※未来っぽい設定。




ぱちぱち。瞬きを柄にもなく私は何度も繰り返す
そこは私のベッドではなく、噴水のある公園の一角だった
パジャマにしていたTシャツやハーフパンツは消えていて余所行きのワンピースが風に揺れる
この間何気なく買ったまま履かずにいたミュールで少しうろつく
子供達が元気に遊ぶ中、1つのベンチを見つけた

そこには新聞を読む男性が座っている
顔はよく見えない
体格は細い。でも手はしっかりしてる
凝視していたせいか彼が顔をあげた
ばっちり銀灰色の瞳と目が合った

「…ああ」

黒縁眼鏡の奥にある瞳が柔らかくなる
畳まれた新聞から私は視線を移動させ彼をじっくり見た
瞳と同じ髪の色。特徴的なもみ上げを見つけて思わず悲鳴をあげそうになる
目を見開いた私に彼はくすくすと笑った

「今日でしたか。さあ、どうぞ」

座る位置を少しずらして隣が叩かれる
私は頷いてそこに腰をおろした
そこからは噴水がとてもよく見える

「綺麗でしょう。つい5年ほど前にできたのですが」
「5年前ですか」

もっと遠くに観覧車が見える
こんな公園、ライモンシティにあっただろうか
街中には噴水がよくあったけど子供が遊べるような広い公園は記憶にない
私の頭に浮かんだもしもの考えを肯定するように彼は笑った

「貴女様からだと15年後でしょうか」

此処は未来なんだと彼は躊躇いもせず告げる
いつもの私なら信じられず、馬鹿げたことを言う人だと思っただろう
でも今日は何故か納得してしまった
隣にいる彼はノボリさんによく似ている
15年先に出来た公園を、5年前と告げるこの人はきっと20年後のノボリさん
46歳ぐらいになるのかな

「…綺麗ですね」
「はい。しかしわたくしは本当に運がいい」
「?」

麗らかな日差しが差し込む
季節は春になるのか、公園の至る所で花が咲いていた
ノボリさんは花壇に目を向けたあと私を見る

「実は今日喧嘩したのですよ」

誰と、何を。とは言わなかった
揉めて結局自分が折れて我慢し、家に1人居るのが嫌で公園に来た
売店で適当に新聞を買って読んでいたがそれは購読しているのと同じ物で今朝みたばかり
つまらないと思いつつ体裁だけでも目を通していたら私がいた

「同じ物を買って更にむしゃくしゃしまして……思い返せば今朝は止められませんでしたね」

手渡された新聞は確かに20年後の年月日が書かれていた
未来の今日は何が起きたのか知りたい衝動に駆られたけど、丁重にそれをお返しした
私の行動にノボリさんは特に驚くことなく新聞を反対側に置いた
そして手袋をしていない掌で私の髪を撫でる

「幸せでしょうか?」
「毎日とても忙しく騒がしいのでわかりません」
「充実していると取っておきましょう」

髪を撫でていた手が頬に触れた
太陽の光を浴びたそれが温かくて気持ちいい
思わず瞳を閉じるとチョロネコをあやすように擽り撫でられる
ごつごつした男の人の手なのに、柔らかくて優しい

「わたくしは幸せです。愛する人と大切な家族と、心から信頼しているポケモン達や仲間と一緒に過ごせているのですから」
「…貴方は1人じゃないんですね」
「ええ。ですがそれは貴女様もでしょう?」

少し悩んで、私はゆっくり頷いた
1人が寂しいと思う暇なんて今の状態じゃありえない
家にはポケモン達がいて、ギアステーションにはノボリさんやクダリさんがいる
先輩もお客さんも他の職員も彼らの手持ちも忙しなく動き回ってる

「それならば――」

突然ノイズが響いてノボリさんの言葉を打ち消す
真っ暗闇の中に放り出されてぱちぱちと何度も瞬きを繰り返すうちに、視界は見慣れた駅を捉えた
ギアステーションの入り口で私はぼうっと立っていた
ワンピースは作業服に、ミュールは安全靴にいつしか変わっている

階段を降りていく
点検場に行く前に、執務室の扉をノックした
朝早くからきびきびとした声が返ってくる
中には眠たそうなクダリさんとコーヒーを啜るノボリさんが仕事をしていた
私を見てクダリさんが嬉しそうに笑う

「おはようキロ」
「何か問題でもありましたか?」

壁にかかっているカレンダーは20年前の、いえ今の年月日
妄想のような一瞬だったと目を伏せる
不思議がる彼らに私は小さく笑った
もしそうだったら面白いのに

「私も幸せですよ」

首を傾げて疑問符が浮かべられる
私は机上に散らばるメモ用紙に、そっとあの日の年月日を記入した
2人がそれを見ているあいだに執務室から出て行く

20年後あなた達は喧嘩する
きっと傍から見ればくだらなくて微笑ましい、いつも通りの可愛い喧嘩

20年後私はそれを見ている
呆れた目ではなくて、壁にかかるカレンダーを見て、ああそうかと思いながら



こんな永遠ループなら悪くない










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