つよいポケモン よわいポケモン そんなの ひとのかって

「――私、とてもこの言葉が好きなんです」

何気ない日の何気ない一言
ノボリの淹れたコーヒーを飲みながらキロが呟いた
傍らに佇んでいたサーナイトがどこか嬉しそうに笑い、その胸を赤く光らせた

「あなたが電車以外で好きと言うのはとても珍しいですね」
「そうかもしれません。好きは時々押し付けになりますから」

彼女らしい返答にノボリは頬を緩ませる
自分が好きであればそれでいい
他人に知られることもなく内に秘める感情を燃やして走り続けれれば

「ごちそうさまでした。持ち場に戻ります」
「お気をつけて」

ポケモンと一緒に頭を下げて部屋を去る
直後にかかったシングルトレイン運行の呼び出しに、ノボリも執務室を後にした
程なくしてホームにトレーナーが姿を現す
点検のため待機していたキロの肩を細い葉のような緑の手が叩く

「?」
「ぷぅぅぅぃ!」
「ハハコモリ…?」

少し屈むとその顔に擦り寄ってくる
勿論手持ちにはいないし、鉄道員達も使っていなかったはず
首を傾げる彼女の傍に1人の男性が近寄った

「あの…どうも」
「…あ」

おずおずと挨拶をしてきた彼を見て蒼い瞳を丸くする
ハハコモリに視線を移すと再び鳴いて笑った
クダリに負け逆上し、自分の手持ちであったクルミルを殴ろうとした人

「あの時は本当に…すみませんでした」

深々と男性が頭を下げる
汚かった言葉遣いはたどたどしくも丁寧になっていた
主人を倣ってかハハコモリも礼をする

「見舞いとか行くべきだったんですが、」
「大丈夫です。少し腫れただけですから」

嘘は言っていないが気遣ってもらったと受け取られたらしくしきりに謝られる
何度も何度も頭を上げ下げする男性に、ついにキロは小さく吹き出した
驚いた彼が動きを止めると慌てていつもの表情に戻る
しかしそれも目線はとても柔らかかった

「私、嬉しいです」
「えっ」
「とっても懐かないとハハコモリにならないんですよ。あなたが本当は、ポケモンにとても優しい人だってことが知れて嬉しいです。バトル、頑張ってください」

ホームに風が吹き込み薄紫色の髪を揺らす
キロがふわりと笑った

「あれキロお迎え?」

花弁でも舞うような空間にクダリが割り込む
風を呼んだトレインから降りてくるとすぐ駆け寄ってきた

「このダブルトレインの点検です」
「じゃあ1周一緒だね!」
「クダリさんは別のトレインに乗り換えてください」

仕事モードのスイッチに切り替わったのか真顔のまま淡々と返す
ちらりと男性の方を見て頭を下げ、トレインに乗り込んでいった
残されたクダリが彼の顔を見る

「…デート誘おうとかかんがえたでしょ」
「なっ!ち、ちがアンタには関係、あっいやあの時は、」
「いいよ。君がハハコモリつれてきたから許してあげる。でもね」

鉄道員の合図でトレインが再び動き出す
緩やかに加速して去っていくそれを見送り、クダリはいつもと違う人間らしい笑みを浮かべた

「キロとのバトルはとってもたいへん。ぼくもノボリもまだ勝ててない。でもぜったい負けないから」
「ッ!俺だって見返してやるからな!待ってろサブウェイマスター!」
「あは、楽しみにしてる!」
「いくぞハハコモリ」

顔を真っ赤にして後続のトレインに乗り込む
トレーナーの後をついていくハハコモリがクダリの方を振り返った
小さく鳴いて手を振り、クダリがそれに応えると扉が閉まる

「…あーあ、またライバルふえちゃった」

ノーマル21両目でクダリが本気を出すのはまた別の話








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