を聞けぇい!!』

「っ!!」


とりあえず友人に膝かっくんをかます。興奮して手がつけられない相手には膝かっくんが一番だよ。


『まず、私は昨日男バスに見学に行った。』

「……」

『そのあと黒子と一緒に帰って』

「………」

『そのまま黒子ん家泊まった』

ガタガタッ

『落ち着け』

「っ!!」

『で、今日は一緒に登校した。』

「……」

『二人乗りで来たし』

「………」

『今日の黒子のお昼も私が作った』

ガタガタガタッ

『落ち着け』

「っ!!」

『でも私と黒子は恋のXYZなんてやってないし』

「……」

『恋のAもBもCもやってない』

「………」

『っていうか付き合ってない』

ガタガタガタガタッ

『落ち着』

「そんな訳あるかァァァ!!」


…友人が爆発した。もう膝かっくんでは抑えられそうにない。


「そんな、そんな、そんな訳あるかァァァ!!」

『よしまず落ち着こう。深呼吸しよう。ね。はい吸ってー』

「スゥー」

『はいてー』

「ハァー」

『吸ってー』

「スゥー」

『はいて』

「そぉんな訳あるかァァァ!!!」


…もうダメだこいつ。
さっきから、そんな訳あるかァァァしか言わないよ。壊れちゃったよどうしよう。



「………………なまえ、それ本当なの?」

『……落ち着いた?』

「うん、ごめん。ちょっと興奮してた。」


本当にな!!


「で、それ、本当なの?」

『え、うん』

「……………お前ら、」


…あれ、おかしいな。今度は目に涙浮かべてるよこの人。うわぁ忙しくて大変だ。


「良かった、良かった…!!なまえも黒子くんも私の期待どーおりの人種だよ!なまえ鈍っ!!」

『は?』

「知ってる?あんたらみたいな人種、今絶滅危惧種に指定されてるんだよ」

『すいません何言ってんのか全然分かんないっす』

「なまえちゃん考えてもみなさい。あんたなんで黒子くんの家なんて行ったの?なんで男バスの練習見に行ったの?なんで黒子くんにご飯作ってんの?」

『え、頼まれたから?』

「じゃあ黒子くんはなんであんたに頼んだの?」

『隣の席だから?』

「あんたの話聞いてるとさ、それ火神くんでよくない?っていうか火神くんの方がよくない?」

『……………たしかに』


そうだよ。火神だって一人暮らしだから料理できるし、部活同じなんだから生活合わせるの楽だし、着替えとかだって気使わなくていいし、席だって前だし…。あれ、黒子なんで私に頼んだの?


「あんたもさ、いくら生活費浮くからって例えば…あんたの右隣の席の山下くん、いるでしょ?もし山下くんに同じこと頼まれたら、あんた山下くん家に泊まってご飯つくる?」

『…いや、』


残念ながらそんな気にはなれない。


「なんで?山下くん、顔もまぁまぁいいしサッカー部だしそこそこモテるし。いいじゃない」

『…いや、でもお断りする、かなぁ』

「どうして山下くんはだめで、黒子くんはいいの?」

『………………』


なんでだろ。たしかに、世間的には黒子より山下くんの方が人気ある気がする。でも私は山下くんに頼まれても断るなぁ。
っていうか、黒子じゃないとあんな面倒くさいこと引き受けない気が…っていうか黒子じゃないと1人じゃ家に行くことすらしない…かも?え、なんでだ?黒子も!なんで私に頼んだの?


「私から言えるのはこれくらいかな。まぁせいぜいよーく考えなさい!じゃ、私自分の席戻るから。あんたもさっさと黒子くんと山下くんの間に帰んなさい!」

『え、あ、うん…』



「なまえさん、お帰りなさい」

『え、あ、うん…』

「お弁当、美味しかったです」

『え、あ、うん…』

「………………」

『え、あ、うん…』

「…なまえさんどうしたんで」

『ねぇ黒子!ちょっと聞いていい?』

「…はい」

『どうして黒子は私に家来てくれなんて言ったの?』

「…ですから両親が旅行に行っ」

『じゃなくて!火神とかの方が都合良かったんじゃない?それなのに、なんで私?』


黒子が私の目を見つめながら、黙る。普段は黒子の表情からいろいろ読めたりするけど、今は何も読めない。彼が何を考えているのか、わからない。


「……………………それは、」

「うーい授業始めんぞオラァ」


………英語教師。なんて空気の読めない奴なんだ。日本で暮らしたいならなぁ、英語読む前に空気読めやちきしょー!


「すいません、また今度」

『…………うん、』


午後の授業は、珍しく寝ずに受けた。教師の話は何一つ聞いていなかったのだけど。





どうして君は
私を選んだの

* * *

2012.9.7




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