週末のデートはなくなりました

こういうと何だか語弊がありますが、クダリさんがデートだとはしゃいでいたのでそのまま引用しただけです
古くなった工具をR9に買いに行きたかっただけなので私は別に1人でも良かった
どこからかそれを嗅ぎつけたクダリさんに無理矢理約束をさせられ、ノボリさんも半休とって一緒に工具を見て回ろうと誘われただけ
だから2人が突然口裏を合わせたかのように約束をなかったことにしてきても驚かない
双子なんだからそういう時もあるだろうって思ってた

「いらっしゃいませ、ようこそR9へ!」

電車を乗り継いでようやく来れた
1人だからと油断していたら午後2時になってしまった
本当は午前中に買い物を済ませて家でのんびりしようと思っていたのに
とりあえず工具が置いてあるコーナーへ向かおうとエレベーターに乗る
ガールさんに階を聞かれて答える
途中色んな人が乗ってきてエレベーターは上昇していく

「最上階、展望レストランでございます」

しまった。ぼーっとしてたら最上階まで来てしまった
このまま降りるのも恥ずかしくてひとまず出るエレベーターは何個かあるから、別のに乗って降りればいい
乗ってきたやつが下に向かったのを確認してからボタンを押して待つ
此処のレストラン少し高いから私には手が出ない
ランチは安いのかな、と視線を入り口へ向けた

「流石、その歳で務めるだけあってしっかりしておる」
「恐れ入ります」

濃紺のスーツに身を包んだノボリさんがいた
見るからに偉そうな男性も一緒にいる
ああ、本部の人から呼び出されたから来れなくなったんだ
サブウェイマスターというのも大変だな

「儂はもう帰るが娘が一緒にいたいと言ってな」

エレベーターの場所表示に戻そうとした視線が止まる
男性に隠れた位置にいた着物姿の女の子
黒髪におしとやかそうな表情、頬を染めてはんなり微笑んだ
ノボリさんはそれに目を細めて返す

「ではソウリュウシティへ参りましょうか」
「はい…」

手を差し伸べるノボリさんはとても綺麗だった
受け取る彼女と並んでまるでお人形のよう
そのまま私の所へと歩みを寄せて、気付いたノボリさんが目を見開いた

「…こんにちは」

とてもぎこちない挨拶をした隣にいた女の子が私とノボリさんを交互に見比べる
知り合いかと尋ねる声は透き通っていた
分厚い箱に大層丁寧にいれられて育ったんだろう
溺愛されて世間のこと何も知らなさそうだからノボリさんはぴったりの相手

お見合い、か
特に哀しくはない
だって好きと言われても付き合ってるわけじゃない
だから怒るのも泣くのもお門違い
将来のお嫁さんを傷付けないよう、ただの部下ですと答えなきゃ

「私は、」
「大した仲ではありませんよ。わたくしの職場の部下でございます」

ちくり

胸が痛んだ気がする
当然のことを言っているだけなのに

「まあ…女性も働いていらっしゃるのですか?」
「受付や売店は多いですよ。是非今度遊びにいらしてくださいまし」
「そんな、私バトルは…」
「バトルできずとも構いませんよ」

優しいノボリさんの声がする
あまりにも優しすぎて残酷で、何気ない会話全てが凶器となって突き刺さる
エレベーターがやってきた音と一緒に私は走って逃げ出した
脇にあった階段を一気に駆け下りていく

工具なんてもうどうでもよかった
最上階から1階まで全力で転げるように降りてきて、何も買わずに電車へ乗りライモンに戻った
R9が品揃え良いから行ったのに何をしてるんだろう
自分に呆れてひとまずカフェに入る
紅茶でも飲んで落ち着こう

「いらっしゃいませ、3名様ですか?」
「え、いや1人で――」

後ろに人がいて連れだと間違われたのかな
そう思って振り返った先には、クダリさんがいた
正確には綺麗な女性と一緒にデートしてた
彼はあからさまにマズイといった表情をする
私を案内しようとする店員の方へ向き直る

