「レンタルトレイン、ですか」
「うん、そう」

見るからに不服そうなクダリさんを横目に書類整備を続ける
整備士の私が何故あなたの机を片付けなければいけないのか文句を言おうとした矢先、彼は1枚の書類を眼前に差し出して頬を膨らませた
本部から来る通達は概ね心臓に良くない

「他の地方のバトル施設は数があるのに、何でイッシュにはすくないんですか、って文句きた」
「ああ…確かに少ないですね。でもお2人でしているのですから、当然では?」

余所は何人も雇って専用の施設まで作ってるらしいけれど
ギアステーションは駅も兼ね備えているわけで
バトルにかまけてばかりでトレイン運行忘れてましたなんて失態許されない
言ってはなんだけれど、要はオマケみたいな物でもある

「それでトリプルの時のように増やしてみようと」
「んー」

内容は特に悪くはない
レンタルポケモンを用意する手間はかかるけど、それ以外は普通のバトルトレインと同じ
むしろ自分のポケモンを用意できない人が気軽に乗れて良いかもしれない

「…キロはそれ見て、怒らないんだ」
「ビジネスとしてはとても良いです。最初から最後まで同じ可能性があるより、わくわくするかもしれませんよ」
「――じゃなくて、ああもう!」

クダリさんが盛大に机に突っ伏してくれたおかげで書類の山が1つ雪崩れた
誰が片付けると思っているのだろう
いや、そもそも私が片付ける必要性はないのだけど、少しでも退かさないと私が持ってきた書類が乗らない
無理に乗せてこうして雪崩れてなくしましたは困る
屈んで拾っていると上からぶつぶつ文句が聞こえてきた

「ぼく、やだ。自分でポケモン用意できない人と、たたかいたくない」
「世の中の人間みんなが厳選に手間かけられるわけではないです」
「なら来なくていい」
「そんなこと言うから乗客率が下降気味なんですよ」

うっ、と声を喉に詰まらせる音がした
壁に貼られている営業成績はここのところ芳しくない
イッシュにバトルサブウェイができて、何代もサブウェイマスターが続いて、ノボリさんとクダリさんが務めだしてマルチトレインを導入して、…そろそろ新しいテコ入れを考えないと厳しい
トレインとしての乗客数は当然変わっていないのだけれど

「もう少し雑誌とかに出てみたらどうですか?」
「あー…あれね、ノボリがすごく嫌がる。表面上はしかたないって承諾するけど、もうね、空気が嫌がってる」

確かに。この間鉄道雑誌の取材を受けていた時はイキイキしていたけど、女性向け雑誌の取材の時は1回も笑顔出さなかった
鉄道雑誌は終始笑顔で語りまくってたのに
それにミーハーなお客様が増えると色々と面倒事も起きる
かといって選んでいられるような立場でもなし

「やっぱりテレビとか出るべきですよ」
「やだー。あっキロがまたトリプルやれば「書類置きますから退いてください」

私はああいうのが本当に向いていない
経験する前から感じていたけど実際やってみて痛感した
裏で地味にそれでいてきっちり丁寧に大切にする方が好き

「あーあ…やらなきゃダメ、かな」

この様子だとノボリさんもビジネスと割り切って構わないと言っているのだろう
優しいあの人のことだから、クダリさんがちゃんと考えて納得するまでは本部に返事をしていないはず
そんな彼をわかっているからこうして必死に悩んでる
頭ではわかっていても心が頷いてくれない

「クダリさん」

自分の気持ちを飲み込んで周りのことを考える
素晴らしいように見えるけど時としてそれは凶器にもなる

「なに?」

溜め込みすぎて壊れてしまわないか
とても優しいあなた達だからこそ、心配で仕方ないのです

「それ、お2人の手持ちもレンタルになりますよ」
「へっ?あ、そっか…」
「新鮮と捉えるのも良いですが、ポケモン達はどう思うでしょうか」

驚いた顔からどんどん哀しい顔になって
今にも泣き出しそうな表情をするクダリさんに心中で小さく笑った

「それにトレーナーの分レンタルポケモンを用意する手間や費用を考えたら、他をやった方が得策ですね」
「たとえば…?」
「今から一緒に考えましょう。…自分の育てたポケモンで勝つ喜びを知れば、皆さん来てくれますよ」

喜ぶあなたが立ち上がって飛びついてくるから
せっかく拾い集めた書類がまた宙を舞って落ちていく

「キロすき、だいすき。ノボリやみんなをあっと言わせること、考える!」

ひらひら白い花に囲まれてクダリさんが笑った
私、整備士であって鉄道員ではないので書類を整頓するのは仕事ではないのだけれど
ああでも、心のメンテナンスは仕事になるのかなあ、なんて結局今日も絆されるのです








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