かりかりかりかり

執務室から永遠とペンの走る音が聞こえる
決算期が近い今日この頃、ノボリさんはバトルの合間を縫って、…いえ、事務の合間を縫ってバトルしている
そう言わざるを得ないぐらいバトルと事務の関係が逆転していた

私達整備士は特別変わりなく過ごしている
報告書を差し出すかやめるか悩んで、控えめに扉を叩いた
反射的に返ってくる声はあまり元気がない

「失礼します。……」

あれ、クダリさんがいない
と思ったらソファーに倒れていた
せわしなく動く瞳も今は固く閉ざされている
彼の机の書類は以前よりかなり減っていた

「いつもの報告書ですから、別にしておきますね」
「いえ、此方にくださいまし。すぐに見てお返し致します」

ペンを止めずにノボリさんはそう言う
まだ先で構わないのに

「急ぎではありませんから、決算が終わってからでも」
「…貴女様が、整備士の皆様がわたくし達鉄道員やお客様の安全のために行ってくださったモノの方が、こんな金額塗れの書類より数万倍大切です」

ですから、それを。とノボリさんが此方を見て微笑んだ
クマのできた顔は穏やかとは言い難いけれど
私は頷き書類を渡して、視線が落ちて現れた彼の瞼に軽く口付けた

「…キロ…っ?」

ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返す
返事はせずにコーヒーを淹れにむかった

「ノボリさんの、そういうところは好きですよ」

振り返って告げて暫くすれば、またペンが走りだす
何かを誤魔化すように
だけど心持ち先程より軽快に



日々精進、点検整備、あなた達の喜ぶ顔まで、出発進行――なんてね





瞼にキスをする=憧憬










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