「すみません、いいです。此方のカップルを案内してください」
「ふふっクダリ私達そう見えるって」
「え、う、うん…姉弟と間違われなくてよかった」
「貴方は素敵なんだから大丈夫よ」

手を繋いでそうやって頬にキスまでして
誰が姉弟に見間違えるというんだろう
小さく頭を下げて横を通り抜けた

「なんだ…結局私からかわれてたんだ」

モテる2人が私のことを好きだなんておかしな話だと
以前も思って遊びかなと納得したの、忘れてた
すぐに忘れて心揺り動かされて馬鹿みたい

ノボリさんもクダリさんも悪くない
悪いのは遊びを本気にしてしまった私だけ

「…さよなら」


泣くなんて、ばかみたい







翌朝のライブキャスター、新着受信メール0件
わかっていたはずなのに苛々してそれを床に投げつけた
音に驚いたアブソルがやってくる

「何でもない。行ってくる」

サーナイトが後ろで何か鳴いているけど面倒くさい
どうせライブキャスター忘れてるってこと
置いていってると説明してもわからないでしょうから無視した
私はトレインを整備していればいい

「あ…工具…」

買い損ねたのを思い出す
壊れてはいない。ちょっと古いだけ
でも使うには少し心配してしまうそれらをじっと見つめる

なるほど、これと同じだったんだ

私は古くなってしまった工具
買い換えられて新しいのが彼女達
仕方ない。誰だって古いより新しい方が良いに決まってるもの
みすぼらしい見た目より艶やかで綺麗なほうが
機能しない感情や言葉より柔らかく素敵なほうが
旧型なんて所詮新型に勝てない

「――…っ、すみません、ちょっと顔洗ってきます」
「おう」

これは目に埃が入っただけ
土煙を少し吸い込んでしまったから噎せかえってるだけ
決して私のせいじゃない。外部のモノのせい

「キロ?」

トイレに向かう途中呼び止められた
白いコートを捉えた瞬間叫びたい衝動に駆られる
必死に口許を押さえてそれを丸め込んだ

「顔色悪い。どうしたの医務室行く?連れてって、」
「触らないでください!」

差し伸べられた手を叩いてしまった
後悔しても遅い。クダリさんは目を丸くして、それから何も言わずに手を腰の隣に戻した
心の奥底から吐き気がする

「…先に言っとく。ぼく、結婚する」
「は…」
「相手は昨日見た人。同い年で姉さん女房って感じで、えへへ、また面倒見てもらう立場だけど」
「何、言ってるんですか」
「だからキロとはバイバイ。ごめんね、でもノボリがいるから大丈夫!」


何が、大丈夫なのか


気付けば私はクダリさんの頬を叩いていた
吐き気と頭痛が一遍にやってきて、ぐらぐら気持ち悪い
睨みあげた先にはまだへらへらと笑う彼がいた

「っ、ぁ」

止め処なく溢れ出そうな暴言を喉元に引っ掛けた
これを言ってしまったらダメ
人として最低な言葉を浴びせ続けるのは絶対にいけないこと
でも本当は言ってしまいたかった

ノボリさんがいるから大丈夫?
その人だって私の知らない所で別のことをしてるのに
双子ってどうしてそんなとこまで一緒なの
2人して私で遊んで、本気になりかけた私を笑って、ああもう

「ばかみたい…っ」

涙を見せるのは嫌だった
今まで何度も見せたけど今回は本当に嫌で瞳から落ちる前に逃げた
トイレの洗面所で皮が向けそうなぐらい顔を洗う
記憶も何もかも洗い流してしまいたい

いい加減点検場に戻らないと
少しだけ冷静になった頭でそう考えた
だけどそれ以外は何も考えられなくて曲がり角で突然現れた人影を避け切れなかった
盛大にぶつかってよろけた身体を黒い腕が支える

