(※てつどういんばっかり)



「第一回ドキドキキロちゃんゲームドンドンぱふぱふー」
「お疲れ様です」

鉄道員達が集まるいつもと変わらない執務室
大型連休真っ只中でも何でもないにも関わらず、部屋に入ってきたキロを出迎えたクラウドの表情は暗く明るい
矛盾しているがそうとしか言えないほど言葉と声と顔が合っていなかった
原因は単純明快。件の入れ替わりで見破れなかった鉄道員一同は、本日ノボリクダリの両名から有難い仕事を山ほど貰ったのだ
その量は普段の5倍ほどあり労働基準法なんてトレインが持って行ってしまった

繁忙期に忙しいのは当然で心身共に準備してから望むことができる
しかし突如として舞い降りたプレゼントもとい嫌がらせは一瞬にして全員の心を蝕んだ
いつまで経っても終わらない仕事を、珍しく始業に間に合ったカズマサが虚ろな瞳で見つめている
当の上司2人は早上がりでさっさと帰ってしまった

「ソレ何…」
「ノボリさん宛のしょる「うわあああああああああ!!!!!もう嫌なのさ紙紙紙紙紙!このデータ時代において無意味な環境破壊反対なのさああああああ!!!!!」

シンゲンの問いに答えようとしたキロの傍でラムセスが発狂する
椅子から床に飛び降りて綺麗とは言い難いそこにごろごろ制服姿で転がる
止める者は誰一人としておらず、むしろ皆それに続きそうな空気を醸し出していた
憐れに感じたキロは、手にあった書類をひとまず別室のノボリ達専用執務室に置き、彼らが所持している上等のコーヒー豆やお菓子をいくつか拝借する
いつしか慣れてしまった手順通り豆を挽き人数分コーヒーを用意した

「すみません、これぐらいしか出来ませんが…」
「ありがとう。助かる」

辛うじてまだ意識のあるトトメスが使い物にならなくなった同僚達を代表して礼を述べる
それぞれに配っていくとカップが1つ盆の上に余った
自分の分は含んでおらず、鉄道員分しか淹れていないはず
きょろりと改めて周囲を見渡すとギアステーションにいれば必ず見かける姿がないことに気付いた

「ジャッキーさんいませんね」
「アレハボスニ外ホッポラレタヨーイイネー外羨マシイネー」
「体罰ですね、それ」

ギアステーションから出たくないと喚く彼の姿が容易に想像できる
勿論彼はずっと此処に住み着いているわけではない
ライモンシティにきちんと自宅があり、時折は帰っているようだ
ただ自宅と仕事場の往復しかしないため驚くほど外のことに疎く、クダリはよくそれをからかっていた
どうせ観光場所案内の時に困るからなどと理由付けて持って行かれたに違いない
コーヒーを飲んで少しばかり回復したのかクラウドがのそのそとキロに近付いた

「わしん家に娘に来てください」
「クラウドさ、髭いた…っ」
「イイネー、ジャア妹デオレノ家来テヨ」

泣きつきながら頬ずりしてくるクラウドを押しのけキロは溜息を吐く
よほど疲れているのかお兄さん気質からお父さんへと変貌を遂げていた
空気に乗って笑うキャメロンを軽く睨み、クラウドの背を押して席へと戻す
ついでに未だに転がったままのラムセスを立ち上げさせ座らせた

「キロちゃんいい子いい子なのさ」
「子ども扱いやめてください」
「いっちゃん下やろ?ジャッキーと同じくらいちゃうん」
「同い年ですけど…」

とにかく手を動かしたくない面々がキロに話しかける
このままでは今日どころか明日明後日になっても終わらない
かといって、鬼の如く叱り働かせるほどのサドっ気を持ち合わせはいない
どうしたものかと悩む彼女にシンゲンが椅子に座るよう促した

「キロ助ケテ」

座ったキロに必至に縋り付く様はまるで子供だ
魂の抜けていたカズマサもその声で戻ったのか一緒になって泣きついた
まだ若い2人の書類の山はクラウドやトトメスに比べて高々と築き上げたまま
時計に目をやると時刻は9時に差し掛かろうとしていた

「夜食買ってきましょうか…?」
「わし牛丼。」
「豚骨ラーメン食ベタイ」
「僕サラダとパスタ…ペペロンチーノがいいのさ」
「オレ海老マヨピザ。コーラモ買ッテキテネー」
「あっじゃあぼく煮物食べたいです!」
「…ついて行こうか」

