『再び加速するその時まで、各駅停車に切り替わります。お客様のまたのご乗車心よりお待ちしております』

モニターに映るキロが制帽のつばに手をかけ言い放つ
トリプルトレイン運行開始から3日目
初日にミーハーな挑戦者を粗方屈服させてたため、乗車人数は日に20組ほどまで減ったが最終車両まで辿り着く割合が高くなってきた
たった今倒した挑戦者で今日は既に5組が21両目まで来ている
向こう側もトリプルバトルに慣れてきたらしく、しかも元々廃人であるためただの鉄道員やトレーナーでは食い止めることが難しくなってきた
それでも皆最終まで行かせまいと奮闘する
理由は誰が見ても分かるほどに、白黒双子が疲れてきているからだ

「…これどうぞ」
「ありがとうございます」
「わーいミックスオレー」

2人とも若干棒読みでキロが差し出した飲み物を受け取る
無理もない。彼女はトリプルのみ乗ればいいが、2人は他のトレインの挑戦者も受けている
書類業務も最後はやはりサブウェイマスターの判子がないと通せない
バトルそのものは楽しいからか決して"疲れた"と言わないことが余計周りを不安にさせた

『クダリボス…あの、挑戦者です…』
『ノボリさんシングルのレールに行きました』

カズマサとトトメスが無線で躊躇いがちに、申し訳なさそうに呼びかける
缶の半分も飲みきらず2人はそれぞれのホームへ向かう
キロは手の中にある自分のサイコソーダをぎゅっと握り締めた
どうしようもないと分かっていても、何かしなければ気が済まない
このままでは1週間と持たずに倒れてしまう

「オー、キロチャン精ガ出ルネ」
「また呪いの手紙ですか」
「ウン。要ル?オレニ何故カ皆渡シテクル」
「他の方だと私まで来ないからでしょう」

実際キャメロンぐらいしかキロ本人に渡さない
何度か見覚えのない自分宛の手紙がシュレッダーにかけられているのをキロは目撃している
彼だけが律儀に当人に渡す
そこに何の感情が含まれているかキロは考えない
悪意があろうとなかろうと、この手紙よりはマシだからだ

慣れた手付きで手紙を開き恒例となったカッターの刃や針を避けて目を通す
嫌がらせの手紙すら見る変わり者を、キャメロンはどこか楽しそうに眺めていた
するとサッとキロの表情が蒼くなる
どんな内容であっても変わらなかった顔が見るからに青褪めていてキャメロンは首を傾げた

「ンン?ドウシタ?」
「いえ、…気持ち悪い画像が貼り付けられていただけです」
「フーン…?」

それぐらいで顔面蒼白になるとは思えなかったが言及はしなかった
シュレッダーをかけにキロは執務室へ足を速める
少々乱暴に扉を開けて一目散にとある手紙を押し込んだ

「―――ッ、はぁ、…」

逸る心臓を落ち着かせるように胸元を握り締める
嫌な汗が大量に吹き出て皮膚にじんわり纏わりついた
引き裂かれた手紙には、キロへ向けられた言葉が踊っていた
誹謗中傷罵詈雑言ではなく重苦しく吐き気がするほどの愛の言葉
今朝目覚めてからトレインに乗り込むまでの行動が細やかに、食べた物、欠伸の回数、眉を寄せた瞬間、下着の色、シャンプーの香りなどがびっしりと書かれている
盗撮された自身の写真で作られたコラージュもご丁寧に同封されていた

「……」

視線はずっと感じていた
自分が注目され始めた頃から何かがずっと見ている感覚はあった
手紙が届くようになったのは初日の夜から
可愛らしいピンクや黄色い封筒に入れられて日に10通ほど
キャメロンからの手渡しもあればキロのロッカーに入っていたり、時には彼女がたまたま外していた手袋に添えられていることもあった
隙あらば手紙は届き一方的な愛をぶつけてくる
最初はただの可愛いや好きといった稚拙な言葉が、徐々にまるで観察日記のようにキロの生態が描かれていくようになった

立派なストーカーに仕上がった手紙の主が今も自分を見ている気がする
何を聞かれているか見られているか分からず、キロは独り言を呟かなくなり元々少ない感情の起伏を更に減らす
本来なら相談するべき事柄だったが誰にも言えなかった
12歳で単身イッシュにやってきて、何年も1人で頑張ることを覚えた彼女に今更誰かを簡単に頼ることは難しい
まだ普段通りだったなら言えたかもしれない
しかし自分より疲労している2人や、それを補佐しようと必死に走り回る人達に自分如きが迷惑をかけるわけにはいかなかった

何とかなる。どうにかできる
いざとなれば警察に駆け込めばいい
ポケモン達だって傍にいる
キロはそう自分に言い聞かせ過ごし続ける








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