「考え事ですか?」

揃いも揃って何故普通にしていれるんだろう
遊びにしたってもう少し思いやりを持つべきじゃないの
それとも、仮面を被ることすら面倒になったのかな

「ノボリさんも結婚するんですか」
「…藪から棒ですね。ええ、先日の方と将来を考えております」

真っ直ぐに立たされて腕が離れる
ノボリさんの顔は憎たらしいほどにいつも通りだった

「ですから貴女様とは一緒にいられません。しかしクダリがいますし、大丈夫で「捨てるならいっそ要らないと言ってください」

制帽の影に隠れながら目が大きく見開いた
私は震える手で工具入れから古いスパナを取り出した
鈍い光沢のそれを床に向かって盛大に投げつけた
更に上から安全靴で踏みつける

「物は、こうやって捨てるんです」
「おっお止めくださいまし。大切な仕事道具ではないのですか!」
「要らないんでしょう、優しくなんてする必要ないじゃないですか!」
「――っ、わかりました」

私を退けてノボリさんがスパナを拾う
近くにあったゴミ箱に乱雑に投げ捨てた
冷たい瞳が私を見下ろす

「好きなどと稚拙な感情は当の昔にございません。わたくしが愛しているのは彼女でございます。さっさと担当の場所にお戻りなさい。弟でしたら好きにしていただいて構いませんよ。どうやら物好きのようですから」

黒いコートがひらりと舞った
それでいいのだと、誰かが笑った


私の居場所はどこにもなくなってしまった


要らないと言わせたのは私だ
だから悪いのは私であってノボリさんじゃない
勿論クダリさんでもないのです
でもぽっかりと空いた穴は塞がることがなくて、足は点検場には戻らず執務室の方へ向かっていた

嘘だと言ってほしい

結婚も要らないということも全部
そんなはずがない。これはもしかしたら夢かもしれない
ゲンガーがまた悪戯でもしてるのかな
起きたら叱ってやらなきゃ

「――さん結婚するってー!」
「うっそ、同時に?でも整備士の子気に入ってなかった?」
「遊びでしょ。あの子だってどうでもよさそうだったし」
「実は盗られてたりしてー。可哀相ー」

受付の子達が話してる
盗られた。それだったら良かった
でも実際は私の方が盗っていたのかもしれない
ああ、その考え方自体間違いなのかな
盗るも何も元々2人は私のものじゃないのだから

「…クダリさん、ノボリさん…」

ずるずると壁を背にへたりこむ
すぐ傍で話していた声が遠くへ消えていく
名前をいくら呼んでも誰も来ない
おかしい、の。数日前ならすっ飛んで来てたじゃないですか
用事がなくても点検場に来て帰れと言っても帰らなくて、何度も何度も

「好きだって…」

私は自分の言葉の拙さを後悔しました
もっと言うべきだったんです
付き合っていなくても、何でもあっても
彼らが好きなら好きなのだとちょっとでいいから伝えるべきでした

手の届かないところに消えていきました
もう私にはどうしようもありません

「さよなら、さよなら…」

私の恋はここで終点
折り返すことも進むこともできずに、終わるのです
いっそ、飛び込んでしまえたらよかったのに





「すっげぇ顔酷い」
「もう帰れ。体調管理大事だろ」
「……はい」

迷惑をかけしまって此処にも居場所はなくなりそうだった
とぼとぼ歩いて自宅まで帰る
行き交う人々が私を嘲笑っている幻聴がした
耳を塞いで俯きながら歩く。歩く

「あれ…」

ギアステーションに帰ってきていた
ぐるりと一周まわっただけ
家、どっちだったかな

「帰れなく、なっちゃった」

どれだけ歩いても家には辿り着けなかった
何度も何度もギアステーションへ戻ってくる
とうとう、家にも見放されたらしい
私の帰る場所は無くなった
駅前の花壇に座りこんで蹲る


ノボリさん
あなたとの出会いは本当に最悪でした
何故バトルを強いられなければならないのか
他の鉄道員に殴られ痛い思いもしました

クダリさん
あなたには本当に振り回されました
ポロックを勝手に食べられたのは初めてです
ストレートに好意をぶつけられたのも

鬱陶しいと思っていました
今でもそう思っているつもりでした
でも、いなくなって初めて、とても寂しいことに気が付きました
私は想像以上にあなた達に愛されたかったようです


