水を滴り散らして帰ってきた3人にサーナイトがタオルを沢山渡し、レディーファーストでキロが1番に入る
リビングや廊下を濡らすわけにはいかないので庭で佇み待つ

「…Bまで?」
「っクダリ、あまりそういうのは」
「挿れる挿れない大事。キロって処女かなぁ…」

タオルで髪を絞りながらクダリは疑問を口にする
キロはキスぐらいじゃ何も反応しない
避ける素振りは見せるものの、誰かにされたからといって特別気にしている節はない
つまりノボリにされた時点でファーストキスでないことはわかる
首を傾げる弟に顔を赤らめながらノボリは顔を拭いた

「素股はダメとかフェラはいいとか、もう表が欲しい」
「ですから人様の家で危険な発言はお止めくださいまし。大体あっても守りませんでしょう」
「キロとなら守る。ちゃんと大切にしたい」
「とりあえず破らないなら好きにしてください」
「本当?ならよか、」

全然良くない。と固まった
サッとシャワーを浴びただけなのか思ったより早くキロは出てきていた
どこから聞かれていたのか分からないが、表の辺りでは既に居たものと考えられる
さり気に会話に紛れ込んできた彼女はこれまたさり気に自分が処女だと明かした
縁側に腰掛けて硬直する双子を眺める

「お付き合いしたのは2人でどちらもキス止まりです。一応証拠とかあり「わわわかりましたから、後生ですからおやめくださいましいいいい」

素直に喜びきれないのは彼女の所為だろう
淡々と警察の状況整理のように述べていく様は誰でも半泣きになりそうだった
両親が聞いていたら半泣きどころか全力で嘆き散らかしている
その後クダリ、ノボリの順でシャワーを浴びて気付けば昼近くになっていた

海で動いたためか少し身体が気だるい
リビングで寝転がるクダリ達にサーナイトが冷やしうどんを用意した
キロは庭に出てポケモンの様子を見ている
一声かけてから先に2人で箸を進めた

「処女…」

発したのはノボリだった
驚いたクダリが彼を見れば何かスイッチが入ったのかぶつぶつ呟いている
双子といえど性的嗜好までは一致していない
脳内で何を考えているかわからないが好みは一応知っている
ノボリは花を飛ばす勢いで顔を輝かせた

「セーラー服など「変態ダメー」

うどんをちゅるんと吸って発言を食い止める
制服の何がいけないのかどこが素晴らしいかを熱弁するノボリの後ろをキロが通りすがった
テンションが高い彼は珍しいがこれには加わってはいけないと判断したらしく、一切そちらを見ずに冷蔵庫から冷えたウーロン茶を取り出し戻ってくる
キロの存在に気付いたノボリが彼女の身体を上から下まで見つめる
何か言おうと口を開いた兄に向かってクダリはウーロン茶を流し込ませた

「…食卓で暴れないでください」
「えへへ」

笑って誤魔化しつつも茶を飲ませ続ける
正気に戻ったのかグラスを持つ手が叩かれたが最後の1滴まで綺麗に注ぎ込んだ
呆れながらキロはうどんを啜る
半分程食べたところで玄関のチャイムが鳴った
いつものようにサーナイトが先に向かい後をキロが追う

「あれ君見かけないね…サオリさんいるかな?」
「ポォォォゥ」

聞き覚えのある男の声にキロは立ち止まりそっと陰から覗きこむ
母親の名前を知っているあたり仕事関係の人間だろうか
サーナイトが首を横に振り不在を伝えると弱ったように男性は溜息を吐いた

「今日伺いますって連絡したんだけどなぁ…」
「あ…ダイゴお兄ちゃん」

肩を落とす男性におずおずとキロが懐かしい呼び名を告げた
顔をあげた彼の瞳が輝き大きく両手を伸ばして抱き締める

「キロちゃん!久しぶりだね、大きくなって!」
「お久しぶりです」

両親の仕事は何もロケットについてだけではない
隕石や宇宙学を用いてそれを他社と提携し何かしらの商品を作ることもある
その取引先のひとつにはデボンコーポレーションも含まれており、ダイゴとは幼い頃から面識があった
しかし彼の自宅は会社のあるカナズミのはず

「どうしてトクサネに」
「隕石をサオリさんがくれるって言うから来たんだ。それとは別に僕の家は今此処にあって」
「そうですか。ちょっと母に連絡とってみます」

普段は記憶力の良い母親だが徹夜時は朦朧としたまま約束をする所為でこういうことがしばしば起こる
ダイゴをリビングで待っていてほしいと家にあげた
ちょうど食べ終えた双子が待つ扉をダイゴが開ける