次々と遠慮なくキロに注文を寄せる
トトメスが心配そうに同行を申し出たが、キロは首を横に振って彼の頼みも尋ねた
渋々彼も誰かと同じ物で良いとお願いした
おつかいリストを手にキロがギアステから地上へ出ると外は真っ暗闇に包まれていた
ライモンシティは繁華街があるため夜遅くでも営業している店は多い
それでもこの量、ぐずぐずしていると閉まるところが出てくる
作業服の汚れを少し気にしながら明るい街並みを駆け回った

「いらっしゃいませ!」
「すみません、海老マヨピザSサイズとコーラ1つ、ギアステに宅配お願いします」
「かしこまりました!お会計…」

キロの手には牛丼とスーパーとコンビ二の袋が引っさげられている
それらを傾けないよう気をつけながら代金を支払う
残るはシンゲン希望の豚骨ラーメンのみだが、テイクアウトできないうえに宅配も無理とくると、どうしようもない

「コンビ二でインスタントは…怒るかなぁ」

はあっと息を吐くと冷たいような生温いような風が吹いた
煌びやかで綺麗な女性達が働く店の近くにラーメン屋が立ち並ぶ
そこで受け取ってギアステまで走って帰って、凡そ5分
但しそれは何も持たない状況においてである
両脇に抱える荷物に気を配りながら汁物を運ぶなんて芸当は生憎持ち合わせていない

「あれ…キロさん…」
「きゃっ、あ……ジャッキー、さん」

路地裏から突然現れた影に驚き悲鳴をあげる
が、よく目を懲らせば街並みとは不釣合いな緑の制服を着たジャッキーだった
何故そんな隙間にと尋ねるキロの陰にこそこそと隠れる

「よかった…逃げてきたんです。護衛してください」
「…あの、私夜食の買出しに来ていて」
「知っています」

そう即座に答えたジャッキーがしまったといった表情で口を噤んだ
先程までノボリとクダリに振り回されていたはずだ
不審に思うキロの瞳に慌てふためき、結局観念したのかぽつりぽつりと話し始める

「クラウドさんから連絡があって、…夜間の女性の一人歩きは危ないからボクが見てろって…」

言うなりキロの腕から夜食が入った袋を取り持ち上げる
彼女が気を利かせて買い込んだお菓子や飲み物も軽々と奪われた
カズマサと並んで貧相と思われがちな彼が、意外にも逞しいことにキロは目を見開く

「アッ、イタ。ジャッキー早イ」
「シンゲンさんも来たんですか…ならボク帰っても」
「豚骨ラーメンヨリオニギリ食ベタイ」

遠くから走ってきたシンゲンが2人に近寄りほわっと笑う
表情こそ何でもないような素振りを見せているが、額にはうっすらと汗が浮かび上がっていた
道中でお弁当屋さんを見つけシンゲン希望のおにぎりを購入しギアステへと戻る
書類は数十分前に較べて半分ほどになっていた

「お帰りなさい!迷子になりませんでしたか!?」
「カズマサじゃあるまいし、キロがなるわけないのさ」
「おおーっ牛丼汁だくや!」
「そちらの方が好きかな、と…」
「キャメロンさん何1人で食べてるんですか」
「宅配ピザイイネー。キロチャン、コーラ頂戴ナ」

ぎゃいぎゃいとまたギアステが騒がしくなる
これ以上遅くなると本当に危ないからと、帰ろうとしていたキロにトトメスがタクシーを呼んだ
遠慮する彼女を全員が無理矢理外まで見送り車に乗せようとする

「お金は明日返す」
「戸締りしっかりしいや。お疲れさん」
「キロさん、また明日!いつも整備ありがとうございます!」
「睡眠不足は美容に悪いから早く寝るといいのさ」

口々に言葉をかけて乗り込ませ扉が閉められる
ゆっくり走り出した車の窓を慌てて開けて、キロはそこから顔を出し声を出した

「あの、お疲れ様です!…明日も、安全運転お願いします」

笑うキロに向かって手が振られる
窓を閉めて席に座りなおしシートに背を預ける
緩やかな瞬きを繰り返していた瞳が閉じ、キロが意識を手放した数分後、運転席から小さく笑い声が聞こえた
その隣から同じく笑っていながらも諌める声が飛ぶ

「一歩前進?」
「彼らも一緒にバトルしたくて仕方ないのでしょう」
「うん…だって、きっと、…絶対に楽しくて、みんなキロの虜になるよ」
「ええ。――お疲れ様です、キロ」
「おやすみ。ちゃんと運んであげるね。明日はクラウド達ともぼく達とも仲良くしてくれると、すっごく、嬉しい」

届いているのかいないのか
ほんのり笑ったまま彼女は揺られ眠り続ける
いつか本当になる、トレインで踊るバトルの夢を見ながら









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