さよならスピカ※学パロ
(レンリン)
夕暮れの色に掛かった曇がゆったりと流れていく。街の向こうに見える景色は淡い群青色に染まりはじめ、空はもうすっかりと夜の仕度を始めていた。
冬も間近な、11月の肌寒い空気。俺はその気温に、少しだけ身震いする。
「……わたしね、レンのことが嫌い」
「……知ってる」
「大大大っ嫌い」
「知ってるよ」
「大大大大大大っ嫌い」
「だから、知ってるっつーの」
俺は、隣に居た幼馴染みに繰り返す。そいつはマフラーに顔を埋めてるみたいで声はくぐもっているけど、その力強い口調に、俺は正直、すこしだけ安心していた。
そのまま、暗くなりつつある空を見上げる。本当だったらこんな、人気のない住宅街とかじゃなくて、駅前や、どこか別の暖かい建物に入りたい所なんだけど、リンが頑なにそれを拒否するもんだから、こんな人通りの少ない住宅街の隙間みたいな場所で2人、座り込んでる訳だ。
別にさ。誰もリンのことなんて見てないし、誰もリンのことなんて気にしてないのにな。「やだ、今こんなぐちゃぐちゃな顔、誰かに見られたくない」とか言い出して、まったく自意識過剰なんじゃねーの、お前。
隣でリンが、口を開く。
「ねえ、レン。……わたし、本当に、好きだったんだよ」
「……ん」
「本当に本当に、好きだった」
「知ってる」
「本当に、好き、で」
何が言いたいのか、続きの言葉はその口から漏れる嗚咽がかき消していた。
リンが、俺と繋いでいた手に、ぎゅうっと力を込める。
知ってるよ。リンがどんなに、あいつを好きだったかなんてさ。毎日毎日、うんざりするくらいあいつの話聞いてたんだから。あいつのどこが良いのかなんてさ、考えてみても、俺にはさっぱりわかんなかったけど。
リンが嗚咽を漏らしながら泣き続ける。俺は何も言わずに、その手を握っていた。ぎゅっと。するとその声はまた大きくなって「ごめんねごめんね、レンごめん大好きだよ嫌いだなんて言ってごめんね嘘だよ好きだようわああん」と、やかましく泣き立てるもんだからぎょっとしてリンを見た。
「だからお前、いつまで泣いてんだよ。もう学校出てからずっと泣いてんじゃん」
「出ちゃうんだからしょうがないでじょぉ」
「うわ鼻水まで出てる」
「これは寒いから仕方ないの!」
ずるずると鼻をかむリン。俺は、ため息を吐く。白く上がる息を追って見上げた
空に光って見えるのは、淡く輝く、一番星。
「……ほら、リン。本当。いい加減、泣きすぎだって」
「だってだって、泣きたいんだもんうああああん」
「うっわあ、引くわー」
思わず、笑ってしまう。リンと繋いだ手が暖かいから、それに、救われる。
ほんっと、馬鹿だな、リン。そんでさ、ごめん。
リンには言わなかったけど、俺、少しだけ汚いこと願っちゃってたんだよ。
好きな子を応援、とか。そんな格好良いこと、出来なかったんだよ。リンがあいつに振られて、ちょっと安心してる俺が居るだなんてさ。
そうだよ、お前は知らないかもしれないけどさ。本当は俺だって今、すっげぇ泣きたいんだ。
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書いていたらリンたんもレンきゅんもごめんな感じに。最終的にはハッピーエンドになるつもりでした。
続きはまたいつか。
2010/11/08