「…ノボリ、寝た?」
「この状況下で寝れるのでしたら勇者でございます」
「うん…キロは眠ったけど」

横になっていたクダリが小声で同じ布団にいるノボリに話しかける
暗闇の中互いに顔を見合わせ溜息を吐いた
3人一緒に布団が用意された時、2人とも心中ではかなり動揺していた
だがそれを表情に出してはまた彼女に呆れられると思い必死に隠し通していたのに、逆にキロの方が珍しく表情に現していた
真っ赤になったキロを見て更に動揺したのは言うまでもない

「布団もういっこあって良かった」
「無かったら死んでおりました」
「うー…ずるい、あの場面であの顔は、ずるい」

好きという感情と付き合うという行為は別物
キロは確かにそう言ったのに、時が経つに連れ当初では考えられないほど2人に優しくなっている
勿論彼女の中にある謎の拘りは持ち続けられ飴と鞭を使い分けられている感は否めない
それでも10:0ぐらいだったクーデレが、8:2程にまではなっている

「我慢。がまん、ガマン…」
「最早此処は天国か地獄か、暴走列車にわたくしはなりたいです」
「ダメ、連結とか許さない」

年頃の男女が1つの部屋にいれられて何事もなく夜を明かせるはずがない
だが此処で理性の糸を切らしたら最後、キロは一切の感情を放棄するだろう
本人がそれを気にしている素振りはないが襲われかけたことだってあるのだ
あんな男と同じには、死んでもなりたくない

「ですがハブネークの生殺し…」
「ザングースを蹴散らして…ノボリ頑張れ、あと7時間くらい」
「わたくしが危なくなったら殴って気絶させてくださいまし」
「ぼくだって気を失いたい。先にぼくをやって」
「いいえ、わたくしが先で、ひぁっ!」

不毛な争いを続けているとノボリが悲鳴をあげた
驚いたクダリが必死に目を凝らすと、何かがノボリに覆い被さっている
起き上がって腕を伸ばせば掌が柔らかく温かいものに当たった

「っ、キロ…?」
「ま、まさか」

恐ろしくてノボリは顔も身体も動かせない
もう1度覆い被さる物体に触れると、ノボリの耳元で微かな声が聞こえた
紛れもなく彼女のものだった
視線で早く退けてくれと頼む兄に頷いてクダリは引き離そうと肩に手を置き力を込める

「ん、ゃ…っ」
「くっくだ、り、ストップ、」

引き離そうとすればするほど足や腕が絡んでくる
掛け布団越しとはいえ心臓及びその他諸々に悪影響だ
豆電球の微かな光が浴衣からはみ出た白い足を浮かび上がらせる
クダリの喉元が、ごくん、と音を立てた

「うぁ、っキロ起きて。ねぇ、早く」

理性を保たせている間にお願いだから
2人の願いが聞き届けられたのか、キロはゆっくり目を開いた
引っ付いていたノボリから身体を離し上半身を起こす
ほっとしたのも束の間、クダリに真正面から抱きついた
首筋に吐息がかかりぞわぞわと背筋を這う
おまけに下半身はノボリの上に乗ったままだ

硬直するクダリを余所にキロが首筋から顔をあげる
無言のまま見つめ合い、蒼い瞳が捉えて離さない
それがどんどん近寄ってきて頬同士をくっ付け擦り寄った
行く当てのないクダリの両手が必死に何かと戦っている

「ま、負けてはなりません、よ、クダリ」
「わか…ってる。うん、平気、だいじょう、ぶ」

弟を叱咤しつつも自身もやばい
彼女が乗りかかっているのはちょうど自分の股間周辺
微かな振動ですら、効果は抜群だ

クダリはとりあえず視界からシャットダウンしようと目を瞑った
女性に迫られた経験は幾度もある
乗った時もあれば上手くかわした時もある
そう、だからこれぐらいの誘い簡単にいなせる

