君の背中から ぱーんぱかぱーん、ぱぱぱぱーんぱかぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱーんぱかぱーん、てれれれ〜てれれれ〜たらりり〜、ぱぱぱぱーん… 私の朝は20世紀ファンファーレで始まる。本当に…本当に!私は朝が苦手で、少しでも一日のスタートを爽やかにしようと目覚ましにこの曲を選んだのだが、ぶっちゃけあんまり効果は無い。やっぱり朝は、つらい。しかも今日私を包んでるこの布団!寝る前も思ったけど、この布団ほんと幸せなんだよ。羽毛とか綿とかそんなんじゃなくて、幸せで出来てるよこれ。いやまじで。 『5時起きなんて何年ぶりだろ…』 とりあえず、着替える。顔洗う。髪とかす。そのあと、朝ご飯とお昼ご飯つくる。ふたり分。って言っても、昨日殆ど作っちゃったからそんなに大変な作業ではないのだけれど。あぁ、もう6時になる。黒子起こさなきゃ。 『黒子ー起きてー、朝ご飯出来たよー』 「…………」 むくり、と黒子が起きる。 「…おはようございます」 『…うわぁ』 初めて聞く、寝起き特有のかすれた声よりも、私は彼の頭に目がいった。 『なるほど、こうなるのね』 昨晩髪を乾かしたのにもかかわらず、彼の髪は今日も元気に空を仰いでいた。しかも今日は後ろだけじゃない。全部である。全方位射程圏内である。 「…やっぱり乾かすと違うんですね」 『え?』 自分の髪の跳ね具合を手で確認しながら、かすれながらも感心したような声を出す彼。 『いや…めっちゃ跳ねてるじゃん。スーパーサイヤ人じゃん。』 「…なまえさん、いつもはこんなもんじゃないんです。…今日はさしずめ…バオバブの木、といったところでしょうか」 朝起きて早々何を言っているんだこいつは。スーパーサイヤ人を甘く見ちゃだめです、じゃねぇよ。 『…わかったから、早く着替えてその寝癖なおしてきな。私バオバブの木と朝ご飯食べるの嫌だよ。』 黒子が支度をしている間に、ご飯と温めなおした味噌汁をふたり分よそう。 「お待たせしました。」 『…いや、後ろ。なおってない。』 「え?」 『ほら、ここ』 少し手を伸ばして彼の跳ねた髪に触れる。 「!」 『…どうしたの?』 「…いえ、…すみません、もう一度なおしてきます」 私が髪に触れた瞬間、びくっとして少し驚いたような顔をした。 …あの跳ねた部分にだけ神経が通ってるとか? …なーんつってな!いくら黒子でもそれは無いよ私。でも、本当にどうしたんだろう。 「…これでどうです?」 『ん、おっけ、大丈夫。じゃ、食べよ。』 『「いただきます」』 「…なまえさん、このあとどうします?」 『え、何が?』 「僕は朝練に行きますけど、なまえさんはもっとゆっくり出来るじゃないですか。」 『え、あーそっかー』 「…鍵、渡しておきますね」 『いや、』 「え?」 『私も黒子と一緒に行く』 「…え?」 『…いや、だめなら別にいいんだけ』 「いや!だめじゃないです!」 『…あ、そう?…って!やばいよ黒子!もう45分!』 「………やばいですね」 …今思い返せば、黒子が起きた時の、しばらくのあのくだらない会話がいけなかったんだと思う。ほんの数十分前の行動に反省しつつ、ふたり家を飛び出す。 『ほらもう走んなきゃ間に合わないよやばいやばい!』 「…自転車で行きましょう」 『え』 「後ろ乗って下さい」 『え、あ…うん』 「しっかり掴まってて下さい」 『…え、う、わぁ!』 速い。黒子チャリ漕ぐの速い。最初は肩に掴まってた私だけど、すぐに彼のお腹に手の位置を移動させる。 『ねぇ!これ警察に見つかったら絶対注意されるよ!』 「…なまえさんにはまだ言っていませんでしたが僕は気配を消すことが出来」 『私は出来ないよ!!』 しかもそれ火神から聞いたし! そんな会話をしながらも、凄いスピードで進んでいる。細くてもやっぱり運動部なん…いや、黒子めっちゃ辛そう。 −−− 「黒子くん!ギリギリじゃないの!どうし…って、あらなまえちゃん」 「お、はよ、う、ござい、ます…」 「なぁなまえ、なんで黒子こんな疲れてんの?」 『火神…いやバオバブの木がね…』 「は?」 君の背中から あの布団よりも強い幸せを感じたよ * * * 2012.9.6 |