執務室の扉がゆっくり開かれる
淡々とした挨拶と一緒にキロが入ってくる
ノボリとクダリがいるはずのそこに、バチュルとヒトモシが座っていた

「…あれ」

専用の部屋にいないならばどこに行ったのか
不思議に思いつつ、急ぎではない書類を2人の机に分けて置く
一筆添えようとペンを取り出しメモを探す
いつの間にかやってきたバチュルが少し先をくしゃくしゃにしてメモ用紙を1枚咥えていた

「ありがとう」
「チュギィ!」

受け取ってそれぞれに宛てて書く
期限、内容、不備があった場合の担当者の連絡先
書類の山にそれをぺたりと貼り付けた
用が終わり帰ろうとするキロの前にヒトモシが何か包みを抱えて立っていた

「モシ!」
「?くれるの」

懸命に手を伸ばしている
屈み込んで手に取ると美味しそうなクッキーが入っていた
誰かがクダリにでも差し入れたのだろうか
食べるわけにはいかないと、キロがそっとクダリの机に戻そうとした時ヒトモシが怒り出す

「モシー!」
「きゃっ、あ、なに?」
「も、もしぃ!」

勢いよくキロに飛びつきよじ登る
一頻り怒った後、ノボリの机に飛び移った
ぺしぺしそこを叩いて整理された卓上から雑誌を取り出す
ヒトモシがページを広げクッキーの作り方が書かれた所でふんぞり返った

「ノボリさん、あなたのご主人が作ったの」
「もしぃ!」

クッキーの写真を叩いてからキロを指差す
ノボリが彼女に宛てて作ったのだと伝えたいのだろう
必死な姿に意味を読み取れたのかキロが微笑む

「じゃあいただこうか…間違っていたら、責任とってね」
「モシ!」
「ちゅぎー…」
「ああ、食べる?」

寂しそうに鳴いたバチュルに問う
ソファーへと2匹を運び腰掛けクッキーを1枚ずつ差し出した
さくさくと軽快な音が響く
何も特別な味付けはされていないが、甘味は程好く口解けも良い
あっという間に無くなってしまった

「じゃあ…」
「ちゅぎっ」

包みを丁寧に片付けるキロの膝上にバチュルが這い上がる
毛羽立つ身体を撫でれば毛の柔らかさが違う
瞬時にキロは顔を顰め、無言で毛繕いを始めた

「ん…此処か…」

毛繕いをしてもらっている間バチュルは大層気持ち良さそうに顔を緩ませている
それを傍らで見ていたヒトモシが、くいくいバチュルの前足を引っ張った

「もしぃー」
「あなたもする?順番ね」

5分程でバチュルのは終わりヒトモシが抱え上げられる
白い身体を解すように細い指が動く
瞳を閉じて此方も気持ち良さそうだ
膝上から降ろされたバチュルはうろうろと動き回り、服の裾を軽く噛んだ

「どうしたの」

キロの顔がバチュルに向けられる
青い瞳がきらきら輝いてぴょんぴょん跳ねた
寄せられた掌を甘噛みして静電気を吸う
突然止まったマッサージにヒトモシが顔を顰め、残った掌にぴたりと身体を添わせた

「…困った子達。寂しいんだ」
「ちゅぎぃ」
「もしっ」

2匹纏めて抱え上げころりとソファーに寝転がる
胸元に置いて片手でそれぞれを撫でる
穏やかな空間にやられたのか、キロの瞬きの回数が増えている
うつらうつらし始めた彼女の頬に2匹がくっ付いた
ヒトモシのほのおのからだが温かく、バチュルの毛並みの良さがふわふわとくすぐり眠りに誘う
すぅ、と綺麗な寝息が立った





「バチュル、いた」
「おや、ヒトモシも此方でしたか」

マルチトレインから帰ってきた2人がソファーを覗き込む
幸せそうに眠る1人と2匹を見下ろして笑った

「連絡はわたくしがしておきます」
「毛布、持ってくる」

起こさないようにそっと
書類に貼られたメモに気付いたノボリが目を細めた

"お疲れ様です。此方急ぎではありませんので、元気になられてからで結構です"

恐らくクダリの方にも同様に書かれているだろうメモを手に取る
ぺたりと机の隅にそれを貼り付けた
毛布をかけ終えたクダリも席に着く

「さっさと終わらせてしまいましょう」
「うんっ」

類を見ない速さで書類を終わらせた2人が、カメラを片手に構え喜び、起きた彼女によって絶対零度を喰らうまで、あと48分








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