気を持ち直してクダリは引き剥がそうと目を開けた
途端眼前に広がるキロの綺麗に開いた鎖骨と胸元
もう少し肌蹴ればその先まで見えそうだ

「あ、無理」
「ちょっ、クダリ!」

あっさりと宣言をした弟に驚きの声があがるも、それを聞き流してぎゅっとキロを抱き締めた
小さな身体は逃げも怯えもせず今度は胸板に頭をすり寄せる
必然的に突き出された形となる尻に、クダリの手が伸び柔らかいそれに触れた
もう形振り構っていられないとノボリが慌てて起き上がりその手を掴む

「気を確かに持ちなさい!」
「ハッ、…あっ、えっと」
「貴女様も寝ぼけているとはいえこれ以上は、」

蒼い瞳がじっとノボリを見つめる
妖しく光るそれに魅入られたかのように目が離せない
クダリに抱きついていた腕がノボリに向かって伸び、あろうことか胸元に抱き寄せた
そこに顔を埋めたままよしよしと頭を撫でられる

「――――!」

やばい、とクダリが口角を引くつかせた
普段真面目な分、壊れると厄介なのがノボリである
しかもそのスイッチがどこで入るかは本人すらわかっていない
だがこの状況では入らないほうがありえない

「ノボリ、だ「っ、キロ!!」

夜間だが大声で彼女を呼んだ
胸に埋もれていたためくぐもっていたが、それでもちゃんとキロには届いたらしい
腕の力が弱まって1度瞳が閉じられ次の瞬間にはぱっちりと開いた
そして自分の行動をぼーっと見つめる
1分程経って声にならない声でキロが叫びノボリを解放して部屋の隅まで離れた

「の、ノボリ偉い!」
「鼻血とか出ておりませんか…?」
「出てるけど、偉い!」

ティッシュを手渡しながらクダリはひたすら褒めちぎる
よくぞあそこで耐えたものだ
実際には鼻血を出していて完全に耐えたとは言い難いが、押し倒して最後までなんていうことにはならなかった
充分賞賛に値する行為だ
ノボリの鼻血がようやく止まって、キロがおずおずと2人の布団に近寄ってきた
暗闇でも分かるほどに顔を真っ赤にして深々と頭を下げた

「その、あの…す、すみません、でした…」

言い訳できるならば、とキロは訥々と語る
ポケモンと一緒に生活しているが基本的には一人暮らし
寂しいこともあり、幼少から一緒に育ってきたサーナイトやゲンガ―達に今でも時折添い寝を頼むことがあるとか
ホウエンという故郷に帰ってきて気が緩んでいたため、2人をポケモンと見間違えて擦り寄ってしまった
諌めるのはサーナイトによく似ていたし、誰かに構っている時に寄ってくるのはゲンガ―やアブソルにそっくりだったという

「本当に、すみません…」

震えながら何度も頭を下げる
普段何事にも淡々と関している自分の稚拙な一面を見せてしまい恥ずかしいのか、それとも故意ではないとはいえ破廉恥行為を働いてしまった罪悪感か、或いはその両方が相俟ってかキロの瞳にはうっすら涙さえ見えた
ノボリとクダリは顔を見合わせ互いに頷いた

「キロ、ぼく達怒ってない。大丈夫」
「疲れていらっしゃるのでしょう。明日も早いことですし、布団にお戻りくださいまし」
「はい…」

落ち込んでるようにすら見える顔でキロは促されるままに布団に戻る
双子も再度仲良く布団に潜り込み、掛け布団を頭まで被ってひそひそと小声で談議を始めた

「心臓に悪い」
「自分を褒めてやりたいです」
「キロ絶対出張とかダメ」
「整備士ですからそれは少ないでしょうが、泊り込みは危険ですね」
「…ところでノボリ、ぼく、トイレ行っていい?」
「…わたくしも後で行きますので、電気は点けたままでお願いします」

アレで反応しないのは不能者か同性愛者くらいだ
そう思いながらクダリはこっそり部屋から抜け出した
何もかもが身体に悪いと悩みつつ、ラッキースケベにほんのり心躍らせた








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