お次はノボリが見たいと言っていたポケモンコンテスト
ミュージカルとの相違点を伝えチケットを買い客席へ腰をおろす

今回は美しさを競うコンテスト。1次審査は単純に見目のみで競われる
舞台袖から現れたのはミロカロス、マッスグマ、ペリッパー、カクレオン
ぱっと見ただけではミロカロスが1番麗しく高得点に見えた
だが表示された中で好成績だったのは2番手に控えるマッスグマ

「あれ、なんで?」
「単純にうつくしさだからそこだけ上げれば良いってもんじゃないです。うつくしさの審査にはかっこよさとかわいさが影響しますし、けづやも考慮されます。そういった点でマッスグマの方が上と判断されたわけです」

クダリが買っていたホウエンのガイドブックを眺めながらキロが淡々と説明する
彼女自身はコンテストにさほど興味がないようだが、母親が出ていたこともあり知識は多少持ち合わせているようだ
マップと町の説明を見てキロは月日の流れは恐ろしいと溜息を吐いた
各地にあったコンテスト会場は、此処ミナモを覗いてバトルテントというものに変わってしまったらしい
故郷の繁栄に喜ぶべきか少し寂しく思うべきか

わあっと観客が盛大に湧く
ガイドブックから顔を上げるとミロカロスが艶やかになみのりを繰り広げていた
きらきら水飛沫が幻想的な空間を織り成す

「これは…ミュージカルとはまた違った良さがございますね…!」

ノボリの瞳が水泡とライトによって煌く
ただ単純にアピールするだけではない
妨害したり、時には蹴落としたり、多少汚い部分も垣間見える
だからこそそれらを乗り越え頂上に輝く姿に心奪われる
キロは歓声に耳を傾け瞳を閉じた

「実に良いコンテストでした…わたくしこの感動をどう表現したら良いか分かりませんが、ともかく何かお伝えしないと気が済みません」
「ミュージカルみたいに話しかけられないの?」
「普通に出場者その辺にいますから、見つけて掛けてくればどうですか」
「では少し行って参ります!」

颯爽と出場者の面々に話し掛けにいく
その間キロはクダリと一緒にロビーで待っていた
脇に設置されているポロックを作る機械をクダリが見つけ覗き込む
ちょうど子供達が4人集まり木の実からポロックを作っていた
手元のボタンでタイミングを合わせて押していくようだ

「なあに?お兄ちゃんもしたいのー?」
「うん、交ぜて」
「いいけど木の実あんのかよー」

先程デパートで貰った木の実を取り出し女の子と入れ替わる
キロも近くに寄り懐かしいそれを眺める
集中している所為か無言でクダリはボタンを押し続ける
初心者にしてはなかなかの好成績を残し、木の実は金色のポロックとなって返ってきた

「すごい金色だよキロ!」
「おめでとうございます」
「お姉ちゃんもする?」
「…じゃあ少しだけ」

キャリーから取り出した木の実ケースとポロックケースを確認する
足りない色と味を考えてフィラの実をいれた
子供達が真剣に画面を見る中、キロは淡々といつも通りこなしていく
手元に矢印が来た瞬間ボタンは小刻みに連打された
出来上がったポロックを受け取る

「すげー!姉ちゃん速いし、上手い!」
「今度おしえてっ」
「皆の方がすぐに上手になるよ」

親に呼ばれて子供達が去っていく
今しがた出来たポロックをキロは自分で齧った
自分が食べた時にはポケモン用だと諌めたのに、とクダリが驚く

「…辛い」
「水、要る?」
「いえ…これ失敗したかな…」

もぐもぐ食べ進めてついには無くなった
ちょうど良いタイミングでノボリが戻る
気持ちを伝えに行ったはずが、何故か物を貰って帰ってきた
珍しい木の実からポロックケース、おいしいみずなどが腕に抱えられている