「ちょっとそこの貴女だいじょうぶ?」
「……」

ジュンサーさんに声をかけられた
ずっと同じ場所にいたら連れて行かれてしまう
ふらふらと繁華街を歩いた
ネオンが眩しくて目が霞む

「あ…」

制帽もコートもない2人がいた
クダリさんは綺麗な女性と笑ってる
お酒でも飲んだのか頬が少し赤い
ノボリさんは可愛らしい女の子と微笑んでる
紳士的にエスコートして手が握られていた
それぞれの距離は離れていて互いに気付いていない
私だけがそれを見ていた

「クダリ、そろそろ」
「うん。そうだね送ってく」
「んーっ」

ピンヒールを履いた女性が瞳を閉じた
甘い雰囲気が流れ込んできて胸焼けを起こしそう

「ノボリ様私門限が…」
「迎えが来るまでご一緒いたします」
「…あの」

頬を真っ赤に染めて女の子が背伸びする
きらきら輝く電球がそこだけ柔らかく光っていた
2人がゆっくりとそれぞれに、キスをした

「…もう、やめて」

あんまりです
私が悪いといっても、これは酷すぎる
人目も気にせず子供みたいに泣き声をあげるしかできない
自分の泣き喚く声に混じって、誰かが私を呼んだ

「キロ…」

それは重なって聞こえた
気付いたのは私だけでなく2人もだった
大勢の人に流され見つけられなかっただけ
互いの存在を確認した途端、非難の言葉が飛び交う

「何をしているのですかクダリ!誰ですかその女性は!」
「はあ!?ノボリこそ誰その子、なんでキロと一緒にいないの!」
「っ、わたくしはキロなど興味ございません!熨し付けて差し上げますよ!」
「意味わかんない。ぼくだっていい、ノボリにあげるから!」
「ですから要りません!こんな男より貴方のほうがキロに似合いますでしょう!?」
「やめて、ください」

覚束ない足取りで、掴み合う2人に近付いた
こんな喧嘩は日常茶飯事なのか繁華街の人達は通り過ぎるついでに見るだけ
無駄なことをやめさせようと近寄った私をクダリさんが突き飛ばした

「寄らないで。ぼく、飽きたんだ」
「クダリ!貴方って人は」
「…いいです、要らないのですから」

私だっていい大人です
だから自分のことぐらい自分でどうにかしますし、責任を取れだなんて言わない
後始末はちゃんとやります

「結婚式には、呼んでくださいね…迷惑かも、しれませんが、…ごめんなさい」

既に捨てられてしまったけれど
さよならの挨拶はしておきたかった
私は今、誰の目から見ても綺麗に笑えているだろうか
涙を流していないといいのだけど





ライモンの街並みを走る
足は痛いし腕も痛いし心も痛い
家にはまだ辿り着けそうにない
此処がライモンシティなのかもわからなかった

「姉ちゃん暇なら遊ばない?」
「泣いてるじゃん。慰めてあげるよ」
「――つかれた」
「おっ!じゃあ車に乗りなよー」

どうにでもなれ
引き摺られるがまま赤い車へ連れ込まれる
でも発車するより早く、私の後ろにいた男性は吹っ飛んだ
彼を蹴り倒したのは黒く手入れされた革靴

「なんだテメェ!」
「彼女を置いていきなさい。そうすればこれ以上は何もいたしません」
「ふざけるな、ころ「早くしろぶち抜くぞ」

車内から私は放り出された
そのまま赤い物体は逃げるように去っていく
パン!と頬に痛みが走った

「何をなさっているのですか!あんな男についていくだなんて、っクダリがいるでしょう!?どうして、」
「…誰もいません」
「あれはクダリの嘘です、少し酔っていた時の癖でございます!あの馬鹿が貴女様を嫌いになどなるはずが」
「私は2人に要らないと言われたんです」

ノボリさん
私はあなたの残酷な優しさが好きで嫌いです
こっ酷く捨ててくれと頼んで、律儀にそうしてくれたのに
何故今あなたは私を助けて悲痛な声で叫ぶんですか
最後まで貫き通してください