「…キロちゃん、お客さんいらしてるよ」
「あ。すみません仕事場の上司ですのでお気になさらないでください」
「これは…ホウエン地方のポケモンリーグ元チャンピオン、ダイゴ様ではございませんか」

チャンピオンという単語にキロの動きが止まった
必死に思い返してみても、いつも何かしらの石を持って自分に熱心に語りかけていた光景しか浮かばない
ノボリの説明を交えた言葉を聞いてダイゴはにっこり微笑んだ

「初めましてダイゴです。サブウェイマスターのノボリさんとクダリさんですよね」
「ご存知いただけて光栄でございます。わたくしがノボリです」
「ぼくクダリ。よろしく」

よく知っているなと感心しつつキロはポケナビを取り出し母親に連絡した
ダイゴが来ている旨を伝えると悲鳴があがる
自分の部屋にある保管庫の上から3つ目の隕石を渡してほしいと頼まれた
言伝通り取り出してきた隕石をダイゴに差し出す

「これは凄い!本当に僕が貰っていいのかな!」
「母がそれだと言っているので間違いないと思います」

既に通話は切れているが他と取り間違えてはいない
キロが頷けばダイゴの瞳はより輝きを増した
生憎とその隕石の価値がどれほどのものなのかキロには理解できないが、嬉しいことだけは十分伝わってくる
丁寧に鞄にしまわれ彼女の両手を取りぎゅっと握る

「ありがとう!サオリさんにもまた改めて御礼をさせてほしい」
「宇宙センターに行けばいますよ。会えるかは微妙ですが…」

顔を接近させて会話する2人
それを見ていたノボリは隣にいるクダリに目を向けた
兄の視線に気付いたクダリがわざとらしく頬を膨らませる
どうやら本気で嫉妬はしていないようだ

「それにしてもキロちゃんも綺麗になったね」

さらっと口説き文句が紡がれる
笑顔の奥にある本心が読み取れず、キロは曖昧な返事をした
顔立ちそのものはあまり変わっていないもののダイゴの方こそ知らぬ間にチャンピオンになっていたのだから、そちらの方が驚きである
今は辞めて石探しに夢中だというが月日の流れは恐ろしい
デボンコーポレーションで父親、社長の仕事も手伝い副社長の位置にいるそうだ

「昔みたいに普通に呼んでくれたっていいんだよ」
「恥ずかしいです。あの頃は貴方が社長の息子だって知らなかったんですから」
「ダイゴおにーちゃーんまってー、とか」
「やめてください」

裏声でからかえばキロは頬を少し染めた
昔話をしている間に徐々に記憶は蘇ってきたようだ
クチートを初めて見た時泣いてしまったことも暴露される
脳内で幼い彼女が泣く姿を想像してノボリは口許を押さえた

「ノボリさん笑っていませんか」
「いえ、まさか笑ってなど…っ」
「可愛い。この間クチートで驚かせたキロがクチートに泣かされたとか、見たい」

ノボリとクダリまでもがからかいに参加してきた
唇を少し尖らせて、キロはお茶を淹れてくると逃げるようにリビングから去る
残った3人でのんびり会話しているとダイゴが不意に2人をじっと見つめ始めた
黒と白のズボンで見分けはつくものの顔立ちは同じな為、その差でも探してるのかと思えば違った

「いかがなされましたか?」
「ああ、いや。キロちゃん好み変わったなぁと思いまして」
「キロ好みあったんだ」
「トレインは旧型車両がお好きですよ」
「ポケモンは何でも使う。でも水タイプちょっと多め」
「故郷が海に囲まれているからでしょうか?」
「いやいや人の好みの話です」

子供の頃から少し大人びていて口数の少ない少女だったキロは、決まって年上の笑顔が綺麗な男性に頬を赤らめることが多かった
対等に見ているようで子供扱いされる感覚
自分が何か言わなくても分かってくれる安堵感
年上といっても1つ違えば充分だったらしく、それほどかわらないダイゴにも結構懐いていた

「そういえばお兄ちゃんと…」
「暗くなれば手を繋いで帰りましたよ。ダイゴおにいちゃん、またあしたね。なんてもう本当に可愛くて」
「だからやめてくださいって」
「ぼくもノボリも年上。おにいちゃん言っていいよ!」
「紅茶で良かったですね」

普段ならコーヒーとどちらが良いか聞いてくれるのだが問答無用で紅茶を並べられた
自分が覚えていない過去を語る人間は、総じて面倒だとキロは溜息を吐く








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