「物乞い」
「おやめくださいまし。イッシュから来たと伝えたらいただきまして…」
「…やっぱりこれ貰いますね」

ノボリの腕からおいしいみずを取ってキロが飲み干す
首を傾げる兄と違って、クダリはけらけら笑った

「我慢しなくてもいいのに」
「いけると思っただけです」
「わたくしの預かり知らぬ間に何が?」
「後で教える!」
「どうでもいいことですよ」

談笑しながらコンテスト会場を出た
外はすっかり暗くなっており、夜空に満天の星空が広がる
いつも明るいライモンシティと違い明かりが少ないミナモシティでは星の輝きがよく見える
精一杯見上げる彼らと一緒に懐かしい星空を見つめ、キロはハッと我に返った

「時間…!」

腕時計を見れば22時10分
出航まで20分しかない
急いで走り出す3人が船着場に辿り着くと船員が不思議そうな顔で此方を見た

「あの、トクサネ行きの」
「それなら15分前に出たよ」
「え…!」

そんなはずは、とキロが食い下がる一方でノボリは船の時刻表を眺める
最終便は22時ちょうどにミナモを出ると書いてあった
時刻表の欄外にはつい先日改定したと記載してある

「どうやら変更されたようですね」
「あ…すみません…」
「いやいやごめんな。平日はちょっと早めてなぁ」

キャリーに気付いた船員が申し訳なさそうに謝る
きちんとガイドブックを隅まで確認すべきだったとキロは肩を落とした
落ち込む彼女の頭をクダリが優しく撫でる

「1日伸びちゃったけど、今日楽しかったしオッケー」
「近くに民宿があるそうですから本日はそちらに泊まりましょう」

明日朝一番のトクサネ行き船の時刻を確認してから民宿へ行く
部屋はいくつか空いていたが、またカードを取り出そうとした2人に慌ててキロは1部屋でいいと伝えた
元々休暇自体が有給扱いで給料が出るのに、会長は更に旅費としていくらか包んでくれたのだ
とはいえそれは自分の手持ちが無くなった時のあくまでも最終手段として考えていたため、あまり無駄に使いたくない
そう思いキロは申し出たのだが、何を勘違いしたのか女将はにんまり笑って頷いた

「どうぞお待たせしました。此方をお使いくださいな」

民宿であるから自分達で布団の上げ下げを行う
はずが、既に綺麗にセットされていた
ご丁寧に大きな物が用意され枕が3つ並んでいる
女将が去った後キロは思わず枕元にあったティッシュ箱を軽く蹴り飛ばした

「襖に当たれば破れてしまいますよ」
「うぁー!お風呂入りたい。なんか、べとべと」
「潮風に当たったからでしょう。ああ、お先にどうぞ」
「…っ、ぁ、はい…」

平然とする2人にキロはかあっと頬を染めた
意識していたのが自分だけだと分かり、急いで風呂場へ向かう
共有スペースであるため札を使用中にひっくり返しシャワーを頭から浴びた
冷たい水が徐々にお湯へと変わっていく

「少し、落ち着こう」

湯船には浸からず髪と身体を洗いあがる
飛び込みで来たことを考慮してかバスタオルと浴衣が用意されていた
有難くそれを使いキロは部屋に戻る
夜遅いためドライヤーを使うのは憚られ、髪を纏め上げタオルで包み込む

「上がりました」
「あ、ぼく入る」

布団はもう1組用意されて少し離れた位置に置かれていた
クダリが風呂へ向かい暫くしてノボリも交代で入る
民宿の質素な浴衣も2人が着れば様になっていた
網戸から吹き込む夜風に当たりながら、キロはボールからチリーンを出す

「チリィーン」
「此処がミナモ。あなたの居た場所から少し離れた所」

真っ暗闇の向こうで灯台が海を照らしている
興味津々で窓の外を眺めるチリーンを横目にキロはポニーテールにした
壁にかかっている時計は12時に差しかかろうとしている
電気を消してそれぞれ布団に入った
ポケモン達がいるボールを枕元に置いてキロも眠る
数分もしないうちに健やかな寝息が立った








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