「期待、させないでください…要らないなら、放っておいて。本当は裏で笑っていたんでしょう、落ちない女は楽しかったですか、面白かったですか。酷く滑稽だったでしょう、まるでピエロです。もう役目は終わりました。ノボリさんにもクダリさんにも要らないと言われたんです。何が大丈夫なんですか、大丈夫って一体何ですか」
「…そんな、もしかして、」
「もう誰も私を愛してなんて、いないんです」

言葉を言い終わらないうちにノボリさんが私を抱き締めた
足も腕も胸も背中も心も何もかも痛い
あなたの優しさが嫌い、大嫌い

「ノボリ…?」

足音と一緒にクダリさんの声がした
抱き締める彼を見て目を開き、そしてすぐに笑った

「なんだ!あんなこと言っといて、やっぱりそうじゃん。キロよかったね、ノボリと結婚できるよ!コレで家族になれるね」
「くっくだり、やめなさい」
「何で?ノボリもよかったじゃん。あ、ぼくのことなら気にしなくていいよ、愛してるのはあっちだし要らないから遠慮しなくて「クダリッ!!」

ノボリさんが大声を出すから驚いた
私から離れて胸倉を掴み、コンクリートの地面に押し倒す
背中を強打してクダリさんが呻いた

「クダリ、ききなさい。わたくし達は謀られていたのです」
「は…っ?何言ってんの、ノボリ」
「…キロ、どうか、どうかもう一度だけわたくし達の言葉を聞いてくださいまし」

馬乗りのまま私に向かってそう言った
さよならの挨拶はもう済んだので何も聞くことはありません
立ち上がって2人を見下ろした

「結構です。終わったことですから、2人ともさよなら、ありがとうございました」
「え……っあれ、なんで…待って、違うこれじゃ、キロ、違う…!」

歩こうとして脚が上手く動かない
ノボリさんを退けたクダリさんが私の右足に縋っていた
無理矢理踏み出そうとしてこける
倒れた私にクダリさんは這いずりながら寄ってきた

「お願いノボリと、ノボリと結婚してよ。ぼくのこと嫌いになっていいよ、だから、どっか行かないで」
「……」
「何か言って。ぼくを罵っていいから、蔑んでいいから、だからノボリと…キロ、ねえ…っ」

ぼたぼたと顔に涙が落ちてくる
何でこの人は泣いているんだろう
泣きたいのは私です。泣かせたのはあなた達じゃないですか
クダリさんのそれと混じって目尻から涙が流れた
気付けばノボリさんもやってきて、私の手を取り泣いていた

「許してくださいなど、と、都合のよいことは言いません…ですが、クダリだけは、」
「ぼくなんていい。違う、ノボリが、」
「…私のことは何も考えてくれないのですか」

泣き声が私のものだけになった
とられていない腕で目元を隠す
口角は下がる一方で声は明らか震えていた

「2人が何かあったことぐらい、わかります。でも、お互いのことばかり、私は…私は要りますか。私の幸せは無視されるのですか。2人と一緒にいたいと思うのは、ダメなんですか…?」

どちらかが欠けたらダメなんです
とても我儘だけど両方いてほしいと願ってしまう
私のことをまだ想ってくれているならば、だったら不毛な争いはやめて
覆っていた腕を取られて抱き起こされる

「うん、うん…ごめんねキロ、ほんとにごめんね…」
「信じてもらえないかも、しれませんが…愛しているのは貴女様だけ、です」
「殴っていいよ、怒っていいよ。好き、大好き、愛してる」

普通なら信じられないと喚くだろう
だけど不思議と素直に受け入れられて私は無言のまま涙を流した
沢山泣いて泣いて、疲れた私は眠りに落ちた
ふわふわ漂う意識の中誰かが傍で話している

「バカだったね」
「本当に愚かでした」
「―――たら、どうする?」
「…キロさえ良いと言えば、―――しましょうか」
「起きたら―――しなきゃね」
「ええ、頑張りましょう」

私の髪を撫でる手は、いつもの


「キロ、愛して――」


工具全部買い換えてくれるまで、許してなんかあげませんから










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