※シャンデラ視点



わたしの炎は人のたましいを吸って燃えている
だからちょっとでもお客さんの傍に寄ると、とても嫌がられてしまう
ずっと昔からそうだったから慣れてしまったの
嫌がらないのはマスターと、マスターの弟だけだった

それでいいの!
わたしを嫌がらないのは2人で充分!
紫の炎がとってもキレイだって言ってくれる
すっごく嬉しくて幸せなの



「きゃああっクダリさん!!」
「ボス!大丈夫ですか!」

大きな音がしたと思ったらマスターの弟が倒れた
さっきまでわたしと遊んでいただけなのに
沢山の人が周りに集まって運んでいく
わたしがついていこうとしたら、何人かが振り返った
睨まれてすぐ進むのをやめた

「…この間はノボリボスだったよな…」
「ヒトモシの頃にも頻発してたし」
「ねえ、炎少し大きくなってない…?」

急いでわたしは逃げ出した
ホームは走っちゃダメだってマスターによく言われたけれど
でも耐えられなかった
行く先々で色んな人がわたしを見て何か言ってるみたいだった

本当にわたしが吸ってしまったのかもしれない
自分じゃどうやってるのかわからない
ごめんなさいをすれば許してくれますか?

マスターが倒れた時、わたしの所為じゃないって撫でてくれた
優しく優しく笑ってくれた
だけどマスターの大切な弟が倒れても、マスターはわたしの所為じゃないって言ってくれるのかな
もう一緒にバトル、できないのかな

「ふぇえ、うっひっく、」

夢中で逃げてたら暗いホームに来ちゃった
此処はもう使われていない所なのに、子供が1人泣いている
そおっと近寄ったらびっくりされた

「うあっおかーさぁん…っ」
「シャァーン…」

出口はこっちだよ
必死に手招いたらなんとかついてきてくれた
封鎖してた柵が壊れてるから此処から入っちゃったんだ
あとちょっとで人が沢山いる場所なの
だから泣かないで


ぱたっ


「…シャァーン…?」

子供が倒れちゃった
おそるおそる近付いても起きないし泣かない
つんつんと突っつくと金切り声が響いた

「やめて!何してくれるの!!ああっお願い目を覚ましてえっ!」
「お客様どうしましたか!?」
「このシャンデラが私の――」

ちがう、ちがうよ!
わたし何もしてないの
本当だよ。信じて!

「すぐ救急車を」
「またあのシャンデラ、」
「別のに変えた方が…」

誰もわたしのこと信じてくれない
いいの。マスターだけが、マスターの弟だけが嫌がらなきゃ
きっと2人ならわたしを

「ノボリさんもまた倒れたし、さっさと捨てるべきだろ」


ますたー


「退いてください」

集まってきた人を押し退けて凛とした声が聞こえた
マスターの好きな人。マスターの弟も好きな人
こっちに大股でやってきて女性から子供を取り上げた
何かを鉄道員に指示してる

そしてわたしを見上げた
蒼い瞳がじいっと見てきて怖い
怖いの。でも、誰も違うって信じてくれないの
もう傍に一緒にいれないの…?

「ダメだよそのシャンデラに近付いちゃ「子供はただの熱中症です。使われていないホームへの柵が壊れていたので入ってしまったんでしょう。あそこは空調の調子も悪いので熱気が籠りやすく水分補給もままならない状況ですから、それが原因です。クダリさんのはただの貧血、ノボリさんは徹夜のしすぎ。だから、」

ぎゅうっとわたしは抱き締められた
髪の毛がさらさら落ちてきて炎にあたりそう
それでも構わず強く、でも優しく

「シャンデラは関係ありません。ノボリさんのポケモンがギアステーションに来るお客様に迷惑をかけるはずないじゃないですか」

怒ったようにそう言ってわたしを抱っこしたままどこかに歩き出す
この先は医務室だと気付いた時、立ち止まって離された
自由になった身体をふよふよ浮かしてたら笑ったのが見えた

「もう大丈夫ね」

とっても綺麗に笑うから思わずどきっとした
助けてくれてありがとう
おずおず頬に擦り寄ればくすぐったいよってもっと笑った
わたしが近くにいても嫌がらないで笑ってくれるの

「あなたのご主人とその弟に、文句を言いに行きましょうか」
「シャァーン…!」
「こんなにも優しい子が虐められるなんておかしな話」

黒い手足のひとつがそっと繋がれた
嬉しくって嬉しくって、どうしたら表現できるか悩んでいたら炎が少し大きくなった
もしかしてこの人のたましいを吸ってしまったの?

「シャァ……ン…」
「――あなたの炎はね、想いという名の魂を吸っているの」
「シャン…?」

たましいは吸ったらなくなるんじゃないの?
皆、動かなくなるって本に書いていたよ

「楽しい、寂しい、嬉しい、怖い、好きとか嫌いもそう。それをちょっと分けてもらってあなたは生きてる。シャンデラ、あなたは生きてるんだから」

マスターより小さい手が震えてた
涙はなかったけど泣いているみたい
わたしは残りの手足でぎゅうっと、さっきわたしにしてくれたみたいに強く優しく抱き締めた
そしたら彼女もいっぱい返してくれた

「ノボリさんから離れないで。クダリさんとも仲良くして。傍にいて、大好きだって沢山言って。2人ならちゃんと返してくれる。勝手にどこかに行っちゃダメだから…」
「シャァーン」

どこにも、行かないよ
わたしマスターの傍でずっとバトルしたい
一緒に頑張って生きていたい

「…ほら、あなたの炎はとても優しい」

泣きそうだった彼女がまた笑ってくれた
わたしの炎がまた少し大きくなってて、きっとこの人の想いを吸ったんだ
たましいを吸っちゃったのに喜んでくれるなんて

「行こうかシャンデラ」
「シャァン!」


あのね、わたしね
あなたのこともとっても好き!
マスターとマスターの弟と、わたしとずっとずっと一緒にいてね

だいすき!







「あの日からシャンデラ、ノボリと離れない」
「そうですか」
「だからぼくキロと離れない。ぎゅーっ」
「仕事の邪魔です」
「やだ!ぎゅ、ぅわっ」
「シャァーン!」
「なにシャンデラ割り込みダメ、あーもうキロに引っ付くのずるい!」
「…私も一緒に監視?」
「シャァーン」


お仕事頑張るあなたも好きだけど、マスターと一緒
ちゃんと休まなきゃダメなんだからね!








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